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呼吸器感染症よもやま話(26)

[第26回]Mycobacterium属の分類の混乱?

倉原 優 くらはら ゆう
国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科

(初出:J-IDEO Vol.5 No.3 2021年5月 刊行)

マイコバクテロイデス? マイコリシバクテリウム?

 Mycobacterium属とは,Ziehl-Neelsen法で赤く染まる細菌ですが,そもそもは染まりにくい微生物です.しかも,いったん染まってしまうと,酸,アルカリ,アルコールなどで簡単に脱色できないため,“酸にあらがう”ということで抗酸菌という名前がついています.「胃酸のなかでも生きていけるから」という解釈は間違いではないですが,本来の抗酸菌という名前の由来ではありません.
 分類としては結核菌,非結核性抗酸菌,らい菌の3つに分類されます.従来の結核菌としてM. africanum,M. bovis,M. microti,M. caprae,M. pinnipediiがありましたが,すべて1つの結核菌としてM. tuberculosisに統一されました.いやあ,これでわかりやすくなりました.
 2018年,Guptaらがゲノム配列が決定されていたMycobacterium属150種類についてゲノム情報よりアノテーションされたタンパクの情報から系統樹を作成して,Mycobacterium属が5つに分類されると報告しました【1】.共通するタンパクとインデルによって分類され,迅速発育菌として位置づけられていたM. abscessus,M. massiliense,M. bolletii,M. chelonaeがMycobacteriumからMycobacteroidesに,M. fortuitum,M. peregrinum,M. flavescensがMycobacteriumからMycolicibacteriumに,そして遅発育菌であるM. terraeがMycobacteriumからMycolicibacterに,M. trivialeがMycobacteriumからMycolicibacillusに変わったというのです.当時,マジ勘弁してくださいというくらい,わかりにくかったのを覚えています.

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