W杯予習-男子バスケ日本代表の課題

みなさんこんにちは、佐々木クリスです。

第一回目からW杯予習に大変反響を頂きまして、感謝と共に改めて男子バスケ日本代表への関心度の高さをヒシヒシと感じています。と、なるとこのFIBA バスケットボール ワールドカップで日本が歴史的な勝利、そして1stラウンド突破の為に何が必要となってくるのか。今、皆さんが一番気になっているところではないかと思います。

と言う訳で、第二回は『予選と強化試合でみえた日本のウィークポイント』にフォーカスしてお届けしたいと思います。

相手に与える数的優位にどう対応するのか?

皆さんがW杯において注目すべき日本の課題は2つ、相手のオフェンスリバウンドと相手の3ptシュートです。

実はこれまでW杯に向けた日本代表の戦いを見ていくとこの2つは切っても切れない関係にあり、共に日本代表が抱える悩ましいディフェンスの課題が浮かび上がってきます。キーワードは相手に与える数的優位

バスケは数的優位をコート上のどこかで作り出すことが攻撃任務の半分以上と言っても過言ではありません。その数的優位作りに一番威力を発揮するのがリング近くのペイントエリアにボールを進める=ペイントタッチorペイントアタックと呼ばれる動き。

ちょっと話は逸れますが、バスケはとても攻撃側の優位性が強いスポーツ。守備側は常に攻撃の行動=アクションに対して、守備が反応=リアクション、する駆け引きが常に行われています。なので高度な守備的組織力や、対戦チーム間に圧倒的な能力差が無い限り基本的にはオフェンスが有利なのです。

24秒に一回シュートを打たなければ行けないと言うルールは試合のテンポを上げ、観戦する上でもエンタメとしての満足度を高めることに大きな役割を担っているのは歴史的にも無視できない事実。と同時にこのルールがなければ、高度な攻撃を展開できるプロレベルならば、その優位性から攻撃側がいつかは必ず得点できてしまう、と言うディフェンス側の絶望感もルールが排除してくれている気がします…。

ディフェンスの絶望感…咄嗟に思いついた表現ではありますが、ディフェンスの性として相手に必ずどこかで優位性や数的優位を明け渡してしまう可能性がある。ならばどこで明け渡すのか?明け渡さないのか?戦略的な優先順位を決めることが必要ですね。

日本代表はペイントエリアと呼ばれるバスケの攻防における最重要エリアを守ること、これに強く振り切れた守り方をしてきました。相手のピック&ロールに対する5人の陣形もそうですし、2-3といったゾーンディフェンスするのもその為です。

リング周りを人数かけて守る、すると必ずどこかでノーマークな選手が生まれる。チームとして中間距離や外郭に仕向けているかもしれないが、この局地的な数的優位こそ相手のオフェンスリバウンドや3ptシュートの頻度として表面化しています。

プロのレベルでディフェンス側がオフェンス側よりリング側に位置(インサイドポジション)しながらリバウンドを取られることはよっぽどの身長差があるか、集中力が欠如している時だけでしょう。相手がリバウンドに触れる確率が高いのはそこに身体を入れる“ズレ”が存在するから。そして強豪国は考えられないような僅かなズレにも身体をねじ込んできます。

ZONEディフェンスがリバウンドに脆さを見せるのも身体を張って締め出すべき相手がマンツーマンと違って曖昧になる瞬間が多く潜んでいるからに他なりません。

オフェンスリバウンドとはシュートを放ったチームが外れたシュートを再び確保(リバウンド)することですが、オフェンスリバウンドを取得するとそのままリングに流し込むか、または3ptラインにボールを吐き出して絶好の得点機会が生まれる為、このようなカオス状況ではどのようなチームも高い得点効率に結びつき易いと言う特徴があります。守る側としては非常に大きな脅威です。

こうした観点からも日本代表も一瞬はズレを明け渡しても機動力でカバーして補い、ポジショニングの優位性を解消しようと選手たちがハードに取り組んでいることは書いておかなければなりません。誰もリバウンドをプレゼントしようとは思っていない。そういう優先順位でシステム上戦っている、ということです。

