奇奇怪怪明解事典のすゝめ

はじめに

 本稿は、最近私が毎週欠かさず聴いているPodcast番組である『奇奇怪怪明解事典』について、私が感じるその魅力や好きなEpisodeなどについて書いたものになります。合う人にはとことんハマるPodcastだと思います。1から聴くのもアリですし、タイトルから面白そうなのを摘んで聴くのもアリなのではと。

 そしてかねてからの計画であった書籍化も無事刊行され、2月15日より税込み4180円にて販売されております。「事典」というプロダクトへのこだわり、3段組の文字の細かさ、装丁の高級感、QR的遊び心なんかも盛り込まれた素晴らしい1冊になっているので、持っているだけでもなんか嬉しい。そして聴いていく中で出てきたエピソードが文字になってもそのグルーヴはそのままに、「文字にする意味」を強度を持ってこちらに迫ってきています。かくいう筆者も読破には至っていない(収録エピソードは全部聴いてる)のですが、それだけ長く楽しめるものになっていると思います。

 それではどうぞ。

下記は最新回のリンク↓


奇奇怪怪明解事典とは

MONO NO AWARE の音楽家 玉置周啓とDos Monosのラッパー TaiTanによる言語編纂室型番組
映画、TV、詩歌、演劇、小説、歌詞などさまざまな作品で遭遇した言葉の驚異を深掘りし、日々を薄く支配する怪奇現象の謎を検証する。Podcast発での事典化を目指し、果てしないガンダーラをゆく耳の旅。

奇奇怪怪明解事典 Spotify「詳細情報」より引用

私にとっての「奇奇怪怪明解事典」

 この番組の一般的な概要としては上記の「詳細情報」の文言が過不足なく表現していると思います。「言語編纂室型番組」って響きと字面が個人的にかなり好きです。

 その上で私にとってのこの番組は「世界の解像度が少し上がるヒントが転がってたり転がってなかったりする」ものでありながら、「言語というものの面白さ」に魅了されてより一層深めていくきっかけになったものでもあります。後述していきますが、数々のEpisodeの中で紹介されてきた映画や書籍、テレビやお笑いといった諸作品は、ともすれば自分のアンテナではキャッチし得なかったもの(例:マリグナント、どもる体、デス・ゾーン、など)だったので、そういったものに直面した際の自らの中に新しい回路が生まれる感覚があって、個人的に他には替え難い存在になっています。

 と同時に、作品紹介にとどまらず、2人の間で「これを受けて自分はこう思った」「こんな見方もある」という点をお互いがお互いの言葉でもって対話している感覚が通底しているのが好きなポイントの1つでもあります。何ていうんだろう、概念的なレイヤーを行き来できる2人であるからこそ、多層的な見方を極めて自然な筆致で話しているというか。またそれは作品紹介に限らず「〇〇問題」とか「〇〇論」的なタイトル付けをされている話題についても同様で、「あるある」の一歩先で論を展開している感覚が知的好奇心をくすぐられてとても好きな点です。

 あと、結構お二人は編纂員、あるいは豆等のことを信じているというか一定のライン上にあることを認識した上でそういった部分を投げかけられることもあると思っていて、それこそ石井玄さんとの鼎談においても踏み込んだというか「創る」側としての意見だったりも聞くことができた事もあり、我々リスナー側からも何がしかのアクションだったり創作だったり、そういった意欲が一層掻き立てられた部分もありました。このnoteもその一環だったりします個人的には。なので、事実としてこの2年間で一番「触発された」時間・空間であることは間違い無いです。

きっかけ

 もともと、というか最初に知ったのはDos Monosの方で、どういうルートで知ったのかは定かじゃないんですけどblock.fmでやっていた「TOKYO BUG STORY」でのDos Monosのラジオを聴いたのが源流だったと思います。この時はその知識量と早口で畳み掛ける荘子it氏に圧倒されつつも、3人の中での掛け合いだったりそれぞれの引き出しの個性を楽しみつつ聴いていました。(今はもう聴けないようになっているのかな)

