シングルケースデザイン(C統計の求め方,実践編)

久々の投稿となります.なかなか継続力がないものですいません(苦笑).
今回はシングルケースデザインの解析方法の一つである「TryonのC統計」についてまとめていきます.
C統計は,山田先生の報告でも紹介されているように1),
少ないサンプル数かつ容易な計算式
各デザイン(ABデザイン等)の効果判定ができるため,臨床家にとって使いやすい手法の一つと思われます.

TryonのC統計とは,時系列データのtrendの有無を,そのデータの分散の大きさとの比から推定する方法である(trendの大きさを調べる手法でないことに注意) 2,3).

手続きは以下のステップからなります 4,5).
①ベースライン期(A期)のCを求める.

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*)Nは時系列データの個数,Xiはi番目のデータ値,X ̅はN個のデータの平均値

②ベースライン期のCの標準化をはかる.

スクリーンショット 2021-08-19 14.34.24

③A期の標準得点Zを求める

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④ ③で得られたZ値をYoung(1941)の表と比較して有意になるかどうか判定する 6).
ここで有意と判断されれば,A期のtrendが有りと判断しC統計を終了とする*).

*)A期のtrendが有りと判断された場合,前のフェーズのtrendのスコアの差を計算するなどの2種類の代替え方法も用意されている7).しかし代替え方法を用いたとしてもA期のtrendが無しと判断された場合の方がより望ましいとされている.

有意でなかった場合は⑤に進む.
⑤ ①〜③ではA期のC統計量であるZ値を算出したが,今度は,A期と介入期(B期)の両方のデータを使って同様に①〜④を算出する.ここで有意と判定されればB期の効果がありと判断される.

C統計の長所  1,4,5,8):
・計算が容易
・少量のデータ数で実施できる(A期とB期のデータ数がそれぞれ8個以上あれば適用可)
・ベースライン期が安定しているかどうか(trendがないかどうか)判断できる
統計のC短所 4,8,9,10):
・自己相関があると,第1種の誤りの統制が悪くなる.
・A期にみられたtrendがB期にもみられた場合は,有意差が得られにくい.
・各期のセッション数に有意性が依存されやすい(A期よりもB期のセッション数が多い場合,trendが同じであっても有意となりやすい).
→この点に関しては,A期とB期のセッション数を揃えるよう配慮する必要がある
文献
1)山田剛史:シングルケースデザインの統計分析.行動分析学研究. 29 巻 Suppl 号: 219-232, 2015
2)Tryon, W.W: A simplified time-series analysis for evaluating treatment interventions.Journal of Applied Behavior Analysis, 15: 423-429,1982
3) Tryon, W.W: “A simplified time-series analysis for evaluating treatment interventions.”: A rejoinder to Blumberg. Journal of Applied Behavior Analysis, 17: 543-544,1984
4)山田剛史: 単一事例実験データへの統計的検定の適用 : ランダマイゼーション検定とC統計.行動分析学研究14, 87-98, 1999
5)河合伊六:単一実研究法則待のC統計的検定.行動分析研究.2:36-47,1987
6)Young, L.C: On randomness in ordered sequences. Annals of Mathematical Statistics,1941: 12,293-300.
7) Hayes,S.C: Single case experimental design and empirical clinical practice. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 1981, 49:193-211.
8)河合伊六:日本行動分析学会第9回大会シンポジウム「行動分析研究法にいま問われているもの -単一被験体法をめぐって-」における発言.藤健一 Single-case experimental designs and statistical analysis.行動分析研究法に問われているもの -単一被験体法をめぐって-.行動分析学研究9:53-72, 1996 
9) Blumberg, C.J: Comments on “A simplified time-series analysis for evaluating treatment interventions.” Journal of Applied Behavior Analysis,17: 539−542, 1984
10)Crosbie, J: The inappropriateness of the C statistic for assessing stability or treatment effects with single-subject data. Behavioral Assessment 11, 315-325, 1989


お読みいただき,ありがとうございました.
もし,具体的な計算例をみてみたい方は,以下をお読みください.

例題:ABデザイン(A期・B期ともに8つずつのデータとします)
   Excelでのデーター入力をしています.   

 スクリーンショット 2021-08-19 15.03.47


以下の①〜⑮の手順に従ってExcel上で計算していきます.

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