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微生物検査 危機一髪!(20)

[第20回]間違いだらけの生理検査の感染対策

山本 剛 やまもと ごう
神戸市立医療センター中央市民病院臨床検査技術部

(初出:J-IDEO Vol.4 No.4 2020年7月 刊行)

 臨床検査室には主に血液や尿,便といった検体を取り扱う検体検査と,心電図や超音波検査,脳波といった生態情報を検査する生理検査がある.生理検査は一般的に習熟度の低い心電図検査や呼吸機能検査から,習熟度の高い超音波検査まで幅広い検査がある.検査のサンプルは患者であり,検体検査で血液に触れるかのごとく,患者との距離が非常に近いのが特徴である.そのため,感染対策は検体検査よりも重要かつ迅速な対応が求められることが多いが,参考書で生理検査の感染対策について書かれているものを見るが網羅的に参考となるものは多く存在しない.そのため,みずからが媒介者となり感染拡大させることは医療従事者としてしてはならないことと理解しているが,日常では手探りのことが多い.今回は新型コロナウイルスの市中蔓延に伴い生理検査の感染対策の本質に迫り解説をしていく.

1.生理検査担当者は微生物が苦手な人が多いのか?

1)微生物が嫌いな学生が多い背景がある
 感染対策を担当する臨床検査技師は微生物検査の担当者であることが多い.これは検出される微生物の臨床的意義づけを行ううえでは業務に関連した形で接するため合理的である.前回も書いたが,微生物検査の担当となるのは,部長や技師長といった偉い人の命令で配属先が決まり,みずから微生物検査がしたいからという希望が通らないことが多い.生理検査,特に超音波検査は臨床検査技師の花形部門といわれ,超音波検査の達人は学生から羨望の眼差しで見られることが多い.確かに,体表から臓器を覗き臓器の状態を検査結果として反映する検査であるからその臨床的意義が高い検査であることがわかる.
 しかし,その道をきわめることは人として重要なことであるが,きわめた検査が超音波検査だから良しというものではなく,微生物検査もきわめるほど患者への付加価値が大きくなることは言うまでもない.過去にいろいろな学生と接してきたが,「就職したら生理検査がしたい」と言う学生には多く遭遇してきたが,「就職したら微生物検査がしたい」と言う学生とは遭遇する機会は少なかったのは確かである.学校教育の方法にも影響されることが多いと思うが,臨床検査技師は微生物検査が苦手である.
 眞野らの学生に対しての微生物検査の習熟度を調べた調査結果【1】の報告があるが,その内容からは講義は覚えることが多く,しかもラテン語で菌名を覚えないといけない.菌名は臨床的意義づけに利用し,菌名から感受性検査薬を治療に必要な抗菌薬に併せた形で覚えるため情報量が多い.実技は用手によるものが多く作業が細かいうえに結果値も繊細さが問われるものが多い.検査結果が翌日にならないとわからないこともあり,すぐにやり直しができない検査が多いなどの理由があげられ,リアルタイムに学習する習慣が抜け切れていない学生にとっては微生物学は苦手意識を抱くものに繋がっていると思われる.さらに就職して担当になれば喀痰や尿,膿汁,便といった3K(汚い,危険,臭い)が対象になるから,前述したように体表から臓器を覗き見する仕事のほうが幻想的でありロマンを抱く機会も多いため,微生物検査は生理検査に比べると人気度が低いことが理解できる.

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