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序盤のこと覚え書き、あるいは、仕掛けと突き捨てについて

この記事について

序盤のことは書いておかないとすぐに忘れてしまう。

そのためにせっせと書いたものは、もちろんどこかにしまっておいてもいい。
いいのだが、今回はその文章にこじつけてなにか語れそうだと直感したので、こうして記事を書くことにした。

テーマは歩の突き捨てについてだ。

これを、雁木の研究の覚え書きと合わせてそれっぽく書いていけたらいいなと思う。


分岐点

下図は雁木VS矢倉の中盤戦である。これを後手の目線で見ていく。

お互いが似たような攻撃陣。囲いだけが違う

中盤だとはいえ、ここはまだまだ研究できる範囲だと思う。

後手は攻撃陣を組み終えており、すぐに仕掛けることもできる。筋としては△6五歩である。

とはいえ、後手が一手待てば先手も▲8八玉と入城する手が予想されるところであるため、仕掛けずに待つのが有力だと思う。

候補手は△3一玉と△3三桂だ。

調べてみた感触は「△3一玉だと後手に不満があり、△3三桂が良いような気がする」というものだ。

この調べた変化の中でいくつかの突き捨てが絡んできたため、順を追って覚え書きをするついでに突き捨ての狙いについて書く。

△3一玉の変化

△3一玉 ▲8八玉

後手はさっそく仕掛けていく。

△6五歩 ▲同歩 △同桂 ▲6六銀
△8六歩 ▲同歩 △同角 ▲同角
△同飛 ▲8七歩 △8一飛

基本的なことだが、6五の桂は取れない

後手は6五に桂を跳ね出し、ついで△8六歩から角交換をしつつ一歩交換した。

これは厳しい攻めではないようでも、持ち駒を増やしてなかなかの戦果と言える。

まず基本的なことだが、この6五に跳ねていった桂は今は取られない。▲6五銀は△6四歩の銀バサミで後手ヨシだからだ。

先手失敗

それをふまえて、△8一飛と引いた局面では先手に有効な突き捨てがある。

▲4五歩 △同歩

突き捨ての狙いは?

この突き捨てを利かしてから桂を取るのが先手の狙い。

▲6五銀 △6四歩 ▲4四歩 △同銀
▲5四銀

銀バサミを食らったようでも、これでタダでは銀を取られずにすむ

△6四歩と銀バサミで銀が捕まった瞬間に▲4四歩と叩くのが、突き捨てを入れた先手の狙いだった。

こうなると△5四同銀には▲7二角の両取りがあり、先手のうるさい攻めが続きそうな格好だ。これは先手ヨシ。

突き捨ての効果で銀バサミの局面の成否が変わってしまった。

手順中の▲4五歩は、明確な狙いを持った突き捨てだったと言える。

戻って、▲4五歩には△6四歩と我慢するほうがまさる。
まさるが、▲4五歩が取れないようでは玉頭の形が乱されてしまうため、筆者は後手不満と見た。

じっさい玉頭にキズを抱えると実戦的にもすこし勝ちにくい格好になると思う。

△3三桂の変化

△3三桂 ▲8八玉

△6五歩 ▲同歩 △同桂 ▲6六銀
△8六歩 ▲同歩 △同角 ▲同角
△同飛 ▲8七歩 △8一飛

同じように進めた。ここでもすぐに▲6五銀とは取れない。

▲4五歩

狙いの突き捨て

そこで、先手は▲4五歩の突き捨てを入れにいく。△同歩だと先手ヨシになるのはこの変化でも同じ。

△4五同桂 ▲同桂

桂で歩を払う

△3三桂と跳ねた効果で、この変化では4五に桂の利きがある。そのため、突き捨てに対して△4五同桂と変化する手がある。
これが桂を跳ねた効果である。

ただし、この▲4五同桂に対して△同歩だと▲6五銀△6四歩▲4四歩でマズいという状況は依然として変わっていない。

やはり銀バサミから銀に脱出されてしまう

後手は桂をすぐに取り返さずに反撃に出る。

△3七角 ▲3八飛 △1九角成 ▲6五銀

△3七角の飛車取りで切り返そうとしてみる。

が、あっさりと香を見捨てて▲6五銀から駒の取り合いにされると、後手は先に駒損をしているため大変な将棋だと思う。これはこれで後手不満と見る。

突き捨てを入れる

仕掛けの途中の局面に戻る。先程は△8六同角と取ったところだ。

ここでおまじない

今ここでの△9五歩が(筆者が)覚えておきたい突き捨て。

△9五歩 ▲同歩 △8六角 ▲同角
△同飛 ▲8七歩 △8一飛 ▲4五歩

突き捨ては入ったものの、やはり△4五同歩ではマズい。

ただし、今度は端を突き捨てておいた効果ですぐに端に手を付けられる。
(先に突き捨てておけば、△9五歩を手抜かれる心配がない)

△9八歩 ▲同香 △9七歩 ▲同香
△4五桂

香を吊り上げ……

▲4五同桂 △同歩 ▲6五銀 △9六歩
▲同香 △8四桂

入手した桂で端を攻める

歩の枚数は多いため、香の頭を叩いて香を吊り上げる手が利いた。

また、△3三桂の変化を生かして桂交換に持ち込んだ。これによって△8四桂の端攻めのカウンターが可能となった。

複雑な話になったが、これも突き捨ての狙いだと言える。
今の変化において、端の叩きの歩から先手先手で反撃の手を入れることができたのが突き捨ての効果だ。

カウンターのスピードアップのための突き捨てだった。

さて。桂を打ち返した図は後手の駒損であるものの、香を取り返せば五分に戻るという駒割。
先手玉にも王手がかかる格好で、先手の囲い自体も傷んでいるため、こうなれば後手も指せると思う。

よって、この変化で行こうかなあというのが覚え書きのシメとなる。

意味のある突き捨ての意味を知ること

▲4五歩と△9五歩。
雁木の仕掛け後の攻防を書いてきたが、二つの意味ある突き捨てが変化の中に登場した。

さて。このような狙いを持った突き捨てを自分の実戦の中で指すためにはどうすればいいだろうか?

これの一つは、手順を定跡として覚えてしまうことだろう。

それ以外だと、部分的な手筋として覚えるというのがあると思う。一つ目とほとんど同じなのだが、覚えるのは部分部分だけでいいというのが違うところ。

突き捨てとその突き捨てにより生じる狙いを、部分的な手筋として覚えるのだ。
突き捨てと狙いをふたつセットで覚えたもの……これを蓄積していくことで、読みの手順の中でアレンジして使うことができるようになっていくんじゃないかと思う。

つまり、この技を狙いたいから→この筋の歩を突き捨てるという逆算が利くようになるのではないか。

このためには、やはり突き捨ての実例を多く学ぶことではないかと思う。

いろいろ方法はありそうだが、ひとつ思いついたところだと解説付きのプロの棋譜を並べるのはアリじゃないかと思う。
プロはとうぜん歩の突き捨ての手筋を使いこなしており、棋譜のところどころで突き捨てが出てくる。パッと見て効果がわからないような手には解説が付くことも多いため、そこから知識を吸収できるような気がする。

突き捨ての知識を増やしていこうね。

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