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76年 教会史の泰斗、石原謙とハドソン・テーラー

日本におけるキリスト教史学の泰斗(たいと)、石原謙氏の訃報記事を文化欄で展開している。

その死の3年前、91歳の氏を自宅に訪ね、インタビューしたのに基づいて記事を書いている。
70年にわたりキリスト教史の研究を続け、文化勲章を受けた東京女子大学名誉教授の石原氏である。

脳卒中で右半身不随となったなか、不自由な右手で、死の1か月前まで学的な執筆を行っていたこと、またインタビューの際は、すでに心筋梗塞の発作に苦しんでいる時期であったにも関わらず、「貞夫人と共に、こじんまりとした応接室で記者を暖かく迎えてくださった」と、その人となりを振り返っている。

インタビューは、これまでの研究のこと、文化勲章受章のことなどの後、日常生活に及ぶと、「テレビはニュースくらいでしょうか。あとは机に向かっています」との返事に、「91歳にして研究へのひたむきな情熱に圧倒された」と記している。

意外なことに、専門外の中国キリスト教史、特にその中でもイギリスからの宣教師、ハドソン・テーラーに並々ならぬ関心を寄せ、中国宣教師ハドソン・テーラーの業績を熱く語りながら、「日本のキリスト教界にもあのような、伝道の情熱に燃えた人が必要です」と語ったことを特筆している。

石原氏は、日本的精神風土とキリスト教の異質性を論じ、「日本の教会は日本という地域的風土を離れては成立し発展し得ない」また、「日本にはキリスト教会」がないとまで述べていることが知られるが、そのことと軌を一(いつ)にする発言と言うべきだろうか?

新興の「福音派」の新聞(キリスト新聞に対して、福音派を基盤とするクリスチャン新聞の創設は1967年)の記者が取材に来た、ということに思うところがあってのハドソン・テーラー談義だったのかもしれない。

クリスチャン新聞1976年7月18日号4面

日本大百科全書「石原謙」

キリスト教史家。東北帝国大学教授、東京女子大学学長、青山学院大学教授を歴任。日本基督 (キリスト) 教学会理事長、中世哲学会委員長(会長)、日本学士院会員としてキリスト教学を日本の社会に育成し、文化勲章を授与された。植村正久に信仰上の感化を、波多野精一 (はたのせいいち) とハンス・フォン・シューベルトHans von Schubert(1859―1931)にキリスト教学上の影響を受けた。キリスト教の歴史性を尊重した。主著に『キリスト教の源流』『キリスト教の展開』の大著があり、日本におけるアウグスティヌスとルター研究の礎石を築いた。

著書

『宗教哲学』岩波書店、1916年
『ギリシヤ人の哲学思想』日本評論社、1928年
『基督教史』岩波書店・岩波全書、1934年、新版2005年 
『新約聖書』岩波書店・大思想文庫 1935年、復刊1985年
ロマ書抄解 ロマ書に於けるパウロ』長崎書店、1937年 
マルティン・ルターと宗教改革の精神』教文館、1944年
『生命の言 新約聖書ヨハネ書翰講解』春光社、1947年
『キリスト教思想史』角川書店、1949年
『中世キリスト教研究』岩波書店、1952年
『学究生活の思い出』石原謙博士文集刊行会・中央公論社、1959年
『日本キリスト教史論』新教出版社、1967年
『宗教改革者ルターとその思想』新教出版社、1967年
『キリスト教の源流 ヨーロッパ・キリスト教史』岩波書店 全2巻、1972年
『キリスト教と日本 回顧と展望』聞き手:松村克己中川秀恭 日本基督教団出版局、1976年

石原謙著作集』全11巻 岩波書店、1978-79年
第1巻 初期の著作
第2巻 旧・新約聖書
第3巻 初期キリスト教研究
第4巻 中世キリスト教研究
第5巻 宗教改革 1
第6巻 宗教改革 2
第7巻 キリスト教史
第8巻 キリスト教の源流
第9巻 キリスト教の展開
第10巻 日本キリスト教史
第11巻 回想・評伝・小論

翻訳

克己論 ウィリアム・ジョーヂ・ジョーダン 内外出版協会 1909年
シュライエルマッヘル「宗教論」内田老鶴圃 1914年
原始基督教 ゲオルグ・ハインリチ 山谷省吾共訳 岩波書店、1917年
基督教の真髄 ヴィルヘルム・ヘルマン 郷司慥爾共訳 岩波書店、1922年 
ハンス・フォン・シューベルト「宗教改革の世界史的意義」岩波書店 1931年
ルター「基督者の自由」岩波文庫 1933年
信仰要義 マルティン・ルター 岩波文庫、1939年 
マリヤの讃歌 マルティン・ルター 吉村善夫共訳 岩波文庫、1941年 

記念論集

基督論の諸問題 石原謙博士喜寿祝賀論文集 浅野順一創文社 1959年
西洋中世思想の研究 石原謙先生献呈論文集 江藤太郎,高田三郎,松本正夫編 岩波書店 1965年


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