オフェンスリバウンド支配率=ORB%を抑えろ

ではこちらのデータをご覧ください。

FIBA バスケットボール ワールドカップ予選12試合での対戦相手ORD% 

オーストラリア 43.3%
フィリピン 36%
チャイニーズ・タイペイ 33.3%
カタール 23.9%
カザフスタン 29%
イラン 44.1%
(Bリーグ2018-19シーズン平均28.2% NBA22.9%) *NBAはORBへの参加頻度が戦略上低いリーグです

この割合で示されたデータは、自らシュートを放ったが外れた=オフェンスリバウンドの機会、に対してどのくらいの割合でボールを確保したかを示しているものです。当然日本にとって低ければ低いほど良い(相手に取らせていない)ということ。Bリーグ平均と比べるとカタールを除く全ての対戦相手に平均以上を与えていることがわかります。

なぜこの支配率を用いているのか?それはシュートを20本外した(オフェンスリバウンドの機会が20回ある)チームとシュートを10本しか外さなかったチームが試合を終えて5本ずつオフェンスリバウンドを確保していた場合、その価値が全く違うからです。実数は事実の半分も露わになってない可能性があります。

とは言え、これからFIBA バスケットボール ワールドカップを観戦しBOXスコアも確認したいと思っている方がORB%まで出すのはおっくう。そう言う時は2チームのORBの単純な差し引きと両チームのFG%を比較することをお勧めします。 (シュート率が高いチームがORBでも上回っていればかなり有利に試合を進めている可能性が高いですね。)

続いて強化試合での相手ORB%

ニュージーランドG1 34.1%
ニュージーランドG2 31%
アルゼンチン 7%
ドイツ 48.9%
チュニジア 25%

5試合で平均11.8本を許し、支配率平均も31.4%でした。W杯本戦ではペイントを最優先に守りつつ相手のORB%を30%程度に留めることができるかどうか、これは日本のディフェンスが高い精度で連動しているかどうかを見極める重要な指標となるはずです。

余談ですがアルゼンチンは7%という低い数字ですが、彼らは日本に対し103点という突出した高得点をあげており、シュートも決まっていた為、そもそもORBをとる必要も機会もなかった、ということが言えます。

恐ろしいのはドイツ戦。彼らのシュートが外れたことで日本は勝機を得ましたが、グループステージでチェコやトルコが3ptを10/39=25.6%の低い成功率で日本との対戦を終える期待を持つのは楽観的すぎる上、48.9%のORB支配率を与えてしまえばたちまち勝機は失われてしまうでしょう。
(ドイツ戦 BOXSCOREはこちら https://akatsukifive-men-2019.japanbasketball.jp/boxscore/?schedulekey=5942&period=18
)

それでは次の課題に行きましょう。

相手に与える3ptの本数に注目

ドイツは日本相手に3ptを39本放ち10本の成功、25.6%の成功率で試合を終えました。これは日本の守備としては成功だったのか?

3ptに対するディフェンスを測る完全な指標は存在しないのが事実。ですが僕が試合を観る=eye testとデータを複合した際、3ptに対する守備の指標は『何本打たれたか?』です。

なぜなら強大な1on1プレーヤーを除いて(そして一か八かのシュートを除いて)コート上で放たれる3ptシュートのほとんどがキャッチ&シュート(C&S)だからです。シューターがパスを受けてドリブルをせずそのままリリースするこのタイプのシュートはディフェンスが目の前にいない、もしくはわずかながら遅れているタイミングで放たれます。ビタッとディフェンスが目の前にいるのに『どうぞ』と打たせてくれる相手はいないですよね?

昨シーズンNBAで放たれた3ptシュート、78742本のうち実に70.1%がC&Sによって放たれています。Bリーグにも似たよう傾向があり、選手の判断は当然のごとく問われますが質の高い3ptを必要以上に打たれているということは前回のeFG%の概念からもディフェンスとしては“押され気味”だということになります。

好むか好まざるか、それはスタイルの問題であって世界ではリング周りの得点効率を引き上げる為、3ptシュートを増やし、その引力を活用してディフェンスを引き延ばすことが意図的に行われています。しかし、これはまた別の日、別のテーマで解説する機会があれば…。

ただ想像してください、ペイントを守った。しかし3ptを決めたれた。3ptを今度抑えにいく。中がやられる。ディフェンスにとって永遠のテーマと言えるような問題ですがアプローチの仕方は様々です。

日本代表の課題克服に向け、ワールドカップ本戦で注目すべき選手

ここまで読み進めて頂いてもうお察しの通り、W杯における日本の課題は守備です。その守備におけるキーマンは誰か?

