厄落としの祭りと生命の誕生の追体験
日本をはじめ世界各地には様々な祭りがあり
それらはすべて独特なものだと思います。
いろんなタイプの祭りがあって
神輿で町内を巡るというものは
その地区を守る神様が一年一度
みんなの様子を直接見て回るというものですし
神様的な存在が各家々を訪ねてきて
厄を払ったり運を授けてくれるというものもあり
これにはは秋田の「なまはげ」的なものも含まれるかと思います。
お盆の時期には先祖の霊を招いての祭りがありますし
田植えが始まる前には豊穣を願う祭り
稲刈りの後には実りに感謝する祭りがあるなど
毎挙に一間がないと思います。
今の時期、お正月から旧正月にかけては
厄落としに関する祭りが多く
節分の豆まきもそうだと思います。
この「厄落とし」という意味について私は
「厄を落とす」「災厄を免れる」という意味の他に
「生まれなおし」ですとか
「誕生を再現する」というような意味があるように思えます。
実際に行ったことはないけれども
その時期になるとニュースなどで取り上げられて
その度に興味深く見る厄落としのお祭りが「国府はだか祭り」です。
「国府はだか祭り」について
「国府はだか祭り」は
愛知県稲沢市の尾張大国霊神社で行われている祭事です。
毎年旧暦の正月に行われる神事で
今年は2月22日に行われるそうです。
参加者は主に厄年の42歳か25歳の男性で
このお祭りの中心となるのが神男と呼ばれる存在です。
wikipediaによると
神男と呼ばれる一人の儺負人(なおいにん)に災厄や穢れを負わせ
それらを土餅と呼ばれる餅に移して
土に埋めることで厄落としをする神事とのことです。
お祭りの流れとしては
まず下帯姿の裸男たちが
儺追布(なおいぎれ)を結びつけた笹を奉納します。
儺追布というのは
裸祭りに参加できない方が
厄を引き受けてもらうように名前などを書いた布のことです。
儺追布をくくりつけた笹を持ち
各地区から数千人の裸男たちが尾張大国霊神社に集まってきます。
夕方頃になりますと
全身の体毛を剃り落とした素っ裸の神男(儺負人)が
大挙した裸男の群の中に飛び込みます。
この神男(儺負人)に触れることで
厄から逃れることができるということになっているため
この裸男たちによって凄まじい
押し合い、へし合い、揉み合いが
繰り広げられるというところが特徴です。
この全ての災厄というのを一身に受けて
揉みくちゃにされた儺負人が神殿に引きずり込まれるまでが
この祭りのクライマックスとなるそうです。
ニュースの映像で見ると
本当に揉みくちゃで大変な状況になっています。
その後、境内の中で様々な神事が行われて
夜中の3時ごろ
神職によってあらゆる罪・穢れを封じ込められた土餅を背負わされて
桃と柳の小枝で作った粒手を投げつけられて
儺負人が境内から追放されます。
そして、暗がりにその土餅を捨てて
そのまま後ろを振り返らずに帰宅するという流れになっています。
この土餅は、人々の災厄だけではなくて
天災等ありとあらゆる災厄が詰め込まれているという
恐ろしいアイテムになっています。
神職は、その捨てられた土餅を土に埋めることで
厄払いが完了します。
神男とは
揉みくちゃにされた挙句
一身に役を負わされるという神男…
満員電車の混雑が一人の人間に向かって圧をかけるようなもので
過去に骨折したり、あるいは亡くなってしまった神男も
いらっしゃるとのことです。
かなり危険な業務のため
この祭りに向かう際というのは
家族や親戚と挨拶を交わして送り出されてくるということで
送り出す方はかなり心配なのではないかなと思います。
損な役回りとしか思えないので
こんな大変なことをやりたい人いるのかなと思うのですが
神男になりたいという方はそこそこおられて
毎年誰が神男になるのかというのがくじ引きで決まるそうです。
そして、この神男に選ばれるということは
この地区においては非常に名誉なことで
皆から尊敬を集める存在とのことです。
歴代の神男OB会もあるというくらいです。
神男は3日間の潔斎をし祭りに挑むそうです。
生命誕生の追体験
ここからは私の感覚的な話なのですが
私はこのお祭りを見て、厄落としということのほかに
生命誕生も再現しているのではないかなと感じました。
上空から見た映像だと神男を中心とした集団が
一塊になって、ゆっくりと参道を移動していくように見えます。
神社の「参道」と赤ちゃんが通る「産道」というのは同じ音で
境内が子宮を意味しているとも言われています。
境内の門に神男一人だけが引っ張り込まれるように入りますと
この瞬間、集団からワーッと歓声が巻き起こって
興奮のるつぼになります。
それを見て、受精の瞬間を表しているみたいだなと感じました。
映像で見たら、ああ確かにというふうに
思ってもらえるのではないかなと思います。
精子が卵子のところまでたどり着く旅というのは
非常に過酷と言われています。
私が子供の頃は
非常に熾烈なデッドヒートを繰り広げながら
産道を駆け上っていくというふうに習い
一番最初にたどり着いたものが勝者であり
あとは敗者と思っていました。
ただ、研究が進んだ結果
精子というのは集団になってまとまって移動していくということや
ライバルでもありつつ
時に協力し合いながら進んでいくということがわかってきたそうです。
そして卵子にたどり着いたら
皆で協力して壁を溶かしていることがわかってきたそうです。
祭りの映像を見ていると
神男の力だけで前に進んでいないということがわかります。
明らかに一人の力で進むのは無理という状態で
人波が回転しながらゆっくりと前進していくように見えます。
境内の門のところでは
押し込もうとする力と
境内の内側から引っ張り込もうという力によって
神男が内側に滑り込むように入っていくということがわかります。
災厄を一心に受け負って境内に入るというと
何か汚いものがぽいと放り込まれるような
印象を受けるかもしれませが
実際の映像を見ると
その境内に入る瞬間というのは喜びに溢れていて
どこか祝祭のムードがあります。
裸祭りの参加者のインタビューを聞きますと
「神男に近づけば近づくほど
体がカーッと熱くなって興奮状態に包まれた」
そして
「神男が境内に入ったのを見た瞬間、訳もわからずに叫んでいた」
と話しておられました。
受精の瞬間というのは
自分の生命が始まった瞬間でもあると思います。
自分が他の者たちに勝ったから生命を得たのではなくて
仲間たちと競い合い
時に協力し合いながら旅をした結果、生命を得た
自分が送り込まれた瞬間は
仲間たちの興奮の声や歓声に見送られていたのかもしれない
そう考えると
私を形作る細胞の一つ目ができた瞬間のことで
全く覚えてないんですけれども
そうだったらいいなと私は感じました。
これは私の感想なので
実際の祭りの意味とは違うと思うのですが
毎年そんなふうに感じながら興味深く見ているお祭りです。
この「国府はだか祭り」というのは
1200年の歴史あるお祭りだそうですが
2024年、初の女性の参加というのが認められたそうです。
女性は体をぶつけ合うもみ合いには参加せずということで
(危ないのでそうかなと思うんですけれども)
厄除けの願いを書いた笹を境内へと運ぶ儺追笹奉納に
さらしに法被姿で参加されるとのことです。
お祭りも令和風にアップデートされてきているんだなと感じます。
こちらがどうなるのかというのも楽しみにしているところです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?