見出し画像

著作隣接権制度

著作隣接権とは

著作権法では、文化の発展に資するように創作活動を奨励し、著作物を創作した者に著作権を与え、強い保護を与えています。しかし、著作権者のみを保護しても著作物が伝達されることはなく、伝達行為を行う者がいてはじめて、著作物は広く行き渡るのが実際です。
こうした著作物の伝達行為は、多大な労力や費用がかかるものであり、伝達行為を行う者に対しても一定の権利を与えないと、著作物が広まることはありません。そこで、著作権法は、「実演」、「音の固定」、「放送」、「有線放送」という形で著作物の伝達行為を行う者に対して、「著作隣接権」という権利を与えて、著作物の伝達行為を推奨しているのです。

著作隣接権者とは

もっとも、著作物の伝達を行う者すべてが著作隣接権者として保護されるわけではありません。著作隣接権については、以下のとおり、著作権法89条に規定されていますが、著作隣接権者として保護されるのは、「実演家」、「レコード製作者」、「放送事業者」、「有線放送事業者」の4者に限られています(89条1項~4項)。

(著作隣接権)
第八十九条 実演家は、第九十条の二第一項及び第九十条の三第一項に規定する権利(以下「実演家人格権」という。)並びに第九十一条第一項、第九十二条第一項、第九十二条の二第一項、第九十五条の二第一項及び第九十五条の三第一項に規定する権利並びに第九十四条の二及び第九十五条の三第三項に規定する報酬並びに第九十五条第一項に規定する二次使用料を受ける権利を享有する。
2 レコード製作者は、第九十六条、第九十六条の二、第九十七条の二第一項及び第九十七条の三第一項に規定する権利並びに第九十七条第一項に規定する二次使用料及び第九十七条の三第三項に規定する報酬を受ける権利を享有する。
3 放送事業者は、第九十八条から第百条までに規定する権利を享有する。
4 有線放送事業者は、第百条の二から第百条の五までに規定する権利を享有する。
5 前各項の権利の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。
6 第一項から第四項までの権利(実演家人格権並びに第一項及び第二項の報酬及び二次使用料を受ける権利を除く。)は、著作隣接権という。

著作者の権利と著作隣接権との関係

著作隣接権は、著作権とは別個の権利とされています。例えば、楽曲の著作権者(作曲家)の許諾を得ずに実演家が楽曲を演奏した場合、実演家は作曲家の著作権(演奏権)を侵害したことになりますが、それでも著作隣接権を有することになります。
しかし、以下のとおり、著作権法90条は、著作隣接権は著作権の行使に影響を及ぼすものとは解されないと規定していることから、結論としては、楽曲の著作権者(作曲家)の許諾を得ずに実演家が楽曲を演奏することは、作曲家の著作権(演奏権)侵害となりますので、無断で演奏をしたりすることはできないことに変わりはありません。

(著作者の権利と著作隣接権との関係)
第九十条 この章の規定は、著作者の権利に影響を及ぼすものと解釈してはならない。

著作物の伝達者としての著作隣接権者の保護の程度

著作物を伝達する著作隣接権者の役割が重要なのは間違いありませんが、著作隣接権者の保護を強くし過ぎてしまうと、著作物を利用しようとしている人は、著作権者だけではなく、著作隣接権者との権利処理にも費用や労力をかけることになり、かえって、著作物の流通、伝達は妨げられることになりかねません。
そのため、著作権法では、著作隣接権者の権利は、著作権に比べて、弱いものとなっています。詳細は、別途解説することにしますが、大きく分けると以下のような特徴があります。

①著作権に比べると、著作隣接権に認められている支分権が限定的であること
②差止請求による保護が必要な場合にも、排他権の行使は認めず、金銭的な補償に留まる場合がある
※89条6項にあるように、著作隣接権は、排他権のある財産権を意味しており、金銭的な補償を受ける権利は、著作隣接権に含まれません。
③排他権を行使できる場合でも、その行使の機会を成果物を最初に利用する段階に限定し、その二次利用に対しては権利行使を認めないワン・チャンス主義がとられていること

ここまでのまとめ

著作隣接権については、別途各論の説明をしていきますが、音楽や映像などの著作物を利用しようとする場合、著作権者だけではなく、著作隣接権者の存在も頭に入れておく必要があることに注意が必要です。すなわち、著作物を利用するにあたっては、著作権者だけではなく、「実演家」、「レコード製作者」、「放送事業者」、「有線放送事業者」といった著作隣接権者との権利処理も必要な場合があります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?