第8章 夏夜の夢の終わり(ドラブラメインストーリーまとめ)その3

 スマートフォン向けMMORPGコード:ドラゴンブラッドメインストーリーのまとめです。

大地と山脈の王

 竜血生物たちの襲撃に耐えながら先へ進むロ・メイヒ。電車から飛び降りて広場のようなところに出ました。

 そこにいたのは、「大地と山脈の王」フェンリル。四大君主と呼ばれる伝説級の竜王だったのです。

ここはフェンリルの領域だったのか!

 絶体絶命のピンチかと思われましたが、フェンリルは侵入者のロ・メイヒを不思議そうに眺めるだけ。凶悪な見た目によらず、知能は幼い子供のようでした。

 そこにソ・シハンと夏弥が駆けつけます。
(原作によれば、ソ・シハンはデータ解析結果から地下鉄周辺の謎の振動に気づき、この場所を突き止めていたのでした。夏弥はソ・シハンに「明日の昼に夏弥の家で食事をする」約束をメッセージで送ったところ返信がなかったため不審に思い、端末の位置情報から彼の居場所を探して合流していたのです)

 ブラッドブーストを発動したソ・シハンの《君焔》と夏弥の《風王の瞳》の合体技、《火炎竜巻》がフェンリルを襲う!

火炎竜巻に倒れるフェンリル

 言霊の力で空中に漂っていた夏弥が力を使い果たし落下。それをソ・シハンが抱きとめます。ナイスプレー!
 夏弥はソ・シハンの腕の中で微笑み、賞賛の拍手を送りました。

ソ・シハンの腕の中で微笑む夏弥

 そして……


突然竜化した夏弥

 夏弥は突然、ソ・シハンの腹部を刺したのです。笑みを浮かべた彼女の肌には鱗が浮かび、竜化の証がはっきりと見て取れました。


イエメンジャド

「思いもよらなかった?」
「彼は私の兄。竜族の名前は『フェンリル』よ。大地と山脈の王」
「だからあたしの名前も分かった、だろう?」
イエメンジャド

 フェンリルは、北欧神話で邪神ロキと女巨人アングルボザの間に生まれた狼だと伝えられています。彼を「兄」と呼ぶならば、夏弥の正体は……

「イエメンジャド、フェンリルの妹」
ソ・シハン
「そうよ、あたしがイエメンジャド、竜王イエメンジャドよ。あんたたち人間の神話の中で、『中庭』を取り囲んでいるあの蛇のことよ」
イエメンジャド
夏弥の正体は竜王イエメンジャドだった

 彼らにはもう一人の妹、死神のヘルがいるはずです。イエメンジャドは、ヘルはまだ生まれておらず、今日この地に彼女が降誕するのだと言います。

「心配しないで先輩。今夜に三番目の竜王が現れることはないわよ。あんたたちの推測は正しいわ。四大君主の王座に座るのは、みんな双子なの」
「死神ヘルはあたしと兄が融合して生まれるの。今夜、ここでね」
イエメンジャド

 竜の力は血統に由来します。混血種は己の血統の純度を高めることでより大きな力を得ようとしますが、イエメンジャドら純血種は既にピークに達しています。血統を強化するためには、他の純血同類の血を混ぜるしかありません。

「もしあたしが彼を食べたら、あたしたちの血統は融合し、ヘルが生まれるの。ヘルはフェンリルでも、イエメンジャドでもないの。彼女はあたしたち2人の融合体、力は2人を足したものより強いの」
イエメンジャド
「最終的に、君達は神に進化するということか?」
ソ・シハン
 「よく言うわね。死神というのは、ニーベルンゲンの女王だよ。世界中にあらゆる死者の国の扉を開くことができるの。それはまさしく、神話時代の再来よ。何と美しい。でも残念、あんたたちにはみえないんだ」
夏弥

 つまりイエメンジャドは、兄フェンリルを呑み込んでヘルに生まれ変わろうとしているのです。

「以前、兄のことを言っていたな……自分のことをとても信じていて、兄にとっては、君が全てだと……本当なら反撃できたはず。ただ、君がその前に立ちはだかったから、彼は驚いたのさ」
「その気になれば、いつでも彼を呑みこめていただろう。どうして、今日まで回り道をしていたんだ?」
ソ・シハン
 「それは彼を愛しているからよ」
夏弥
圧倒的強者が見せた、弱さと涙

 顔を上げたイエメンジャドの頬には涙が流れ落ち、その瞳は悲しみに溢れていました。兄を愛していても、同類に対抗するためには圧倒的な力に頼るしかなく、そのために彼らはヘルになるしか道はないのです。

「それでも、彼を呑み込む……そうなんだろ? 俺のような非力な人間に、そんな弱音を吐く必要があるのか?」
「君は竜だ。この世に2人しか残っていなかったとしても、君は温もりをくれる最後の1人を犠牲にして、権力と力を手にするのだろう……君達は弱肉強食の種族だから……俺達人間より強いんだ。強い者だけが、最後まで生き延び……弱者は同族の餌食になるだけだ」
「君はもう成功したんだ。成功した者が弱々しく涙を流すんじゃない」
ソ・シハン

