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[Special Topic]令和元年のグラム染色論

[Special Topic]令和元年のグラム染色論
山本 剛 やまもと ごう
神戸市立医療センター
中央市民病院臨床検査技術部


1.はじめに

 グラム染色は1884年にHans Christian Gramが考案した染色法である.日本は明治17年で第一次伊藤内閣の発足前,医師免許規則が施行された年である.
 Gramは組織と細菌の鑑別について報告しているが,現在利用されている細菌の鑑別については1920年代ごろからといわれている.当初はゲンチアナ紫で染色を行い,アルコールで脱色されたことを確認したに過ぎないが,Gramは論文のなかで,「グラム染色は今後も研究者の手で改良を重ねて実用性を高めてほしい」と論じている.現在のグラム染色法は前染色がクリスタル紫,後染色がサフラニンもしくはフクシンで実施されている.Gramも当初からゲンチアナ紫よりクリスタル紫のほうが細菌の鑑別がしやすいことを呈示している,現在の方法に至るまでの間,数々の研究者によって改良が加えられているが,Gramの名前が100年以上経過しても残っていることは彼の偉大さがよくわかる象徴であろう.


2.感染症の認知と抗菌薬選択

1)感染症の認知
 不明熱のうち,感染症が占める割合は画像や検査診断の技術が進むにつれて減少している[図1]【1】.Mouradらによる不明熱の原因検索のために必要なワークアップのなかには13の項目があるが[表1],微生物検査に関連する内容としては顕微鏡検査,血液培養と尿培養がある.顕微鏡検査には尿沈渣といった基本的な内容を示しているかもしれないが,グラム染色もここに位置付けされていてもよいと考える.

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