有利だったあの時、こうしておけばよかった〈後〉 中盤の形勢判断

前回はこちら。

前回は逆転までの流れを確認した。

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今回は先手が有利だったこの局面に戻って、どうすればよかったかを考える。ここでの形勢判断は前回おこなったとおり先手良しだった。

と言ってもこの先の局面局面での正解手を考えるのではなく、ここからの正しい方針は何だったかについて考える。方針を間違えた局面だけ反省することにする。

優勢の種類

形勢有利と一言で言ってもいろいろな性質の有利がある。有利の中身は4つの要素であり、駒得なので有利の場合もあれば駒の働きが良いので有利の場合もあるのだ。

そして、それらの違いによって、方針の立て方を変える必要がある。

もちろん優勢の場合と劣勢の場合も変わってくるが、複雑になるので今回は優勢の場合で考える。

駒得をしていて有利な場合に限っても、

・駒の働きと玉の堅さもまさる
・駒の働きもまさる。玉の堅さは互角
・駒の働きは互角。玉の堅さはまさる
・駒の働きと玉の堅さは互角
・駒の働きもまさる。玉の堅さは劣る
・駒の働きは劣る。玉の堅さはまさる

などなどたくさんのパターンがある。

ざっくり分けると、全部の要素が良い場合、良い要素と互角の要素がある場合、良い要素と悪い要素がある場合の3パターンだと思う。

今回の将棋は全部の要素が良い場合だった。

優勢の時の方針

考え方としては、優勢を維持する優勢を拡大する終盤に向かうなどがありそうだ。

急がない勝ち最短の勝ちと言い換えてもいい。

入玉や根絶やしのような特殊な勝ちを狙うのでなければ、攻めに出て勝ちにいく必要がある。最後は終盤に突入する方針を取ることになるが、すぐに舵を切るかチャンスを待つかという選択は存在する。

終盤に向かう時は速度争いに勝つためにがんばればよい。形勢判断の要素や、上に書いた優勢の種類を考える必要はないだろう。

優勢を拡大するなど、中盤戦を続ける時に優勢の種類うんぬんを意識する必要が出てくる。

優勢の種類と同じように、リードの広げ方も分けることができる。

・駒得する(相手は駒損する)
・自分の駒の働きを良くする
・相手の駒の働きを悪くする
・自玉を堅くする
・敵玉を薄くする

優勢の維持は、相手にこの5つのどれかをされないようにすることとも言える。

良い要素と悪い要素がある優勢の場合は、良いところを維持しつつ悪いところを挽回していき優勢を拡大することになると思う。

同じように、良い要素と互角の要素がある優勢の場合も、良いところを維持して互角のところでリードを奪い優勢を拡大することになる。

すぐに終盤に突入するほうに舵を切るかチャンスを待つかの判断は、美学や好みで決めるのでなければ、急ぐ必要があるか否かで考える。

(もちろん、常に最短の勝ちを狙うことや常に勝ちを急がないことは、まったく悪いことではない)

良い要素には、時間とともに相手に挽回されるパターンと自然には相手が挽回できないパターンがある。

わかりやすいのは取られる直前の自分の駒がある場合などで、この場合は自分が駒得していたとしても徐々に相手が駒損を取り返すことになる。

時間が立つと良さが消える場合は急ぐ必要があるのだ。この場合は最短の勝ちを目指して急ぐ方針を取る。

ただし、基本的に急いで攻めるほうが手順の難易度が上がるので、時間が立っても良さが消えない場合は急がないほうがよいと言える。

実戦の方針と正しい方針

実戦進行が駒損の攻めを繰り返す手順だったことは、前回強調したと思う。

これは終盤に向かう方針だったと言えるが、実戦は急ぐ必要があっただろうか。

実戦の局面は、駒の損得、駒の働き、玉の堅さのリードが、時間が立っても消えない格好である。

急ぐ必要がないので、優勢を維持または拡大する方針が正しかったと言える。

駒損をせず、駒の働きを悪くせず、玉を薄くしないというのが基本となる。この方針を意識して、どうしておけばよかったか、実際の修正手順を見ていく。

(前置きが長かった……)

分岐点

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△5五歩と打たれた局面が分岐点だった。この歩を取ったのは勝ちを急がない方針ではなかった。

方針に沿うのは▲6五銀とかわす手だ。対局時は△4五歩と押さえられる手を気にしたが、▲9七角という好感触の手があり問題がなかった。

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△4五歩の瞬間は先手の大駒の働きが悪くなっており、後手に形勢を挽回されそうなところ。▲9七角は角の働きを改善する手で、次の▲5三歩成を受けるのも難しい。と金が作れれば飛車の働きが悪くなっても優勢を拡大できていると言える。

模範演技

以下はソフトで検討した手順を簡単に。方針に沿った展開の一例である。

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先手が銀をかわした局面では△3六歩という手もある。

▲9七角△3七歩成▲4六飛(次の図)

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ここで△4五銀はその瞬間に飛車を取られる。▲4二角成~▲5一馬は相当に早いので、こうなるなら先手も方針転換しても大丈夫そうだ。よって、後手は銀は出られない。

△4五歩▲6六飛(次の図)

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後手のと金作りは駒の働きを良くする手に分類できるが、先手も手に乗って飛車角の働きを良くしており、先手の良さは消えていないと思う。

ここで△6四桂と打って角筋を受けると、▲同銀△同歩▲同角で収拾がつかなくなる。

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飛車取りや▲5三歩成の他に、▲7四桂や銀を素抜く筋が生じており後手は受けようがない。

▲6六飛の局面では△4三飛と浮くよりないが。

△4三飛▲3四金△4一飛▲5三歩成
(次の図)

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重く金を打てば先手のと金作りは受からない。次は▲2三歩や▲4二歩など厳しい手がある。

形勢判断をした局面と比べて、駒の損得と玉の堅さは変わらず、駒の働きはさらに先手が良くなっていると思う。

勝ちを急がない方針で先手が優勢を拡大した手順だったと言える。


というわけで、筆者がこの対局でどうすればよかったかというと、勝ちを急がない方針を選ぶこと、具体的には先の局面で▲6五銀を選ぶことだった。

まとまりのない記事になったが、書きたいことは書けたのでヨシとする。今回書いた考え方を実際の対局で実践するのは難しいが、対局の振り返りの時に役立てることができると思う。

(こまめな形勢判断を持ち時間の中でやるのは難しいと思う。少なくとも筆者には難しい)

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