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〝誠実さ〟で塩を選ぶ。

文・撮影/長尾謙一 

クリスマス島の塩(素材のちから第31号より)
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この塩は、素材に余計な味は加えない。素材本来のよさをただただ引き出す仕事に、時に〝誠実さ〟を感じることがある。人間関係から料理づくりに至るまで、〝誠実さ〟を何より大切にする料理人がこの塩を使い続けるのも、きっと偶然ではないはずだ。

一つの素材にこだわらない私が、すっかり惚れ込んでいる塩です。

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店主 五十嵐 明良 さん

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和の食 いがらし 東京都渋谷区恵比寿
和食店の「カウンターに立つ料理人の格好よさ」に憧れて料理の道へ。西麻布「つくし」にて13年間修行し、2008年8月に「和の食 いがらし」をオープンして独立。素材選びから調理、サービスに至るまで、仕事に対する「誠実な姿勢」を何より大切にする。料理、盛り付け用の器は月ごとに変わり、季節の移ろいを細やかに演出する。カウンターに立つ五十嵐氏の温かい眼差しと心配りが、隅々まで行き届いている店だ。

〝誠実さ〟から質の高い料理が生まれる

〝誠実に〟仕事をする。これはお客様に対しても、料理に対しても、すべてに通じる私の考えです。約束を守る。嘘は言わない。ごまかさない。口では簡単に言えますが、実行するのは意外に難しいことです。だからこそ、普段の生活からそういう姿勢を大切にしているんです。

それは食材の仕入れでも同じです。食材はその時に一番いいものを選びますが、生産者でも卸売でも、誠実な方がつくったり選んだりした素材は、やはり質がいいですね。誠実な素材を使って、誠実な心で調理していく。仕事に込められた心は、お客様に必ず伝わると思うんです。

また〝誠実でいる〟ことは、味の変化をおそれないことだとも思います。私の場合、塩でも醤油でも、いいと思う素材があったらどんどん変えます。自分の中で数ある素材を比べ続けて、〝味のトーナメント戦〟をしているような感じですね。

変えることでより高いレベルの料理になりそうなら、すぐに挑戦したくなります。常に質の高い料理を追い求める。それが料理人からお客様に伝えられる、最大の〝誠実さ〟なのかもしれません。

今回のテーマである塩は、和食にとって出汁と同じくらい大切なものです。昔はいろいろな塩を使っていましたが、「クリスマス島の塩」ほど私の料理にストンとはまる塩はありませんでした。最初はお椀や魚を焼く時に使ったのですが、素材から旨みが引き出て、それまでの塩の味とは明らかに違いました。それからどんどん他のものにも使い出して、今ではほとんどが「クリスマス島の塩」です。

使い続けてもう7年、ずっと〝味のトーナメント戦〟に勝ち続けています。一つの素材にこだわらない私が、すっかり惚れ込んでいる塩です。

しょっぱさを感じさせずウニとお米の旨みだけを引き出す

「クリスマス島の塩」のよさは、しょっぱさを感じさせずに素材の旨みをしっかりと引き出してくれるところです。たとえばこの塩を使った料理に、〝ウニの炊き込みご飯〟があります。お米とウニを土鍋に重ねて、シンプルに炊き込みます。

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ウニと米の旨み、甘みを引き出して炊き込む
ほろっとやわらかいウニと、ふっくらとして弾力のある米。「クリスマス島の塩」が二つの素材の旨みと甘みを引き出し、土鍋の中で一つにしている。シンプルな料理だからこそ、誠実に引き出された素材本来の味が強く印象に残る。

お米を炊く下地は、まぐろ節で取った出汁、「クリスマス島の塩」、醤油を加えてつくります。上にのせたウニはその時おいしいものを使って、先に少しの「クリスマス島の塩」をあてています。余計な水分を出して、旨みをギュッと凝縮させるためです。

