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研修医のための微生物レクチャーシリーズ グラム染色所見と培養結果からどう考える?(21)

[第21回]グラム陽性桿菌編⑥

黒田浩一 くろだ ひろかず
神戸市立医療センター中央市民病院感染症科

(初出:J-IDEO Vol.7 No.3 2023年5月 刊行)

 前回の連載では,有名ですが,それほど出会うことのない(高次医療機関でも年数例程度)グラム陽性桿菌であるListeria monocytogenesについて説明しました.今回は,時々血液培養で検出される偏性嫌気性菌であるClostridium属について解説していきます.

1.Clostridium属の微生物学的特徴

 Clostridium属には,200以上のspecies(種)が存在しますが,ヒトに対して病原性を持ち,臨床現場でそれなりにみかけるものは,10~15菌種程度です.これらのヒトに病原性をもつ菌種は,強力な毒素を産生するものが多いことが知られています.
 Clostridium属による感染症は大きく2つのグループ,1)菌の増殖・組織侵襲と毒素どちらも病態に関与する侵襲性感染症(菌血症・ガス壊疽など)と,2)菌が産生した毒素によって起こる感染症(破傷風・Clostridium perfringensによる食中毒など),に分けて考えるとよいでしょう【1】.
 主な毒素に関連した病態は,Clostridium difficile(C. difficile:現在では,Clostridioides difficileに分類・名称が変更になったため,Clostridium属ではなくなりました)による感染症(C. difficile infection,CDI),破傷風(Clostridium tetani),ボツリヌス症(Clostridium botulinum),Clostridium perfringensによる食中毒です【1,2】.これらは,主に毒素の検出で診断されますので,検体のグラム染色や培養はそれほど重要ではありません[表1].また,これらは,学生が使用する教科書に大きく取り上げられている,とても有名な感染症ですが,C. difficile感染症以外は発生頻度が非常に低く,よほどのことがなければ出会うことのない疾患(例えば,本邦での破傷風の年間発生数は100例程度,ボツリヌス症は多くて数例)です.

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