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Dr.岸田の 感染症コンサルタントの挑戦(15)

Dr.岸田の 感染症コンサルタントの挑戦(15)
第15回 AST への抗菌薬相談! 困るシチュエーション
ASTとしても「感染症かどうかわからない……」への対応法①
岸田直樹 きしだ なおき
感染症コンサルタント
北海道科学大学薬学部客員教授


はじめに

 前回は,コンサルタント契約をしている病院と必ずやっているML(メーリングリスト)を利用して感染症の情報を発信する「感染症コンサルタントメルマガ(キッシーマガジン)」をご紹介しました.これをきっかけに感染症の質問などを気軽に受け付けているのですが,前回はそのなかでも現在多くの病院が困っている「セファゾリン供給不足問題への対応」についてのMLでのやりとりをご紹介しました.感染症の情報を入手することは今は決して難しくはありません.どこにいようが変わりません.しかし,その情報を実際にどう解釈し現場に活かすか? 特に,感染症専門医は実際のところどう考えているか? 直接訊いてみたい! ということが実際にはとても重要で,その一例をご紹介しました.今後も,メルマガホットネタで興味深いやりとりがあったらご紹介したいと思います.いつ新型インフルエンザが出るかわからないなど,感染症はいつどんなことで困ることが発生するか予測不能です.そういう意味でも,このようなネットワークの存在はとても大きいと感じます.
 さて今回は,感染症専門医として日々のコンサルテーションのなかでもちょっと悩ましい状況にどう対応しているか? の一例をご紹介したいと思います.ASTが始まり,より臨床感染症の側面で抗菌薬適正使用に関わるようになってきました.PK/PDに基づいた抗菌薬使用への介入なんかはもはやASTのする仕事ではない(ASTではない病棟薬剤師などが介入)のが見えてきています.しっかり診断がついていてきちんと培養も採られていて微生物もつかまっているなかでの介入は意外に簡単なのですが,抗菌薬適正使用として関わるようになると,ASTコンサルトのなかには「これは本当に感染症か?」と悩ましい症例の相談への介入も増えてくるでしょう.今回は,そんな悩ましい介入にどう感染症医としてアプローチしているかをご紹介します.

「感染症かどうかさっぱりわからない」場合

 感染症医にコンサルトされる症例のなかには,正直最初は感染症かどうかわからないものもあります.感染症医にコンサルトされる理由の一つに,「熱の原因がわからない」という場合があるのですが,熱の原因は感染症だけではありません.薬剤熱や腫瘍熱,そして高齢化により偽痛風など非感染性の原因もとても多いです.また,「CRP高値の原因は感染症ではないか」というコンサルトもよくあるのですが,CRPは炎症性疾患としての感度は高いですが,薬剤熱や腫瘍熱でも当然上昇するのでコンサルト時には判断が悩ましい症例も多いのです.
 具体的なあるある事例で,「感染症かどうかわからない」場合にどのような対応がよいか? を考えてみたいと思います.

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症例
S状結腸癌術後,多発肝転移の患者.1年前より左鎖骨下にポート挿入し外来で化学療法を受けていた.外来化学療法20日目より38℃以上の発熱あり.その後も1日1回は38℃の発熱を認めるも,NSAIDs内服で解熱した.発熱以外に症状認めず,熱が持続するため,熱の原因に関して感染症コンサルトとなった.悪寒戦慄は認めず,10日程度発熱持続するも全身状態は悪くはなく,シックさはない.2日前より主治医は,ポート血と末梢血培養提出し,セフカペンピボキシルの内服を指示し,すでに内服しているが熱の程度はわからない.現時点での血液培養陽性の報告はない.さて,どのように対応したらよいだろうか?
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