クウェート留学講義2「イスラームの根幹」

パレスチナ人のタクシードライバーは言いました。

「イスラームは俺たちの道を照らす明かりなんだ。つまり、正しい行いをするための道しるべなんだ」と。

ではその道しるべを示すものは一体何でしょうか?


【イスラームの根幹】

読むもの、ですね。

イスラームは来世志向ですので、善行によってジャンナ(天国)へと導かれます。正確には悪行を犯しても「最終的には」天国へ行けるんですけどね。一度焼かれます。

そんな、ジャンナへの道しるべを示すのが聖典クルアーンです。

ユダヤ教もキリスト教も、同様にヘブライ語聖書、旧約聖書、新約聖書とあるわけですが、それらは啓示から数世紀またいでから今の形に編纂されています。

クルアーンはと言うと、第三代カリフ、ウスマーン版が今も用いられています。ウスマーンは預言者ムハンマドの20年以上の直弟子であり、預言者ムハンマドの没後15年に、クルアーンに精通する者達と共に編纂したのが今のクルアーンです。

啓示された内容が都合よく書き換えられることなく、そのまま現代にまで保存されていると考えて間違いないです。

クルアーンがムスリムにとって生活の指針となっていることは皆さんご存知のことかと思います。


加えて、預言者ムハンマドの言行録「ハディース」。

こちらもムスリムにとって生活と指針となっています。
預言者の死後、預言者の言葉は伝承経路(イスナード)をもって引き継がれていました。

その伝承経路(イスナード)と本文(マトン)を、非常に厳正な審査でハディース学者がダミーをはじき、100%正しいと言える言行録のみを集めたもの。それが「ハディース」です。

スンナ派ではサヒーフ・アル=ブハーリーと、サヒーフ・ムスリムが最も有名です。


今紹介したクルアーンとハディースを、ムスリムは今でも生活の指針としています。

礼拝に関してもそうですし、豚肉・酒に関するハラーム(禁止)の規定もそこから来ています。

そして、中東では政治システムにも影響していたのです。

かつては、クルアーンとハディースを含む、イスラーム法がイスラーム社会の根幹を為していました。

世界史を習ったことのある人なら「正統カリフ時代」なんて言葉を聞いたことがあるのではないのでしょうか?

カリフというのは預言者の代理人を表します。

そのカリフは預言者の代理として、シャリーア(イスラーム法)をもとに統治します。

預言者ムハンマドの生前は、預言者こそが行いの是非の指針になったわけですが、その預言者が亡くなった後は、誰をリーダーとしてどのようにまとめていくのか決めていく必要がありました。

そこで、預言者の代理人(次のリーダー)を決め、今まで通りイスラームに適った生活をしていくことになります。

いわゆるイスラーム法が、その社会規範を規定しています。有名なイスラーム法学書としては、シャーフィイー学派のマーワルディー『統治の諸規則』が、日本語訳の書籍もあり読みやすいと思います。

イスラーム法を用いた統治というのは、オスマントルコ時代まで続きます。イスラーム法にはカリフ制が不可欠な要素なので、1922年にそれが終わったことで、イスラーム法による統治が行き届いた地、つまりダール・アル=イスラーム(イスラームの家)が無くなってしまったと言えます。

その後は欧米が生み出した世俗法のもとで統治されます。ただ、統治に関係ない事柄(家族法や婚姻に関して)は、変更する必要性がないので、今もイスラーム法通りに残っていたりします。

ただ、世俗法による統治によって一つ問題が出てきます。ムスリムにとっては、神の法(イスラーム法)による規範と、人の法(欧米からの世俗法)が並存することとなってしまうのです。

ムスリムにとって一番大事なのは神の法に適った生活です。しかし、世俗法による統治が行なわれることは、神の法に矛盾してしまうことになり、好ましくない状況にあるわけです。

本来であれば、前代のカリフが亡くなった後、3日以内に次のカリフを立てることが、イスラーム法では義務となっています。

しかし、今現在もカリフは立てられておらず、ムスリムが果たすべき義務を果たせていない状況にあるわけです。


プラスαコラム:イスラーム法とジハード集団

現在はほとんど扱われていないイスラーム法ですが、これがテロを含む諸問題の一つの要因ともなっています。

皆さんもよく見聞きしている団体が一番分かりやすいですね。

それは…

イスラーム国です。

イスラーム国は、アブーバクル・バグダーディーがカリフを名乗り、イスラーム法の施行される国家として立てたもの、と言えるでしょう。

彼は忠実にイスラーム法に則り、カリフとしてカリフ制の復活を唱えています。

バグダーディーは、自身の名がアブーバクル・バグダーディー・フサイニー・クラシーであると言っています。

この、最後の「クラシー」は、クライシュ族の出自であることを示しています。実は、カリフ就位条件には「クライシュ族の出自であること」という項目があり、バグダーディーはこの条件を満たしていることを主張しています。

また、彼の指揮の下でイスラーム国が支配領域をもっていたことも事実です。それはイスラーム法でいう「覇を唱える者」、つまり実効支配を持つ者、という項目もクリアしたことを意味します。


そして極めつけは、非常に周到なイスラームに則した就位様式を採用していることでしょう。

イスラーム国がカリフ制の樹立を宣言し、アブー・バクル・バグダーディーがカリフに就任した2014年6月29日。この日は断食月とも呼ばれる、ラマダーン月の初日でした。

7月4日、つまりその断食月(ラマダーン月)の金曜日には、モスルの「大モスク」にアブー・バクル・バグダーディーが姿を現し、説教を行ったのですが、歴代カリフがそうであったように黒服に黒のターバンを身につけ預言者ムハンマドが「アッラーの敵」との戦いを開始したのがラマダーン月であったことを挙げ、「信者たちよ、この御徳に満たされた月を戦闘の機会とせよ」と述べたのです。

他にも、初代カリフ、アブー・バクルの模倣ともいえる説教内容も見られています。

初代カリフのアブー・バクルは、カリフ位就任所信表明にて「私がアッラーとその使徒に従う限り私に従いなさい。もし私がアッラーとその使徒に背いたなら、あなたがたには私に従う義務はない」と述べていました。

アブー・バクル・バグダーディーはこれを模倣して「私はこの大役を引き受け、重い任務を背負うという試練を経験している。私はあなた方の指導者となったが、私はあなた方のうちで最も素晴らしい人物でもなければ、あなた方よりも優れた人物でもない。もし私が正しければ協力していただきたい。もし私が誤っていれば、それを指摘して正していただきたい。私がアッラーに従っている限り、私に従っていただきたい。もし私がアッラーに背いた場合、あなたがたは私に従うことはない。」と述べています。

ここまで、イスラームをもとに練られた手法で、イスラーム国はカリフ制の復活を訴え、ファンを獲得していったのです。

このように、イスラーム法と現代の中東諸問題は切っても切れない関係にあるのです。

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