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実演家の権利

実演とは何か

著作権法2条1項3号では、「実演」とは、「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。」と規定されています。
舞台で演劇を演じたり、曲を演奏したり、歌ったりする行為は、著作物を利用しているのですから、イメージしやすく、実演に該当することは明らかです。しかし、括弧書きで、「(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」と規定されていますので、著作物を演じなくても、「芸能的な性質を有するもの」は実演に該当します。

もっとも、この「芸能的な性質」という基準も大変曖昧であり、どのような行為が含まれるのかは、明確に論じることはできません。物まねや手品は該当しそうです。ただ、体操競技などのスポーツ実技は、ある程度美しさを競い合うという要素があっても、芸能的な性質を有するものではないとして、実演として保護されないと説明されることが多いです。もっとも、フィギュアスケートやアイスショーなどの場合は、ショートして行われる場合、芸能的な性質を有する行為と評価できる場合もあり、そのような場合は実演として保護されるとされています。
なお、ファッションショー事件(知財高判平成26年8月28日・裁判所ウェブサイト)は、ファッションショーにおけるモデルの動作やポーズ等は実演に該当しないと判断しました。

実演家とは

著作権法2条1項4号では、「実演家」とは、「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。」と規定されています。
すなわち、①実演を自ら行う者、②実演を指揮する者、③実演を演出する者が実演家とされています。実演家の定義は単純ですが、結局は、「実演」と評価できるかが問題となります。

実演家人格権とは

著作者と同様に、実演家にも実演家人格権が認められています。しかし、著作者人格権とは異なり、公表権は認められていません。著作権法90条の2で氏名表示権、90条の3で同一性保持権が規定されています。

(氏名表示権)
第九十条の二 実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有する。
2 実演を利用する者は、その実演家の別段の意思表示がない限り、その実演につき既に実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示することができる。
3 実演家名の表示は、実演の利用の目的及び態様に照らし実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき又は公正な慣行に反しないと認められるときは、省略することができる。
4 (略)
(同一性保持権)
第九十条の三 実演家は、その実演の同一性を保持する権利を有し、自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、実演の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変又は公正な慣行に反しないと認められる改変については、適用しない。

氏名表示権

著作権法90条の2第1項では、「実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有する。」と規定されています。
映画のエンディングロールに、多くの出演者の名前が記載されているのは、この氏名表示権があるからです。

著作権法90条の2第2項では、「実演を利用する者は、その実演家の別段の意思表示がない限り、その実演につき既に実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示することができる。」と規定されています。
これは、実演家が通常使用している芸名等を表示すればよいという意味です。わざわざ本名を確認して、本名を表示する必要はありません。

著作権法90条の2第3項では、「実演家名の表示は、実演の利用の目的及び態様に照らし実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき又は公正な慣行に反しないと認められるときは、省略することができる。」と規定されています。
この点は、著作者の氏名表示権について規定した著作権法19条3項の「著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。」とは異なり、「実演家の利益を害しないこと」又は「公正な慣行に反しないこと」のいずれかの要件を満たせば、適用除外が認められています。
そのため、映画のエンディングロールにエキストラで参加したすべての人の氏名まで表示する必要はなく、BGMで流れている曲の演奏者や歌手の名前を表示する必要はありません。

同一性保持権

著作権法90条の3第1項では、「実演家は、その実演の同一性を保持する権利を有し、自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けないものとする。」と規定されています。
女優の演技をコミカルな内容に修正したり、歌手の歌声を加工するようなことは、同一性保持権侵害となります。
しかし、実演家の同一性保持権を過度に保護すると、権利処理が困難となり、かえって、実演家の利益にもならないことから、氏名表示権と同様、同一性保持権の内容は、著作者人格権に比べて限定されています。
具体的には、同一性保持権の侵害が成立するには、「自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変」(90条の3第1項)があった場合に限定され、著作者人格権のように、意に反する改変だけでは足りません。
また、「実演の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」だけではなく、「公正な慣行に反しないと認められる改変」についても、適用しないとされています(90条の3第2項)。このように、実演の利用促進を図るために、実演家の同一性保持権は著作者人格権に比べて、限定された権利となっています。

実演家に認められる著作隣接権

1.録音権・録画権(91条)

(録音権及び録画権)
第九十一条 実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。
2 前項の規定は、同項に規定する権利を有する者の許諾を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については、これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)に録音する場合を除き、適用しない。

第1項の実演家に録音権、録画権があるという点はあまり問題ないと思います。念のため説明しておきますと、「録音」とは、「音を物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。」(2条1項13号)、「録画」とは、「影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。」(2条1項13号)という定義が置かれていますので、実演家は、録音・録画物を増製する権利も専有することになります。

ワン・チャンス主義

91条2項は読みにくい条文ですが、実演家が自己の実演を映画の中に録音・録画することを許諾している場合には、以後、映画をDVD化するなどして利用する場合については権利が及ばないとする「ワン・チャンス主義」を規定した内容です。
映画に出演する実演家は通常、自己の実演を映画の中に録音・録画することを許諾しているといえますので、映画がDVD化されたとしても、それについて権利主張(報酬請求)することはできません。
漫画の著作権者であれば、漫画を出版したとき、映画化されたとき、商品化されたときなど、都度印税報酬を得ることはできますが、実演家は、映画出演契約時の1回のみしか報酬を得るチャンスがないという意味です。
もちろん、別途契約書を交わしていれば、ワン・チャンス主義を回避することはできますが、弱い立場の実演家にとっては、二次利用についてまで契約するのは困難なことだといえます。