 おかしな人ね、本当に人間なの?
 その思考は竜そのものだとイエメンジャドは笑います。

「でも彼は食糧じゃないわ。あたしの兄よ」
イエメンジャド

双子の竜王

「君の力は、お兄さんには及ばない。なぜだ?」
ソ・シハン
 「王座にいる双子はどれも異なるの。あたしたちは互いを補う関係なのよ」
イエメンジャド

 フェンリルは生まれつき優れた血統を持っており、その言霊はイエメンジャドをはるかに超えていましたが、その知能は低いレベルに制限されてしまいました。イエメンジャドは彼の頭脳。彼は妹を信じて従えばそれで良かった……

「これが君達の父、黒王の計画か? 力を握っている者が、逆に大きな弱点を持っているとはな。ヤツらは君達のために用意したエサなんだ。どうしようもなくなった時に、ヤツらを食べられるようにしてあったんだ」
ソ・シハン
「そうよ、彼らは生まれつき……食糧なの」
イエメンジャド

 イエメンジャドがフェンリルに寄り添って囁くと、死んだはずのフェンリルが目を覚まし、再びソ・シハンとロ・メイヒに襲い掛かります。ソ・シハンは三度目のブラッドブーストで半ば意識を失いながら戦い、イエメンジャドは「あんたはもう堕武者だよ」と呟きます。

 奮戦の末フェンリルを倒したソ・シハンは力尽き、立ち上がることができなくなります。イエメンジャドはソ・シハンのもとに近づき、彼と目線を合わせるようにしゃがみ込みました。

いつもの夏弥の姿に戻っている

 その顔や身体には、竜化の痕が全く残っていません。いつもの愛らしい「夏弥」の姿が戻っていました。

 意識を取り戻したソ・シハンは、前にも何日も意識を失った後、最初に見たのが彼女だったことを思い出します。「まるで悪夢みたいだな」と呟いたソ・シハンに、「悪夢は終わったよ」と言う夏弥。

「あんたはもうじき死ぬわ。まだ何か言いたいことある?」
夏弥

 「夏弥にかい……それともイエメンジャドに?」とソ・シハンが尋ねると、彼女は「夏弥に。あんたはイエメンジャドのことをまったくわかっていないんだ」

束の間、穏やかな時間が流れる
「どうして……家に誘ったんだ?」
「本当のことを言うと、あんたはもともとここで死ぬはずじゃなかった。あたしが最後に送ったメール通りに、ちゃんと寝て、明日の正午、新しく買った服を着て、あたしの家に来ればね」
「もちろん、あたしには会えないけどね。その時、あたしはいないはずだから。あたしの計画だと、今宵こそはヘルが誕生する日だ」
夏弥

 そうならなかったことを夏弥は残念に思っているようでした。ソ・シハンは「悪く思わないでくれ」と詫び、「もう少し時間をくれないか……幾つか質問がしたい」と続けます。夏弥はこれを了承しました。

「初めて君に会った時から、懐かしい感じがした。なぜだろう? どうして俺は、それを思い出せない? 近頃、ずっと考えていたけど、どうしても思い出せないんだ」
ソ・シハン
2人は以前から互いを知っていた?
「あたし達は幼なじみなんだよ。言ったでしょ? あんたと同じ学校よ、ずっとね」
「友人のいない者同士、あたしたちはお互いのことを一番知っているのかもしれない」
夏弥

 実はソ・シハン、ロ・メイヒ、夏弥は、学年は違いますが同じシラン中学出身。ソ・シハンが中学バスケットボールチームのエース選手だった頃、彼女はチアリーダーとして彼の応援もしていたのです。映画館や水族館にも行ったことがありました。今になって、ソ・シハンは忘れていたそれらの記憶を思い出します。

「あんたの記憶を消したわ。あたしのことを覚えてるのは、あんたにとっていいことじゃないわ」
夏弥
「どうして、俺だったんだ?」
ソ・シハン
この出会いにどんな意味があったんだろう
「あんたがオーディンの烙印を持っているからだ。あんたがなぜ選ばれたのかはわからないが、あたしが観察するのは、オーディンのことを知りたいからだ」
夏弥

(※)オーディンとは、北欧神話に出てくる神で、神話によればラグナロクでフェンリルに呑み込まれますが、フェンリルはオーディンの息子ヴィーザルに殺される運命にあります。

「あたしはそのためなら、何だってするよ。あんたに特別な魅力を使ったの。言い換えれば、色仕掛けだ」
「けどあんたはまるで石頭みたいに無反応だ。ちょっとした挫折を感じたよ」
夏弥

 「そういうことか……」と独り言ちるソ・シハンの仕草を嘲笑と受け取ったのか、少しムキになった様子の夏弥。「あの時あたしはまだ人間のやり方を完全には身につけていなかったから、色仕掛けだって下手だったよ」と主張します。

(その4に続きます)