國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.01
國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.01
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院 総合内科・膠原病内科 医長
今回は2019年の7月号です。
特集は「細胞治療の新時代」というもので、本当に新時代すぎて理解できませんでした……
CAR-T療法の有害事象のCRS(サイトカイン放出症候群, cytokine release syndrome)で、トシリズマブが使用されることを確認したくらいです。
CRSは、全身の炎症反応で、発熱、筋痛、倦怠感、ショック、低酸素、臓器不全、DICなどを起こしかねない、まあ、やばい病態です。
びっくりしたのは、CRSは多彩な精神神経症状が起こることがあるそうです。
昏睡、せん妄、感覚鈍麻、失語、痙攣、脳浮腫などがあるそうです。
■「今月の症例、どこに線を引きましたか?(どこ引き)」
さて「どこ引き」のコーナーです。
初回なんで少し雑談を。
この連載を書くにあたって、あるとき思い立ったのです、私は(倒置法)。
そのままここに向かいました。
ここは、私の自宅近くの文具屋。
何を買いに来たのかといえば……
これです!
そう、2色の蛍光ペンです。
症例報告の「読み」は、この2色の蛍光ペンが重要です。
色はなんでもいいですが、私は青とピンクを買いましたので
青:この症例に関する重要点
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ
と色分けします。
この2つ(2色)にぬり分けることがコツなのです。
突然でアレですが、症例報告というのは「個別かつ具体」の領域にいるということです。
症例報告を読む場合、まず「個別を具体的に」分析する意味合いが強いのですが、まずそれが非常に大事です。
個別なものに、いかに注目できるかが臨床医は大事なのです。これを青のラインマーカーで収集します。
ただしそれだけだとその症例だけを勉強するだけになってしまいます。
次はこのあと「抽象かつ標準」の領域に向かう・目指すのですが、そのときにこれら「個別・具体」の理解を連れて行かねばなりません。そのためのピンクのラインマーカーです。
症例報告は、はっきり言って役立ちます。
n=1のエビデンスだしまったく応用が効かないと思っている人、いませんか?
個別から、帰納的に学び取る感覚、そしてその学びは抽象理解に昇華することもできます。
そしてそのとき初めて、未来の、未経験の臨床事象にも対応できるようになるのです。
まあわかんないと思うけど、さあやってみましょう!
やるのはとても簡単なことです。
■p1442, 尿路感染と褥瘡の治療により蛋白尿が消失したAAアミロイドーシスの1例
さて今月の「どこ引き」の1例目です。
これはまず何と言っても「21歳で横断性脊髄炎を発症」のところに青ペン引きますよね。私は引きました。
これは印象的です。
どんな人にも横断性脊髄炎が起きるわけではありません。
一般的にはヘルペスは多いと思いますが、SLEの有名な神経症状です。
女性でこの年齢で横断性脊髄炎したと聞けば、「え? SLE?」と思ってしまいます。
しかしどうやら違うようです。
すぐデータを確認しました。
抗核抗体陰性、補体低下なし、です(陰性化したのかもしれませんが)。
タイトルにAAアミロイドーシスとありますから、反射的にその原疾患はなんだろうかという目で見ました。
有名なのは関節リウマチや炎症性腸疾患です。あとは血管炎とかでしょうか。
とにかくAAアミロイドーシスは、慢性炎症の病態に合併しうるものです。
この症例のすごいところ1つ目は、アミロイドーシスの原疾患が「リウマチなどの疾患ではない」というところなのです。
横断性脊髄炎によって対麻痺と膀胱直腸障害がある。こういう患者さんは尿路感染を反復するし、褥瘡などもできやすいし難治ですよね。
この患者さんもそうで、こうした長期間反復する感染症の中で感染病態が慢性化し(というより常態化し)、 AAアミロイドーシスになったと考察されています。
にわかには信じられませんでしたが、この5年越しの経過表が感動的です。
抗菌薬投与、褥瘡の治療を非常に積極的に行い、炎症を無くし、アルブミンも回復し、なんと尿蛋白も回復したという驚きの経過です。
この症例のすごいところですが(2つ目)、アミロイドが沈着していた胃十二指腸粘膜の生検を、5年後に再検したら消えていたというところなんです。
これには仰天しました。
執念ですね。
著者らも述べていますが、徹底した感染症の治療が重要とのこと。
治ってしまうものなんですね……
けっこう驚きました……
■p1448, 後天性von Willebrand症候群を合併した骨髄線維症の1例
さて今月の「どこ引き」2例目です。
一見して「血液内科だ」とわかるケースですが、みなさん苦手ではないでしょうか。
苦手というより、「関係ない」という感覚だと思います。まあわかります(血内の先生方すみません)。
このタイトルも、なかなか稀な感じがして厳しいですよね。
でもこの症例、とっても面白かったですよ!
まずこの72歳の農業をやっておられる男性は、右背部の痛みと腫れで受診します。
そのとき、白血球79,970、血小板91万ということが判明し、最初は慢性骨髄性白血病(CML)疑いで著者らの病院に紹介されます。
しかし精査で、CMLではなく骨髄線維症と診断されます。臨床的にというより、骨髄のパターンがということのようです。
症状は、CTで見つかった広範な皮下血腫と対応していました。
骨髄線維症? まずここに違和感があるわけです。
骨髄線維症は普通、貧血とか、血球が減少します。
でもこの患者さんはHb 8.8。それはいいのですが、白血球や血小板は顕著に高いわけです。
二次的に、あるいは複合的に何か起こっているのではと考えたくなる場面です。
このとき、普通は白血化しているのだろうと考えると思います。
でもそれが違った。
次は骨髄線維症について考えてみます。
原発性かどうかの診断には、二次性を除外する必要があります。
が、これは除外し切れない予感がプンプンします。
白血球や血小板が高すぎだからです。
CMLが違うなら、本態性血小板血症はどうでしょうか?
で、そう考えることでこの患者の出血傾向が説明できるかもしれません。
本態性血小板血症は、血栓ができるイメージですが、出血傾向も出てくる病気です。
ここで今回のピンクのラインマーカー登場です。
本態性血小板血症では後天性von Willebrand症候群(vWS)を伴うことがあるのです。
文献では55%、この著者らの外来患者では3割もの人が、本態性血小板血症に後天性vWSを合併していたそうです!
この症例では、患者の後天性vWSが本態性血小板血症という病態に伴っていたと考えると合点がいきやすいです。
というのも、骨髄線維症に後天性vWSが合併していると考えるのは無理がありそう(1例しか報告がない!?)だからです。
つまり本態性血小板血症から二次的に骨髄線維症に至っていて、また後天性vWSも起こしていると考えられたのでしょうか。骨髄線維症と本態性血小板血症との関係性が、本文では残念ながら明記されていませんでした。
で治療は、とにかく骨髄線維症があるぞ(まあ、骨髄の診断は骨髄線維症だぞ)ということで、ルキソリチニブ!
正直混乱しましたがまあこれで良いのでしょう……。
ルキソリチニブで無事、著減していたvon Willebrand因子活性も回復し、血小板も低下し、血腫も改善したそうです。
骨髄線維症は、「素因」だったんですね。
「診断」って言うから紛らわしくなるのだと思いました。
後天性vWSは、色々な病態に合併することがあるらしいので、出血傾向の鑑別に入れておき、von Willebrand因子活性を調べるようにしておくといいのかもしれません。
それでは次回の「何読み」をお楽しみに!
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