なお、さらに読みにくいところですが、「これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)に録音する場合を除き」と規定されていますので、映画からサントラ盤CDを作成することには、ワン・チャンス主義が及びませんので、実演家の許諾が必要となります。

2.放送権・有線放送権(92条)

(放送権及び有線放送権)
第九十二条 実演家は、その実演を放送し、又は有線放送する権利を専有する。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 放送される実演を有線放送する場合
二 次に掲げる実演を放送し、又は有線放送する場合
イ 前条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て録音され、又は録画されている実演
ロ 前条第二項の実演で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの

第1項の実演家が放送権・有線放送権を専有しているという点は、問題ないと思います。ただし、第2項では、以下のような適用除外が規定されています。
第1号の「放送される実演を有線放送する場合」とは、放送と同時に行われる有線放送による同時再送信を行う場合です。この場合は、実演家に改めて許諾を得なくても、有線放送が可能です。

第2号は、イ、ロに規定されている実演の放送、有線放送が適用除外とされています。
イは、91条1項に規定する録音権・録画権を有する者(通常は実演家ですが、著作隣接権は譲渡することも可能です)の許諾を得て録音され、又は録画されている実演には、放送権・有線放送権が及ばないとするもので、ワン・チャンス主義を採用したものです。
ロは、実演家の許諾を得て映画著作物に収録されている実演を放送・有線放送する場合を適用除外としています。これもワン・チャンス主義を採用したものです。

3.送信可能化権(92条の2)

(送信可能化権)
第九十二条の二 実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有する。
2 前項の規定は、次に掲げる実演については、適用しない。
一 第九十一条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て録画されている実演
二 第九十一条第二項の実演で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの

1項は、実演家がその実演を送信可能化する権利を専有する旨規定しています。「実演」としか書かれていませんので、生演奏か、録音・録画されている実演かは問題となりません。
2項は、92条2項2号のイ、ロと同様の規定であり、ワン・チャンス主義を採用したものです。

4.譲渡権(95条の2)

(譲渡権)
第九十五条の二 実演家は、その実演をその録音物又は録画物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
2 前項の規定は、次に掲げる実演については、適用しない。
一 第九十一条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て録画されている実演
二 第九十一条第二項の実演で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの
3 第一項の規定は、実演(前項各号に掲げるものを除く。以下この条において同じ。)の録音物又は録画物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない。
一 第一項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された実演の録音物又は録画物
二 第百三条において準用する第六十七条第一項の規定による裁定を受けて公衆に譲渡された実演の録音物又は録画物
三 第百三条において準用する第六十七条の二第一項の規定の適用を受けて公衆に譲渡された実演の録音物又は録画物
四 第一項に規定する権利を有する者又はその承諾を得た者により特定かつ少数の者に譲渡された実演の録音物又は録画物
五 国外において、第一項に規定する権利に相当する権利を害することなく、又は同項に規定する権利に相当する権利を有する者若しくはその承諾を得た者により譲渡された実演の録音物又は録画物

1項は、実演家は、その実演を録音物や録画物の譲渡により公衆に提供する権利を専有していることを規定しています。
2項は、92条2項2号のイ、ロと同様の規定であり、ワン・チャンス主義を採用したものです。
3項は読みにくい条文ですが、実演の録音物・録画物が国内外で適法に譲渡された場合は、以後は当該録音物・録画物を再譲渡する行為について譲渡権は消尽することを定めています。例えば、一旦DVDが適法に販売された場合は、中古のDVDが販売されたとしても、実演家が差止請求や損害賠償請求をすることはできないことになります。

5.商業用レコードの貸与権(95条の3)

(貸与権等)
第九十五条の三 実演家は、その実演をそれが録音されている商業用レコードの貸与により公衆に提供する権利を専有する。
2 前項の規定は、最初に販売された日から起算して一月以上十二月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した商業用レコード(複製されているレコードのすべてが当該商業用レコードと同一であるものを含む。以下「期間経過商業用レコード」という。)の貸与による場合には、適用しない。
3 商業用レコードの公衆への貸与を営業として行う者(以下「貸レコード業者」という。)は、期間経過商業用レコードの貸与により実演を公衆に提供した場合には、当該実演(著作隣接権の存続期間内のものに限る。)に係る実演家に相当な額の報酬を支払わなければならない。
(以下略)

1項は、実演家は、その実演をそれが録音されている商業用レコードの貸与により公衆に提供する権利を専有することを規定しています。
2項は、「最初に販売された日から起算して1か月以上12か月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した商業用レコード・・・の貸与による場合には、適用しない。」と規定しています。すなわち、実演家に認められている商業用レコードの貸与権は、最大販売日から12カ月に限定されています。
3項は、上記期間経過後は、貸レコード業者は、実演家に相当な額の報酬を支払うことを定めています。
もっとも、実際は、業界団体、権利者団体との協議により、アルバムについては最長3週間、シングル盤については最長3日間に限って貸与が禁止されており、以降は許諾料の支払いによって貸与ができるようになっています。






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