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基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(25)

[第25回]分類もβ-ラクタマーゼもややこしいBurkholderia cepacia complexのハナシ

西村 翔 にしむら しょう
神戸大学医学部附属病院感染症内科

(初出:J-IDEO Vol.5 No.2 2021年3月 刊行)

 前回はElizabethkingia spp. について解説しました.今回は次なるマイナーキャラ非発酵菌,Burkholderia cepacia complexです.

┃Burkholderia cepacia complex(BCC)の分類

 BCCは好気性,カタラーゼ陽性,オキシダーゼ陽性のグラム陰性桿菌で,complexという名の通り,生化学的(=表現型)検査ではよく似た性状を示しても,16SrRNAおよびrecAのシークエンス(遺伝子検査)では明確に異なった菌種の集合体です【1】.アメリカの植物病理学者であるWalter H. Burkholderが,タマネギが腐敗する際の原因菌として1949年に発見し,その菌種に“cepacia”(注;cepaはラテン語でタマネギのことで,cepaciaはタマネギのような,という意味です)という名を付けたのがBCCの起源です【2】.当初はPseudomonas属に分類されていましたが,1992年にBurkholderia属が確立され,Burkholderia cepaciaとなりました【3】.その後B. cepaciaの分離株間での遺伝子レベルでのheterogeneityが指摘されるようになり,1996~97年に,“系統発生学的には分類可能であるが表現型では分類不可能である”,という意味を持つgenomovarという概念に基づいてgenomovar Ⅰ~Ⅴの5種類に分類され【4,5】,それらはまとめてBurk-holderia cepacia complexと称されるようになりました.Genomovarによる分類は最終的にⅩまで拡大します【6】が,以降も続々と新種が同定され,2020年10月31日時点で24菌種がBCCに属しています[表1]【1】.なお,MALDI-TOF MSでは属レベルの分類は可能でも,種レベルまでの分類は困難であり【8,9】,recAやhisAといったhousekeeping geneの解析をしなければ種レベルでの正確な同定は困難です【10】.

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