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「統合しなければ医師がやってこない」と、三田市当局は市民をさんざん恫喝してきました。逆に言えば、「統合して大きな病院になれば医師はやってくる」と思い込んでいますが、それは本当なのでしょうか?

「統合しなければ医師は来ない」は、どういう意味なのか


 
三田市民病院の統合相手であって、三田市民病院の指定管理者となって、令和8年4月から三田市民病院の経営を行う、済生会兵庫県病院の左右田院長が、以下のように発言しています。(2024年6月10日医療系メディアのオンラインインタビューに答えて)

 「若手や中堅の医師を確保しないと、救急医療や周産期医療などの緊急医療への対応が難しくなる可能性があります。若手医師は自身のキャリア形成や専門医取得を考慮して病院を選択し、症例数が豊富で指導体制が整った病院を希望する傾向があります。若手・中堅医師に選ばれる病院にならないと、急性期医療が収縮し、立ちゆかなくなる可能性があります。そのため、400床以上の規模で、ハイブリッド手術やダビンチ手術などの最新医療機器や優れた指導医がそろう病院が求められており、両病院の統合が必要であると判断しました」

 つまり、若手・中堅医師に選ばれる病院になるために、400床規模で最新医療機器や優れた指導医がそろう病院であることが必要と言っています。それだけで、若手・中堅医師は本当に来るのでしょうか。

「臨床研修医の募集定員」というものが存在します

 私たち「三田市民病院をまもる会」は、兵庫県保健医療部医務課が令和6年3月1日に発出した、基幹型臨床研修病院宛の「令和7年度臨床研修医募集定員の配分に係る特例加算廃止による影響について」の事務連絡なる資料を入手しました。これは、本文と別紙の2ページ構成されています。

 本文では、基幹型臨床研修病院に対する臨床研修募集定員の配分について、決定に至る考え方や経緯が示されています。別紙には、具体的に各基幹型臨床研修病院の割り当て人数が示されています。この割り当ては、病院にとって、若手医師確保のために重要な数字です。

 この資料を読めば、臨床研修医がどのようにして病院に割り当てられるかがわかります。そこには、統合して400床規模の大きな病院で、かつ、最新の医療機器が揃い、優れた指導医がそろっているはずの病院であっても、必ずしも臨床研修医の定員が割り当てられない場合があることがわかります。

この資料を読み解くための補足説明

臨床研修とは
 大学の医学部を卒業し医師になろうとする医学生は、国が承認した病院で2年以上の臨床研修を受けることが義務化されました(新医師臨床研修制度、平成16年から開始)。

 医師としての基本的な知識・手技などはこの期間に習得されるため、 医師の教育において特に重要となっています。 この臨床研修の最初の2年間の医師を研修医といいます。3年目からは専攻医と呼ばれています。

基幹型臨床研修病院とは
 臨床研修は1つの病院で完結しません。他の病院又は診療所と共同して臨床研修を行うことが求められます。その際、臨床研修の全体的な管理・責任を有する病院を基幹型臨床研修病院と言います。

 基幹型臨床研修病院とは、一言で言えば研修医を受け入れることのできる病院のことです。三田市民病院も、済生会兵庫県病院も、統合の先行事例としてこれまでとり上げてきました川西市立総合医療センターも、基幹型臨床研修病院です。

 研修医を受け入れることができれば、受け入れた病院にとって、将来的に医師確保につながるため、研修医を受け入れることができるや否やは、病院にとって大変重要な課題となります。そのため臨床研修医に選ばれる病院であることは重要です。

研修医のマッチングとは
 研修医になろうとするものは、臨床研修を受けたい病院を選ぶことができます。病院側も、採用試験と面接を行い、ほしい臨床研修医を選ぶことができます。この両者の想いをを一致させるために、「医師臨床研修マッチング協議会」があります。

 「医師臨床研修マッチング協議会」は、コンピュータシステムを活用して、全国一斉にマッチング参加者(医学部6年生等の研修希望者)とマッチング参加病院(研修病院)との組み合わせを、合理的かつ効率的に決定しています。


兵庫県保健医療部医務課が令和6年3月1日に発出した、基幹型臨床研修病院宛の「令和7年度臨床研修医募集定員の配分に係る特例加算廃止による影響について」の事務連絡の本文


兵庫県保健医療部医務課が令和6年3月1日に発出した、基幹型臨床研修病院宛の「令和7年度臨床研修医募集定員の配分に係る特例加算廃止による影響について」の事務連絡の別紙