まず、ニック・ファジーカス。日本のPnRディフェンスに外郭から人数をかけなければならないのも、ZONEしなければならないのも彼の機動力不足とリングを守る威力の低さに起因しているところが大きくなっています。Bリーグを観戦してきている方なら、相手チームが攻撃でファジーカスを外に引き出してアタックを試みているところを何度も目にしていると思います。

前回も得点面以外での貢献が必要と書きましたが、彼は極めて攻撃的な選手。得点でチームに+の効果が生み出せないと現段階の守備はマイナス要素が非常に強いです。強化試合から本戦までの休息とトレーニングによって、彼がどのようなコンディションで本番のコートに立てるのかはtip off直後から注視しなければならないでしょう。

そしてファジーカスが効果を発揮できない場合、代わって入る竹内譲次が果たすべき役割は大きいでしょう。外国籍が常に2人コートに立つことが許された昨シーズンのBリーグにおいて60試合中56試合でPFとして先発を務め、国内リーグで誰よりもインサイドの守備に力を発揮してきた彼がどの様なパフォーマンスをするのかも楽しみです。

続いて渡邊雄太PGからPFまで守れる万能選手です。ディフェンスの永遠のテーマ、如何に数的優位を与えないか。これを現代バスケで最も効果的に果たしている守備、それはスイッチです。

ヨーロッパのチームやNBAのウォリアーズのディフェンスで見られますが、全てのポジションでスイッチを行えるだけのサイズと機動力があれば事実上“ズレ”は与えずに守れます。局地的な高さの優位性も連続スイッチによって解消する高度な連携はBリーグでもTOPチームに見て取れます。

これが日本代表にとって可能な時間帯をラマスHCはドイツ戦、チュニジア戦でも試していたように感じました。ニックの起用が難しいと判断した場合には渡邊をPF、八村をC、田中をPGに据えてスモール・ラインアップや明確なポジションの存在しない守備を取るのも策でしょう。

ただし、これは”ズレ”を相手に与えず1on1に追い込む大きなメリットがある一方、コート上の5人が非常に高い1on1ディフェンスを見せなければドライブから簡単にフィニッシュまで持っていかれるリスクも潜んでいるのです。

ここをラマスHCはまだ計りかねているような気がします。1on1で相手の仕掛けをペイントへの侵入を許さず止められるのか?

事実ニュージーランド戦などはファジーカスのところを責められる以前に篠山、田中、比江島といった外郭の選手たちが第一線をどんどん破られてしまっていました。

もうひとつ、計りかねていると感じる理由、それはPnR(ピックアンドロール)とは別で、相手ドライブへのアカツキジャパンの選手たちの反応の仕方で僕は読み取っています。その動きとは相手にコーナーからのC&S(キャッチ&シュート)の3ptを与えている動きです。

コート上45度のウィングから相手がドライブしてきたとしましょう。この状況で同じサイドのコーナーに一対の選手がいる。ドライブを警戒してコーナーのディフェンスがボールの進行を止めに行く。

この動きが日本代表には散見されます。専門用語ではストロングサイドのコーナーからヘルプを送っている、と表現しますがNBAなどでは御法度に近い守備の考え方

なぜならコーナーでノーマークになった選手を守る選手が存在しないばかりか、地理的にローテーションが絶対に出来ずにシュートが落ちるのを祈るか、パスが外れたらなんとかリカバーするか、の2つにひとつだからです。2017-18シーズンにNBAで放たれた1200本のコーナー3ptを解析したところ8割以上がノーマークでした。

そしてバスケで最も打ちやすい3ptはC&Sであるばかりか、ドライブやポストから”キックアウト”されたシューターの正面からパスがくる状況です。これほどシューターとして“打つべきだ”との判断を後押ししてくれる状況はありません。この判断が省かれることも合間ってコーナーは、バスケで最も確率の高い3ptエリアであり、各チームはリング周りの次に“喜んで”シュートを放つエリアなのです。

