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ジガルタンダ・ダブルX レイsirは何を思ったのか

全てのくびきから解き放たれたはずなのに俯いたまま顔を上げる事ができないレイsir。涙の玉が大きくなってこぼれ落ちるまで、彼は何を考えていたのだろう。使命を果たしたはずなのに喜べない自分に戸惑っていたのか。

かりそめの姿である映画監督の役に身を入れるきっかけとなったのは、シーザーが自分をこんな窮状に追い込んだ張本人と知った時。レイsirの怒りは激しかった。シーザーが濡れ衣を着せたせいで、レイsirはその手につかみかけていた幸せを全て失った上刑務所に入れられて果てはこんな無茶な暗殺まで命じられる事になったのだから。

だからシーザーの暗殺計画が首尾良くいった今、仮の姿のための小道具だったカメラを捨てフィルムを捨て、監督としての荷物も捨て、本来の姿に戻る気満々だったのに、いざそうしてみると全く嬉しくない自分に気づいてしまったのだ。

何故だ?
これで俺は警察官としての身分と昇進を約束され、上手く行けばかつての恋人との結婚もできるかもしれないのに。逮捕される前に望んでいたものが全部手に入るというのに、何故俺は満ち足りない? 何故心がスースーするんだ?
さっきまで心の内の大部分を占めていた物を、今自分が捨てて来たからだ……。

それに気づいた時、レイsirの目に涙が浮かんだのだろう。

失って惜しんでいた過去の自分のささやかな夢を改めて手に入れるより、映画監督を演じていた時の方が、この手で映画を撮る方が、ずっと楽しいという事実に気づいてしまったのだ。

自分のなんと浅はかなのか。映画製作に心を惑わされるなんて……。

そう思って涙の粒がふくらんだかもしれない。

でも仕方がない。俺は映画が撮りたい。シーザーを主人公にしたこの映画を完成させたいんだ。今そうしなければ、俺は今後一生幸せになれない……。

そこまで思い至った時、レイsir、いやキルバイの瞳からはらりと大粒の涙がこぼれたのだ。過去との訣別を決定づけるかのように。

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