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被写界深度 / 苑生

だれもいない屋上で出会った紺ちゃんと早川。 カメラマンのお父さんの元に生まれカメラが大好きな紺ちゃんはまっすぐにカメラと向き合い、楽しそうに過ごしている。音楽の才能がありながら、その才能ゆえに周りにうまく馴染めなかったことから音楽をやめてしまった早川は、そんな紺ちゃんを羨ましく思う。「羨ましくで、好きで、ムカつく」

思春期の高校生のモラトリアムが繊細な描写で表現されていて、ジリジリと熱量があがっていく、そんな感じ。赤い炎じゃなくて一見熱くなさそうだけど、ほんとはとても温度が高い青の炎みたいな。何度も読み返せば読み返すほどに、読んでる自分の心がじわじわと熱量高められる作品。

紺ちゃんに出会ったことで、改めて自分の気持ちと向き合うことになった早川が少しずつ変わっていく、そしてそれは屋上で紺ちゃんと早川が会わなくなっていくことも意味していて。すれ違ったまま高校を卒業し3年後なのが下巻。早川目線だった上巻から紺ちゃん目線の下巻になることで、早川と向き合っていた紺ちゃんがどんな想いだったのか、どんな風に早川が変化していったのかがわかる。すれ違ったままだった3年を経て、お互い好きなことで進学した結果再会することで、止まっていたふたりの時間がまた動きだす。思春期の高校時代とはまた違った、等身大の若者が丁寧に描かれていて時間が経過した=ふたりも成長した、ということがちゃんと伝わってきた。もちろん成長しても紺ちゃんは写真の道に進んでいるし、早川はバンドをやることでまた音楽と向き合っている。

思春期真っ只中の高校生、ちょっと大人に近づいてしまった大学生のそれぞれのモラトリアムが繊細で綺麗な絵とストーリーで表現されている。恋愛だけではない、写真や音楽といったそれぞれの軸を丁寧に描くことで、ただの薄っぺらい恋愛ものになっていないところがとても好きだな、と感じた作品。

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ここまであえてBL作品だとは言わずに感想を書いてみた。本屋のびえるコーナーで見かけて思わず表紙買いをしてしまった綺麗な表紙に見合う、繊細でステキな作品だった。どっちが攻めでどっちが受けにするか話してる時の対等な感じの関係性のカップルなのが、とても良い。高校時代の紺ちゃん長髪なのズルいです。

#被写界深度 #bl #苑生

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