ドライブされているとは言え、ギリギリまで1対1で食らいつき倒れながらのレイアップならば、たとえリングに近くともノーマークのコーナー3ptよりも得点期待値は低い。ミドルレンジで止めることができれば尚良い。これが世界の考え方です。1対1のフィジカル、スピードが備わっている互角同士の争いという前提で。

攻撃と守備では切り離して考える必要がある

前回日本の個の力は世界レベルに達したという見解をしましたが、この様な事から攻撃と守備では切り離して考える必要があると思っています。少なくとも指揮官はそう観ているのでしょう。

最後に日本が相手に与えた3ptのデータです。

W杯予選12試合
相手の平均3pt試投数24.3本 成功率 27.7%
強化試合5試合
相手の平均3pt試投数32.8本 成功率 31.4%

予選から相手の試投数はジャンプアップしています。データだけでなく実際の現象=コンテキストというものが非常に重要になりますが、映像を見る限り、世界のペース、そしてP&Rといった主流の起点作りからくるディフェンス“崩し”は本物です。予選、強化試合とも相手の成功率は昨季のBリーグ平均34.3%をも下回っています。アルゼンチン戦だけ抜き出すと日本は57.1%の成功率を許しており、世界のシュート力は本物だと考えるべきです。

そして最後に僕もう一点。それは…本当に日本はサイズ不足を補う為に今のシステムを取っているのか?という部分。これは僕にも明確にはわかりません。しかし、FIBAのサイトから確認できる日本代表の平均身長、199cmです
http://www.fiba.basketball/basketballworldcup/2019/team/Japan#|tab=roster,average_statistics
これはW杯出場32チーム中13位タイに位置しており平均値とは言え、日本が完全にサイズでは不利と言い切れなくなっているのも事実

サイズがないからリバウンドが弱い、サイズが足りないから人数をかけて中を固めなければならない。もはや近い将来その様なことが言えなくなってくるでしょう。今日本の守備に足りないのは個の強さ?orシステム?その結果がわかるのはW杯が終わってからになりそうです。

思った以上に整理しきれず、長文になってしまいました。皆さま、お付き合いありがとうございました。

データから浮かび上がる日本の課題。僕が日本代表を見ていて最も重要な2点、リバウンドと3ptシュートを紹介させていただきました。是非W杯では日本代表が相手に許すオフェンスリバウンドや3ptシュートの質に着目しつつ、これまでのデータに反して大きく下げることに成功している際にはディフェンスの強度や、時にシステムも変えて強化試合で見せた実験的な部分の活用がみなさんの目に止まれば幸いです。

※記事中に出てくるデータはNBA公式サイトやFIBA公式サイト、Bリーグ公式サイト、JBA公式サイトを元に算出しました。


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バスケットボール・アナリスト/解説者 twitter @chrisnewtokyo IG @chrisnewtokyo

コメント2件

"2017-18シーズンにNBAで放たれた1200本のコーナー3ptを解析したところ8割以上がノーマークでした。"
この部分、実際にビデオを観て目視で調査されたのでしょうか?だとしたら、すごすぎます😲ご自分の仮説を立証するために、裏で地道な作業をされていることが想像できます。
noteとても面白いので、ぜひ今後も続けていただきたいです!
私の見解をコメントさせて頂きます。
3Pについては昨年のクリスさんの勉強会で学んだことが活かされました。コーナーからの3Pの有用性は常識となっている分、そこを日本は守れていないという事実はすぐに気付かれ利用されると思います。日本のディフェンスはコートメンバーによってゾーンとマンツーを使い分けていますが、素人目ながら何のために変えているのかが見えてきません。どちらも抑えきれていない感じがします。
オフェンスリバウンドについては、正直まだまだ勉強不足でこの文面だけでは理解できませんでした。ただ、観戦中の目の付け所としてリバウンドの数は外せません。特に相手のオフェンスリバウンドの数は点差に繋がっていることもあるので比較的分かりやすいです。
ここまでの代表戦を見てきて、日本は一発勝負なら勝機があると思いました。日本はある意味掴みどころのないチームで、対処がハマらないうちに得点を重ねれば勝つチャンスはあるかなと。オフェンスの強さは通用すると思うので、ディフェンス面に注目します。特にフリーでの3Pを打たせていないか、オフェンスリバウンド→セカンドポイントを与えていないか。
色々な意味で楽しみます!
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