《メモ》読書雑感2

高平哲郎『アチャラカ』ビレッジセンター

著者がさまざまな媒体で書いてきた内容を一冊にまとめたもの。そういった事情で章ごとで内容の重複も多く、さらさらっと読み終わってしまった。

いったい「アチャラカ」とはなんなのだろう。私も常々考えるが、判っているのは、誰も明確な答えが出せていないってことだけだ。
その人それぞれで「アチャラカ」のイメージ像が違っている。そう思う。
いとうせいこう、井上ひさし、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、筒井康隆、別役実という作家陣がアチャラカ喜劇に挑んだ2002年の舞台「空飛ぶ雲の上団五郎一座」は中継映像を軽くながら見した程度だが、これですら何かが違うと私は思う(じっくり見たら意見が変わるかもしけないが)。
私がこの本で何が一番違和感があったかというと、筆者が「アチャラカ」と「軽演劇」が別物であり、アチャラカは面白いもの、軽演劇はつまらないもの、という趣旨の意見をもっている部分。
確かにアチャラカと軽演劇は似て非なるものかもしれないが、私にとってはこの二つはほぼ同一。ま、完全に意見の相違ですね。
(2004年4月12日初出を一部改訂)

原健太郎『東京喜劇 アチャラカの歴史』

部屋の奥から発掘。パラパラと見てみたけど、索引に石田英二の名前が無かった。
だいぶ前に読んだ時の印象は「知りたい事が書いてない」だった。
石田英二がない=ストリップ系がない。成程、数年経ってやっと納得。

向井爽也『喜劇人哀楽帖』

まだパラパラですが、トリオの話のところで普通になるみ信の事が出てくるのが嬉しい。1977年発行。まだお元気な頃。
そして石田英二。安定の「酒癖が悪くて」……ほんとに、どんだけ失敗してるんだ!

知ってる名前知らない名前、知ってる事知らない事が色々と出てくる。
じん弘さんのスリーポイント?ポインツ?のメンバーが書かれているのは初めて見た。北海道太さんはどこかで見たような。九九八十一さん、ここでも名前が出てくるか!そして声優として知られる長谷さん治(はせさん治)さん、演芸本ではお初。

渡部清・小菅宏『「新宿コマ」座長たちの舞台裏』

内容に偏りがありすぎる。
元々は巻末の年表を資料として活用したく購入したが、実際はこれが全く使えない代物だった。2ヶ月連続公演や、逆に1ヶ月満たない公演もあったけれど、新宿コマの基本は1ヶ月公演だから、毎年ほぼ12公演が行われていた。なのに年表は12公演が書かれていない。酷いのは1年間2公演しか書かれていない年もあった。発行の2007年は閉館前年なので、まだ公式サイトもあったはず。公式サイトには過去の公演記録がちゃんと載っていたのを私は大昔に確認している。どうしてそんな、最低限の取材もしなかったのか。天下の講談社なのに!
ガッカリを通り越して怒りすら覚える。

本編も本編で酷い。
2007年時点で新宿コマには51年の歴史がある。その間、主演した人は数知れずだが、本編に出てくる名前は美空ひばり、島倉千代子、北島三郎ばかり。決して「満遍なく」ではないし、そういう意味では全く「コマの歴史」を語れてない。

あとがきを読むとスカスカな理由が書かれていた。コマの事を本にまとめたいと取材対象を紹介してもらい、音響技師だった口述者渡部の話を筆記者小菅がまとめたのだが、渡部の話は記憶違いや誤解、事実誤認が多くてせっかく質問した内容もあまり使い物にならなかった。それで過去に出版された美空、島倉、北島本などに頼らざるをえなかった、と。
そうして出来た本は、資料としても全く使い物にならず、読み物としてもつまらない本になってしまった。

これは企画倒れというか、生きた情報を扱えない、明かな取材不足。取材先は他にいくらでもあったはずだ。
金取るんなら内容のあるやつを書きやがれ。

橋本与志夫『日劇レビュー史―日劇ダンシングチーム栄光の50年』

これぞ力作と呼べる。陸の龍宮とも呼ばれた日劇こと日本劇場の開場から閉館までの全記録をまとめたもの。日劇ダンシングチーム(NDT)の動向や公演記録に寸評まで網羅されているので日劇に関して調べたいのならこれ1冊あればいい。
今時これだけ充実した本はなかなか出版しにくいかもしれないが、これから記録本を作ろうとする方々には是非この本の完成度を目標にしてほしい。

喜利彦山人『東京漫才調査報告及資料控』『東京漫才師大系 抄本』

『東京漫才調査報告及資料控』は黎明期から昭和40年代ぐらいまでの東京の漫才師について、既刊書籍に頼らずご本人やご家族の方にも聞き取り調査をして情報をまとめたもの。それをベースに更に調査を進めて出来たのが『東京漫才師大系』の上下巻。高価で手が出せなかったので廉価版の抄本を入手したがこれでも充分に読み応えがある。全て私家版でプロの編集の手が入っていない為、レイアウトで見難い部分もあるが、プロが入ったら更に価格が上がって購入しにくくなっていただろうから喜んで目をつぶろう。
作者がまだ20代の青年というのがまた素晴らしい。
東京漫才のすべて

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