お米は毎年オーダーメイドでブレンドして、7~8回に分けて丁寧に精米したものを使っています。熱がかからないよう手間をかけて精米することで、お米の風味をなるべく残してあげるんです。そのお米を強火で短時間で炊き上げることで、形も旨みも一粒一粒がしっかりしたご飯になります。

食べてみると、塩味は薄くすっきりしているのに、ウニとお米の旨み、甘みをよく感じると思います。これが「クリスマス島の塩」の効果です。やわらかいウニ、弾力のあるお米との食感の違いも楽しいですね。噛むたびにウニとお米の甘みが出てくるような、味わいが長く続く炊き込みご飯だと思います。

炊き込みご飯は、コース料理の最後に必ずお出しするメニューです。素材一つ一つに誠実に向き合うことで行き着いた、当店を代表する一品です。

透き通った出汁の中で蓮根の甘みを際立たせる

次の〝蓮根饅頭の清汁仕立て〟は、味付けに「クリスマス島の塩」しか使っていません。蓮根饅頭はすりおろした蓮根、車海老、穴子でタネをつくって、そのまま丸く素揚げにしました。

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蓮根って実は甘いんです。そのままだと甘さがありませんが、「クリスマス島の塩」をちょっと練り込んであげることでグッと甘くなります。添えた野菜は湯がいて出汁に浸したつる菜、饅頭の上にはみょうがをのせました。お椀の出汁は昆布出汁とまぐろ節出汁を合わせて、「クリスマス島の塩」で味を調えています。

炊き込みご飯もそうでしたが、私は出汁にまぐろ節を使います。まぐろ節の出汁は香りが少ない分、甘みがあって、雑味がほとんどありません。なので「クリスマス島の塩」と合わせて使うと、より透き通った印象の出汁になるんです。

7年前に塩を変えた時から、「出汁がおいしいね」というお客様の声が多くなりました。塩が出汁にすっと溶け込んで、甘みをぐいと押し出してくれるからだと思います。このお椀にもそれなりの量の塩を使っていますが、塩味はあまり感じません。ですから食べると、透き通った出汁の中で、蓮根の味が際立って感じられると思います。

下手な細工はせず、ただ誠実な気持ちで塩を変えただけですが、効果はとても高かったですね。

炭の香ばしさに負けない甘鯛の旨み

最後は〝甘鯛の松笠焼き〟です。こちらも「クリスマス島の塩」だけの味付けです。

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鱗を付けたまま三枚におろした甘鯛に塩をふり、バットに鱗を下にして置き一日風干しします。次に鱗だけに熱した油をかけてパリパリッと立たせ、身を炭火で焼きます。皿に盛り付け、昆布とまぐろ節の合わせ出汁で焼きびたしにして、白髪ネギと木の芽をのせました。

甘鯛をいただくと、想像以上の香ばしさが口に広がると思います。鱗にかけた油と甘鯛からじわっと出る脂が炭火に落ちることによって、煙がたくさん出て、身が燻されます。炭の香りたっぷりですが、身を噛むと甘鯛の旨みもしっかり感じます。最初に「クリスマス島の塩」で甘鯛の旨みを引き出しているので、身の味が炭の香ばしさに負けないんです。

これを透き通った出汁で焼きびたしにすれば、甘鯛のおいしさをしっとりと味わう秋のお皿ができ上がります。余計な味でごまかさず、素材が本来持つおいしさをそのまま引き出すという意味では、「クリスマス島の塩」そのものも〝誠実な仕事をする塩〟なのかもしれませんね。

すべてに誠実でいることは難しいかもしれませんが、当店に来てくださるお客様のためにも、そうありたいと思っています。細かいところにも気を配りながら、これからも誠実な料理と、誠実な塩使いを心がけていきたいですね。


お問い合わせ:クリスマス・アイランド21株式会社

(2018年9月30日発行「素材のちから」第31号掲載記事)

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