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TOKYO世界という1人の無名ラッパーに心打たれた話

海外VIPとかも、デジャブとか見たら「え!この光景見たことある・・!」とか言うのかな。
早速タイトルの話をしていこう。


その日はいつもより寝てなかったからか、すんなり眠れると思っていた。
携帯をつついてから寝ようと思ったが、シーズンが始まると欠かさず見ているABEMAで放送される「ラップスタア誕生」が放送されると知り、思わず起き上がり画面越しに待機。

毎年熱いオーディションが繰り広げられ、ヒップホップが好きな私は
この時期になると楽しみが増えるのだ。

放送が始まり、オーディションが始まる。
各ステージごとに突破する人数が絞られていき、最後のステージを突破すると晴れてラップスタアになれるというわけだ。
放送される段階で約5000人の応募者から40人まで絞られており、
既に知らないところで知らない人の野望がガンガン挫かれているのだ。
厳しい世界である。

最初の審査は「サイファー」。
5人程度のラッパーがあらかじめ用意されたビートに合わせ、
ラップをかましていく。

今回の放送ではA~Cグループの3つのグループについて放送されるようだ。
Aグループが終わり、審査員が講評。
審査員はスタジオでサイファーの様子を見ており、パッションのSEEDA、ロジカルのR-指定、カリスマの¥ellow Bucks、俯瞰のralph、センスのLEX、そしてプロデューサー視点のZOT on the WAVEと様々な角度からコメントがある。
褒めるだけでなく指摘もあり、とにかくシビアなのだ。

なんとなく自分がどう感じたかと審査員の反応などを楽しみながらBグループまで視聴。
個人的にはそこまでぐっとくるラッパーがいたわけでもないが、
毎年割とそんな感じだったし、サイファーではそこまでだったと感じても
ステージが上がるにつれかっこよくなるラッパーもいるので何の心配もしていなかった。

Cグループが始まった。
1人、1人とかましていき、最後の1人に。
「あー、この人で終わりかー、寝る準備しながら観よっと」
と思ったその時だった。

『昭和歌謡がbro 千恵子倍賞でシ〇る(skrrrr)』


「んんんん!?何じゃこのリリック・・
倍賞千恵子で興奮する年齢ちゃうやろ、あぁ、それくらい昭和のコンテンツを消費してきたってことか、おもろ」

それまで寡黙に真剣に聞いていた審査員たちもブチあがっている。
例年に比べてスタジオの空気は若干重たく感じていたところだったが、
お通夜から急にお誕生日会のような雰囲気に様変わりした。


『渥美清 憧れひとり 川辺歩き smoke
trauma いっぱい 過去
洗い流す song
これがお守り 辛いmemory すべてかき消そう』


うわ、、ヤバすぎる。
とりあえず整理してみる。

まずは3・3・7拍子のリズムになっている点。
潜在的に気持ちいい、そしてなんとなくノスタルジックになる要素がリズムに秘められている。
さらに倍賞千恵子からの渥美清。フーテンの寅さん、「男はつらいよ」をいっぱい観て育ったのだろう。
traumaのトラは寅さんから来ているのかなと。

そして韻を踏んでいるポイントは
清→ひとり(ioi)
憧れ→川辺(ae)
渥美→歩き(aui)
から始まり、一つのラインだけでも各ポイントで細かく踏まれていることがわかる。


『同じ人間なのに50m俺は8秒台』



そこからの展開もおもしろい。
最初のバースで自己紹介「昭和歌謡が好きです、辛い過去あります、韻踏めます」と強すぎるジャブを打ってきた後にこのライン。

あくまで想像の範囲でしかないが、男子学生なら誰しもが抱く劣等感をぶつけてきている。
学生時代は足が速いやつがとにかくモテる。
とにかくモテてこなかったということがこの一文だけでよく伝わってくる。

『同じ人間なのにあいつは大手(王者?)俺はバイト暮らし
同じ人間なのに170にみたず人権もない
同じ人間なのにあいつはバズり 俺はシャドウバン』


同じ人間なのに~と続けていくことで気持ちいいリズムを刻んでいる。
たぬかなの発言を引用したり、シャドウバンされていることなど、
ネット住民であることや、その中でもどうにかして結果を出そうともがいていることがわかる。
僻んでいる気持ちをぶつけてはいるが、努力はしっかりしていることも見えるし、好感がもてるのである。


『同じ人間なのに未だラップからスタアメールこない
同じ人間なのにできた格差埋めるためにやる』


この辺りでビートの雰囲気も激しくなり、どんどん勢いが増していく。
ここまで一貫して不条理を嘆きながらもやることはやってるぜという意思が見える


『俺はウサギに負けるカメ なにをやってもダメ』


なかなかの刺激的なライン。
ウサギとカメの童話では、最後油断したウサギはカメに競争で負けるが、
このカメ(努力している自分)はウサギ(才能のある他者)に負けるのである。
こんなにつらいことはない。この世に綺麗な美談はないんだと感じることが多かったことが、『何をやってもダメ』からも読み取れる。


『tryna 勝てるまで dick以外舐められてクソみたい』


この言い回し、完璧すぎる。
dickが舐められてないことでこれまでモテてこなかったことがありありと示されつつも、それ以外は舐められてきた、周りからバカにされてきたという
ことが表現されている。

個人的には『クソみたい』を選べたのは天才だと思っている。
「fxxk」を表現するうえで字数の気持ちよさと、『以外→みたい』で韻を踏んでいる。
『~みたい』と断定を避けていることで気持ちの弱さも垣間見れ、
これまでのバカにされてきた人生の表現クオリティを上げている。


『日陰者が磨いたものでいつかなるよ何者
頻尿で貧乏が日の目浴びるよ 入るよビルボード見てろよ』


フロウと韻は言うまでもなく、
審査員も喰らっていた。
ここで初めて大きな夢と野望を表明をするのだ。こんな俺でもやってやるぜと。

日陰者と頻尿が対応しているのであれば、おそらく学生時代頻繁にトイレに行く→いじめられていた過去とかもありそうだ。


『悲しくて悲しくて とてもやりきれない人生をchange』


喰らいさらした。
引用元はフォーククルセイダーズの「悲しくてやりきれない」という昭和の名曲。とにかく引用のセンスがいい。

恐らく、この「悲しくてやりきれない」と「男はつらいよ」が彼にとってお守りになっていたんだと思う。

彼のことをディグっていると恐らく親への憎しみととれる曲なんかもあり、幼少期の家庭環境はあまりよくなく、その中で昭和のコンテンツに支えられて生きてきたのだろうと勝手に泣きそうになった。

親からの固定観念の強い躾を昭和の価値観としたときに、とはいえ支えられていたものも昭和のコンテンツという構図も心にくるものがある。


とまあ、ぶちかまされた結果、彼のことを調べるために寝不足になってしまった。
サンクラの他の曲もかなり素晴らしい出来で、
個人的に「dakisimete」はすでに何回もリピートするほど聴き惚れているのである。

言うまでもなくこの一瞬で彼のファンになった。
同じ日陰に住むものとして彼の存在には惹かれるものがあって、
今日本中で同じ感覚になっている同士も多いと思う。

さて、来週以降のラップスタアで彼の活躍を見届けよう。

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