 そこからは一旦上記の「TOKYO BUG STORY」は休止という形で更新されなくなり、Spotify上で「Dos Monos」と検索をかけて何か彼らのトークが聞ける場所は無いものか、とブラウジングしていたところに目に入ったのが奇奇怪怪明解事典でした。なので周啓さんのことはこの番組で初めて知った形になります。最初はずっと声でしか存在を認知していなかったので、アーティスト写真を観た時に声とビジュアルがなかなか結びつかなかったのを思い出します。今はもうしっくりというかMONO NO AWAREも含め好きになっているのでね!最新シングルの『味見』もめちゃんこ好きです。というかもっと早く魅力に気づきたかった。

私が感じる『奇奇怪怪明解事典』の面白み・魅力

パーソナリティーの2人が選ぶ話題の角度とその掘り下げ方

 各エピソードではそれぞれ冒頭でテーマが設定され、それに対する各々の視点や感触、体験などが会話の中で展開されていきます。現在はコーナーとして実施されることは殆どなくなったものの「言のソノリティ」だとか、あるいは廃止された「焚語」などもあったり。上述の第1章ですでに述べてしまってはいる部分ですが、こういったテーマ設定と2人の会話の中で生起する時にくだらなくも、時に予想し得ない方向に転ぶ議論も、そういった部分含めての過程がちゃんと空間として残っているのがこのPodcastという形式の良いところなのかなと思います。

 あとは筆者もまた2人と同じ93年生まれなので、そのテーマ設定やふと出る時代感のあるワードチョイスがど真ん中なのでそこもまた大きいポイントでもあります。

 ちなみに野球の話をしておくと、スポーツとしての野球はあんまり興味がない勢(セ・リーグとパ・リーグにどのチームがいるか最近まで分からなかった位)だったんですけど、『プロ野球経営全史』を読んでからは総体としての、産業としての野球を面白がると何だか観てみたくなりました。

 また、長年色んなエンタメに触れてきた中での自分の興味関心の中心は「言葉」と「身体性」にあるなというのが28年間生きてきてわかってきているので、そういった意味でもラッパーであるTaiTanさん、バンドのフロントマンである周啓さんから発される言葉はそれ自体が私の興味関心そのものでもあるなという部分はあります。

 そうした個人的経験なども踏まえた上で、色んな方向に「接続」していく快感というか、そんな感覚がこのPodcastにはあると考えています。

声が良い

 2人の声質がかなり違うので声の判別が容易、かつ声そのものにキャラクター性が帯びているので声だけでの関係性の提示が可能になっています。これはデカい。このPodcastはそんな2人のファミレスでの会話を隣の席で耳をそばだてて聴いている、みたいな感覚になります。

編纂員との関係性

 石井玄さんが鼎談でおっしゃられていたように、リスナーとはある種の「共犯関係」を結ぶのがラジオだという部分はあると思うんですが、このPodcastのリスナーとの関係性は「共創関係」という言葉のほうがニュアンスとしては近いような気がしています。というのも、ラジオにおけるリスナーはメールやメッセージ、あるいは電話などで「時間」と「体験」を共有するのがラジオとするならば、本Podcastのそれは「共時性」ではなく「非同期」による「創」の伝播というか、そういった印象があります。命名を受け継いだタイラデン氏だったり、直近の回では自作のブックレットなどを作成された方もいるなど、「創る」というアクションに駆り立てるエネルギーがこのPodcastには宿っていると思っています。

個人的に結構好きな回

やべえこのペースだと殆どになる。上記も含め、以降は厳選に厳選したやつを。

おわりに

 今回はいつも聴いているPodcastである「奇奇怪怪明解事典」について改めて言語化をしてみました。書籍刊行記念としての鼎談シリーズも運良く参加ができているので、より一層このPodcastについて書かねば、と思って書き始めたのが本稿です。
 個人的にはこのPodcastを経て自分もPodcastやってみたいなと思うことがあるくらいにはだいぶ触発されており(ドラマ「お耳に合いましたら」的な)、まずはそのいち段階としての本稿及び筆者のnote群になっていられればなと思っています。
 ゆくゆくはこの先もこのPodcastが「太く長く」、プロップスと仲間を得ながらも続いていく未来を期待したいと思います。

備考

・30分×週3回更新は毎週聞く上でボリューム感的にもちょうどよい感覚です
・時々来る中身のない回(と自分でおっしゃっている)も実は結構好き
・密葬が密葬すぎて最初分からなかった実は
・お笑いとはなにか「笑いの根源」は何か、時折深淵に差し掛かる事がある

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