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『慢性臓器障害の診かた、考えかた』無料公開 Part3 「慢性臓器障害の捉え方」

慢性臓器障害の診かた、考えかた』(佐藤健太 著)の刊行を記念して、本書の「第3章 慢性臓器障害の捉え方」を無料公開致します。

第3章 慢性臓器障害の捉え方

 本章では,慢性臓器障害とはどんな疾患群が含まれるのか,そしてそれらをどのように捉えどのように対応すればよいのかといった,本書のコアになる部分を解説します.

 まずは慢性臓器障害の定義や用語の設定について説明したうえで,第1 章で提示した「よくある事例」にこれら慢性臓器障害のフレームを適応するとどのように臨床経過が変わりうるかを,具体的に例示してイメージを明確にしていただきます.そのうえで,続く第4 章で慢性臓器障害に含まれる疾患群と亜分類についての臓器群アプローチについて,さらに第5 章では本書の特徴的なコンセプトであるステージアプローチについて,順に解説していきます.

1.慢性臓器障害の定義

 慢性臓器障害とは,「日本のCommon disease として大きなウェートを占める,6大臓器障害の総称」です.具体的には,古典的な内科疾患・臓器障害としての4 大臓器障害(心・肺・肝・腎)に,超高齢社会における老年症候群の大部分を占める2 大臓器障害(神経・運動器)を含めた,6 大臓器障害を指します.また,これら全臓器に共通する病期・ステージとして,リスク因子を認めるのみのステージA,臓器に器質的異常を認めるステージB,治療を要する臨床症状や検査異常が出てきたステージC,代償機能が損なわれ急性増悪を繰り返し始めるステージD,そして予後半年を切った終末期であるステージE の5 ステージを設定します.この「臓器群を横軸とし,ステージを縦軸」とした表1 が,慢性臓器障害の全体像です.

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 どの臓器群も,「加齢を含むリスク因子に長年さらされ続けた結果(ステージA),徐々に細胞レベル・組織レベルで障害が進行し,検査で検出できるレベルの臓器障害が出現してゆく(ステージB).やがて臨床症状が出て生活に支障をきたし,薬物療法や生活指導で症状改善や進行抑制をはかるが(ステージC),一部は進行を止めることができず急性増悪を繰り返し(ステージD),終末期へ向かっていく(ステージE)」という臨床的特徴を持ちます.慢性心障害を例にとると,高血圧性か虚血性か弁膜症性かなどの原因で区切らず,以下のような共通の臨床的特徴・全体的経過を慢性心障害と呼びます.すなわち,「加齢や血圧・血糖などのさまざまなリスク因子に長期間さらされる時期(ステージA)を経て,やがて心筋や伝導系などに異常を生じて心電図や心エコーで左室肥大や心房細動などを指摘できるようになる(ステージB).徐々に浮腫や息切れを自覚する症例もいれば,感染を契機に急性増悪して自覚症状が出てくることで患者自身や医師に認識され始め(ステージC),やがて標準治療を行っても急性増悪を年に数回起こすようになって(ステージD),ADL やPerformance Status も落ちて治療への反応も乏しくなり最終的には死亡する(ステージE)」というような経過を,どの臓器でも,どの原因でも,多少の差はあっても大まかには共通した経過をたどります.

 詳細を省いてまずは大枠となる障害臓器名とステージを捉えた上で,原因病態などの細部を記述すると全体像を捉えやすくなります.具体例をあげると,「もともと高血圧性心疾患で軽度の左室肥大を認めるだけだったが,広範な前壁心筋梗塞によって入院してAsynergy とEF 低下を残し,急性期治療後も労作時息切れや浮腫のため利尿薬などを継続している症例」であれば,慢性心障害ステージC(HFrEF,高血圧性+陳旧性心筋梗塞)のように障害臓器名→ステージ→臨床分類や原因病態の順に表記します.

 後述するように多くの疾患が内包されますが,急性心筋梗塞や肺血栓塞栓症,外傷性肝損傷や脳卒中など「突然発症し,その瞬間か長くても数日〜数週の間に予後が決まり,完全回復するか死亡する」ような急性疾患は該当しません.ただし,心筋梗塞後に広範な壁運動異常などの機能障害が残った場合は,慢性心障害ステージB やCに含めます.また,脳梗塞後に認知機能障害が残存し生活に支障をきたすようになれば,慢性脳障害ステージC やD となります.以下の図1 は,慢性心不全の臨床経過を表したものですが(ガイドラインから引用),他の臓器でも多少の違いこそあれど類似した経過をたどります.ステージD を例にとると,主たる障害臓器が心臓か肺か腎臓かなどに関わらず,「臓器機能の予備力が低下したため日常的に症状を認め,何らかの維持療法を行わなければ臓器機能や生活の恒常性が保てない状態.また,軽微な感染や生活の変化などによって容易に急性増悪に至り,入退院を繰り返す状態」という臨床的特徴や医学的観察・介入のポイントが共通しています.

3章図2




◆◆◆書籍のご紹介◆◆◆

「慢性臓器障害の診かた、考えかた」

佐藤健太 著
A5判 300頁
定価(本体4,800円 + 税)
ISBN978-4-498-01410-7
2021年02月発行

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