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基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(33)

[第33回]Pseudomonas aeruginosaの臨床像と耐性機構③

西村 翔 にしむらしょう
神戸大学医学部附属病院感染症内科

(初出:J-IDEO Vol.6 No.4 2022年7月 刊行)

前回に引き続いてP. aeruginosaでのβ-ラクタム系への耐性機構についてみていきます.今回は排出ポンプefflux pumpです.排出ポンプに関しては,β-ラクタム系以外にも多数の抗菌薬の耐性に関与しますので,ここでまとめて解説してしまいます.

P. aeruginosaの内因性排出ポンプとは?

Enterobacteralesと比較してP. aeruginosaが複数のクラスの抗菌薬に内因性耐性を示すその決定的な要因は,外膜透過性の低さと多剤耐性の排出ポンプにあります.
 細菌の発現する多剤排出ポンプには6種類(ATP-binding cassette:ABC,the major facilitator superfamily:MFS,multidrug and toxic compound extrusion:MATE,small multidrug resistance:SMR,the resistance-nodulation-division:RND,proteobacterial antimicrobial compound efflux:PACE)のファミリーがありますが,そのなかでP. aeruginosaが内因性に発現するのはRND系の排出ポンプです.排出ポンプは通常,細胞膜に存在しますが,RND系ではペリプラズム空間のmembrane fusion protein:MFP(またはadaptor proteinとも呼ばれます),外膜チャンネルouter membrane channel:OMCとの3部構造となっており[図1]【1】,この構造によって細胞膜から外膜まで貫通することで,細胞質内(およびペリプラズム空間)の物質を細胞外に排出することが可能となります【2】.P. aeruginosaの発現するRND系排出ポンプにはMexAB-OprM(前部のMexABが排出ポンプとMFPで,OprMはOMCです,以下同様),MexXY-OprM/OprA,MexCD-OprJ,MexEF-OprNの4つの主要な型に加えて,MexJK-OprM/OpmH,MexMN-OprM,MexPQ-OpmE,MexVW-OprM,MuxABC-OpmB,MexGHI-OpmD,TriABC-OpmH,CzcCBAの少なくとも計12種類の排出ポンプが確認されています【3】.以下ではこれらの排出ポンプの特性を解説します.


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