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抗菌薬選択チェックメイトへの道(27)

[第27回]下水(cloaca)に注意!

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.6 No.6 2022年11月 刊行)

医師「1週間前に開頭して髄膜腫の摘出術を行った患者さん,昨日40.2℃の発熱がみられ,収縮期血圧も90 mmHg台に低下しました.尿路感染症を疑いセフトリアキソン(CTRX)を開始しています.術後の発熱なので手術部位感染も考えなくてはいけませんかね? おすすめの抗菌薬は何になりますか? やはりバンコマイシン(VCM)ですか?」
薬剤師「術後の創部の状況はいかがですか? 各種培養検体は採取されていましたか? 現在の全身状態はいかがでしょう?」
医師「手術自体は順調に終了しました.術直後は覚醒が一時的に悪かったですが,幸い呼吸障害,気道閉塞もなく経過し,翌日には会話可能となりました.創部は離開も出血もしていませんし,見た目は特に感染兆候はみられません.昨日,発熱と血圧低下の報告を受けてから血液培養2セットと尿培養,腰椎穿刺もして髄液検査と培養も提出しました.発熱時,悪寒戦慄を認めましたが今日は寒気を訴えていました.循環動態が不安定なため今日からノルアドレナリンを0.05γで持続で開始しました.血圧のわりに本人は元気で食事も経口摂取できています」
薬剤師「そうですか.デバイス関係はいかがでしょうか? 留置されているものはありますか?」
医師「術後すぐ挿管チューブは抜管できましたし,中心静脈カテーテルの留置はなく,点滴は末梢ルートだけです.術後から留置していた尿道カテーテルは昨日抜去しました」
薬剤師「少し待てる状況でしょうか? それでしたら診療録も確認してから抗菌薬について提案してもよろしいでしょうか?」
医師「今は落ち着いているので大丈夫です.お待ちしています」
薬剤師「ありがとうございます.それでは後ほど連絡いたします」

Point!

患者が待てる状況か,冷静に判断を!

 当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.

入院時現症

50歳,女性,身長152 cm,体重51.4 kg
主訴 発熱,頭痛
現病歴 膜腫切除手術目的に8日前に当院入院.術後の経過は良好であったが,術後7日後に悪寒戦慄と最高体温40.2℃の発熱を認め,血圧の低下もみられた.意識レベルは,手術直後は覚醒が悪かったが,翌日より会話も可能となり,その後は意識レベルの低下はみられていない.術後から尿道カテーテルを留置していたため,尿路感染症が疑われempiricにCTRXの投与が開始となった.
既往歴 髄膜腫(10ヵ月前),くも膜下出血(1年4ヵ月前にクリッピング術施行),中大脳動脈分岐部動脈瘤(8ヵ月前にバイパス併用クリッピング術施行),乳がん疑い(他院にてフォローアップ中)
アレルギー歴・副作用歴 なし
飲酒歴 ほとんど飲まない
喫煙歴 なし

検査結果

血液検査:抗菌薬治療開始日<コンサルト前日>
WBC 9,570/μL,Hb 11.1 g/dL,Hct 31.5%,Plt 9.4×10⁴/μL,BUN 10.8 mg/dL,Cre 0.41 mg/dL,AST 42 U/L,ALT 41 U/L,γ-GTP 61 U/L,Na 127 mEq/L,K 3.7 mEq/L,Cl 96 mEq/L,Ca 8.3 mg/dL,Alb 3.2 g/dL,BS 217 mg/dL,CRP 16.1 mg/dL

血液検査:コンサルト時
WBC 27,820/μL,Hb 10.3 g/dL,Hct 28.4%,Plt 6.7×10⁴/μL,BUN 16.9 mg/dL,Cre 0.68 mg/dL,AST 49 U/L,ALT 42 U/L,γ-GTP 72 U/L,Na 126 mEq/L,K 3.9 mEq/L,Cl 95 mEq/L,Ca 8.2 mg/dL,Alb 3.2 g/dL,BS 151 mg/dL,CRP 26.2 mg/dL,APTT 37.0秒,フィブリノーゲン548 mg/dL,DD-ダイマー9.9μg/mL,FDP 21 μg/mL,PT 16.2秒,PT-INR 1.35,ATⅢ活性値89%,TAT 5.0 ng/mL

髄液検査:コンサルト時 
外見:微黄色,透明 初圧350 mmH₂O以上,終圧150 mmH₂O 細胞数4/μL(単核球92%,多形核球8%),蛋白82 mg/dL,糖84 mg/dL,クロール112 mEq/L

尿検査:コンサルト時 
尿一般検査  pH 6.0,タンパク(1+),糖(3+),潜血(2+),赤血球5-9/HPF,白血球1-4/HPF,扁平上皮 1-4/HPF,細菌(+)

胸部単純X線  明らかな浸潤影を認めず[図1].

頭部MRI  手術前後で第四脳室の腫瘍が摘出されたことがわかる[図2,3].

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