難民の受け入れ手順、法令と人員について

 戦争の足音が近づく昨今ですが、皆様元気にお過ごしでしょうか。
 先般、麻生副総理が朝鮮半島有事の際の難民、難民に偽装したゲリラなどの扱いについて発言し物議を醸しましたが、ここでは僕自身の考えをここに書いておきます。これは個人の見解であり、所属する組織の見解ではないことを申し添えておきます。 

 日本の場合、難民の流入経路は海からに限られます。そのため難民対策は沿岸監視が重要な任務になるわけですが、日本の海岸の総延長は3万4千kmと、地球一周の八割にもなります。重要な地点はすでに海上保安庁や自衛隊が沿岸監視の要員を置いています(位置や規模については非公開です)が、それであっても、過去に北朝鮮の拉致を止めることができなかったことを考えると、沿岸監視要員の増員は必須であると考えられます。 

 また、難民を受け入れる港は軍事拠点として用いられず、かつ軍事施設から十分遠い場所にあるもの(もしあったとしても救難隊などのように直接の敵対行動に関与しないもの)であって、鉄道や高速道路などで内陸への輸送手段が確保されていることが必要になります。 難民が弾道弾攻撃などの巻き添えに遭えば、我が国が非難を受けることは免れませんし、そうでなくても、「人間の盾」を疑われるような事態は避けなければなりません(敵が残酷で非人道的な連中であっても、我々がそのようなことをする理由とはならないのです)。 
 適当な場所としては、小樽港、新潟港、敦賀港などが挙げられますが、紛争の発生にあたっては、難民を受け入れる港湾、海域や航路を明らかにし、短波や中波帯での放送によってこれを周知する必要があるでしょう。また、自衛隊はやむを得ない場合を除いて、周知した海域や航路での軍事行動を避ける必要があります。 

 難民は日本国に入った時点で「難民の地位に関する条約」と「戦時における文民の保護に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(第四条約)」による保護を受けることとなります。また軍人や軍属は捕虜として「捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(第三条約)」による保護を享受することとなるため、上陸を希望する人々の地位の確認が必要になります。そうした活動を行うための根拠法が、「武力攻撃事態及び存立危機事態における捕虜等の取扱いに関する法律」となります。
 防衛出動下にある自衛官はこの法律により、捕虜等を拘束する権限を有することになりますが、それ以外の、例えば治安出動や災害出動ではその権限を付与されません。平時においては上陸しようとする人々の身柄を入国管理局が預かることとなりますが、万一上陸者が武器を持っていた場合、入国管理局の装備では対抗することが難しくなるため、防衛出動下にある自衛官が一次対応を行うことが適切と考えられます。  
 出動自衛官は、難民として渡ってきた人々が武器を持っておらず、また軍人軍属でないことが明らかな場合は、「放免」と言って身柄を解放しなければなりませんが、実務上は入国管理局に身柄を引き渡し、二次対応を任せることになります。 

 難民と捕虜の輸送も大きな問題になります。94年の朝鮮半島危機において防衛庁(当時)は、北朝鮮において100万人の難民が発生し、その大半は中国か韓国に逃れるものの、うち5万人が船で日本に渡ってくるだろうと試算しました。また、韓国からは22万人の避難者が渡航してくると予想したようです。彼らを最終的にどうするかは別にしても、いったん留め置く場所、輸送手段をどうするのかという問題は避けて通れないでしょう。

 難民のうち、第三国への出国を希望する場合には、ジュネーブ第四条約に基づいて出国する権利を持つこととなります。この規定は、日本国内に居住する、敵国籍を有する外国人についても適用され得ます。

 難民のうち日本国にとどまることを希望した人たち、もしくは日本国内で永住資格を有する外国人で、身柄の保護を日本国に要求した人たちは、いずれも日本国政府が保護する義務が生じます。具体的には、日本人や永住者らが暮らす地域からは隔離して、仮設住宅や天幕などを仮住まいとし、他の地域への移動や外出、あるいは旅行を制限することになると考えられます。いわゆる難民キャンプです。難民については「出入国管理及び難民認定法」に基づいて上陸許可を与えることになりますが、同法により引き続き居住や移動には著しい制限が加えられることになります。その他の被保護者については第四条約に規定があるものの、立法措置がなされていません。

 難民キャンプは攻撃の目標から除外されるべき施設のため、意図的に軍事施設に近づけないようにしなければなりません。たとえば、自衛隊の北海道大演習場などは候補として有力です。演習場と言っても森林や原野が主であり、駐屯地や高射部隊の施設、レーダー施設などから隔離できる場所が多く確保できるものと考えられます。

 いっぽう捕虜についても、同様に軍事目標から隔離して抑留施設を設置する必要があります。主戦場は朝鮮半島となる可能性が高いため、日本国内に大規模な施設を置く必要性は低いですが、前述の難民に紛れて入ってきた軍人や軍属、武装難民のうち武装解除に応じなかったものや、戦闘の結果日本国の権力下に陥ったものの収容は自国において行う必要があります。彼らの抑留は、前述の難民や被保護者とは分離して行わなければなりません。

 難民及び被保護者については、戦争状態の終了をもって本国に送還されます。永住資格を持つ者については引き続き日本国にとどまることを許されます。
 捕虜は戦争状態の終了か、宣誓解放といって「二度と日本国への敵対行動に参加しない」ことを誓約させたうえで放免するときをもって解放されます。後者については、武力攻撃事態において特別な立法を要します。宣誓に反した場合の罰則は、法に基づく必要があるからです。

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