この資料の本文からわかること

 各病院への令和7年度の研修医定員割り当てに際して、どのような検討が行われたか、考慮された事柄が示されています。

●兵庫県全体の年度ごとの臨床研修医人数は、厚労省が上限を定めている。令和7年度は、前年度から10名削減されている。
●各病院(基幹型臨床研修病院)への配分は 、兵庫県が決定している。
●各病院への配分決定に際して、兵庫県は以下を考慮している。
・各病院の規模や 地域医療における役割 (救急患者や新興感染症に対する課題対応 、医師偏在是正に  
 関する貢献等)、
・各医療圏域の医療体制の状況
・各病院の研修医の 採用状況や教育指導体制
・研修終了後の県内定着の状況  等々

この資料別紙からわかること

 令和7年度、各病院に対して具体的な研修医受け入れ上限値が示されています。各病院は、割り振られた定員の枠内で研修医を受け入れることができます。

●三田市民病院は、R7年度定員は4名(R6年度も4名)です。
●済生会兵庫県病院は、R7年度定員は4名(R6年度は3名)です。
●川西市立総合医療センターは、R7年度定員は0(ゼロ)名(R6年度は2名)です。
(川西市立総合医療センターは、2022年9月に旧市立川西病院と協立病院が統合して出来た病床数405床の新しい病院です。三田市民病院が統合された場合と同程度の規模です)

 三田市当局は、「統合して大きな病院にしなければ、医師は来ない」と、市民を恫喝してきましたが、「研修医の定員割り振り」という若手医師採用の重要な側面で、2020年に統合して大きな病院となった、川西市立総合医療センターの場合は、R7年度研修医定員は0(ゼロ)名です。令和7年度は、同医療センターは研修医の採用ができません。統合しても、研修医がやってこないことがあるのです。

 一方、現三田市民病院は、統合していませんし、病床は300床です。しかし、R7年度定員は4名(R6年度も4名)の研修医を受け入れることができます。研修医はやってきます。なぜ、三田市民病院には、4名の研修医定員枠が割り振られているのでしょうか。

 資料本文に記載されている研修医定員を決定するときに考慮される事項からすると、三田地域の中核病院として、地域医療における役割 (救急患者や新興感染症に対する課題対応 、医師偏在是正に関する貢献等)、研修医の 採用状況や教育指導体制 、研修終了後の県内定着の状況 、それと三田市民病院が属する阪神北医療圏域の医療体制の状況 、等々を、兵庫県が評価したものと考えられます。

市民が感じる日本の医療体制の危機


 私たち「三田市民病院をまもる会」の会員をはじめ、市民の多くの方が素人ながらも、現状の日本の医療体制について危機感・疑問を持っていると思います。例えば、

●医師不足がはなはだしく、日本全国の都道府県で医師の奪い合い、各都道府県の内部でも医師を奪いあっているのは、おかしい。国は医師をもっと増やすべきではないか。

●病院の勤務医は過労死ラインを超えて働かされているとか、医師自殺(過労死)の報道も耳にすることがある。こんな状態の医療現場で医療の安全性は保たれるのか、医療事故の報道もよくきく。

●コロナ禍で医療体制は崩壊した。コロナのような新興感染症に対応するには公立・公的病院が不可欠であることがわかっているにもかかわらず、国・県はいまだに公立・公的病院の統廃合を進めている。こんな政策はおかしい、新たな新興感染症がまん延したとき、今回のコロナと同じ轍を踏み、医療崩壊するのではないか。

●厚労省は2025年の人口推計をもとに「医療需要の減少」を唱えているが、人口が減ったとしても、高齢者の割合が増えるので、高齢者は若い世代よりも多くの病気にかかりやすく、「医療需要は増える」はず。「人口が減るから医療需要は減る」とは単純には言えないのではないか。人口減少に合わせようとして日本の医療を弱体化するのではなく、日本の人口を増やす政策が必要ではないのか。

等々。

国は医師・看護師・医療スタッフを増やす政策を!


 新型コロナウイルスが猛威を振るっていた 2020年11月18日、 厚労省は、2023年度から 医学部定員を 段階的に減らすという 、信じられない方針を決定しています 。コロナ禍で医療体制を崩壊させてもなお、国は、医療費削減のため、公立・公的病院の病床削減と医師数抑制を続けようとしています。

 国民の命・健康を守ろうとしない国に対して、私たち「三田市民病院をまもる会」は、国民の命と健康をまもるため、国の医療政策の転換を求めます。医師・看護師・医療技術者を増やす政策を!

参考データ

OECD加盟国平均医師数と日本の医師数の比較。
出典:本田宏編著「日本の医療はなぜ弱体化したのか再生は可能なのか(P153)
日本はOECD加盟国平均から13万人不足している。
OECD(経済協力開発機構)はヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関です。
人口10万人当たりの医学部卒業生数、日本は最低レベル
出典:本田宏編著「日本の医療はなぜ弱体化したのか再生は可能なのか(P95)