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偏愛食品#63:二郎で味わう現世の人生(309/1000)

世の中に二郎というものがあるのは知ってますよ。
「二郎はラーメンではなく二郎という食べ物である」と言われていることも

興味はある。
でも。

かつてはサラリンピックで2350gの生野菜を食べたこともある男ですよ、私は。ラーメンは必ず大盛り、でなきゃwithチャーハン。
でも今や、あんな時代もあったねと笑って話すのが関の山。
思えば遠くへきたもんだ。

なにを言いたいのかというと、巷で評判の二郎というものを食べてみたいと思ったころには、大食いくんではなくなっていたんだよという事実。
ラーメンは好きだからね、おいしいと聞けば食べてみたくなるじゃないですか。でも、どうも話を聞いてみると、行って注文して食べておしまい、とはいかないらしい。

やれ注文は呪文のようだとか、とにかく盛りがいいんだぜとか、ロットを乱すなとか、噂を小耳にはさむだけで、身がすくむ思いがする。
近所にある二郎の前を通ると、いつも必ず行列ができていて(しかもかなり長い)、並んでいる人々の体格とそこはかとなく漂う喰ってやるぜオーラを見るにつけ、「ああ、もうオレの時代ではないのだ」と小さな敗北感を感じていたものです。

二郎という食べ物を食べられるのは来世だな。
そう思うのもやむを得ないでしょう?

ところが。
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受け、ご近所の二郎(しかもかなり美味しいと評判らしい)は、店での飲食を止めてテイクアウトだけになっているというではありませんか。

おっ、それならば!
家で食べるんだったら、呪文を唱えなくてもいいし、量が多すぎても残せばいいし、もたもたしても指弾されないでしょう。
やってきたよ来世! 
じゃなくて、現世にチャンスが巡ってきた!

小雨降る週末の昼時、あれほど蝟集していた人がいない二郎。

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店先に行くと、こそこそ札を出したお客さんが、引き換えにいわくありげなビニール袋を渡されている。
なにかヤバい取り引きしているみたいだよ。

待合所(があるんですよ、あまりに並ぶから)には注意書きがあります。

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なるほど。
せっかくだからブタ入りにしよう。

うっかりマスクを忘れたので店内には入らず、店頭に立つ店の人にお金を渡して「ブタ入りで」と告げました。
ズンと持ち重りのする袋を2つ持ってきてくれたので、小声でアリガトと呟いて受け取る。

急いで帰って袋から取り出すと。

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生麺は600グラム、ブタ6枚、3人前のスープ。
スープには早くも脂が浮いて白い層ができている。
手ごわそうだなあ。
ま、まあ、それでも自宅だからなんとかなるでしょう。

懇切丁寧な作り方

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ブタはコゲ目をつけてみた。
麺はきっちり7分計って茹でました。
もちろん野菜もたっぷり炒めて準備完了。

すばやく麺を取り分けてみる。

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茹であがった麺を1本もぐもぐ食べてみると、もっちりして旨い。でもすでにそれだけでも食べでがあって、楽しみだけど食べきれるかなと不安がる自分もいる。
ダメ、そこでひるんじゃ。
ここは自分の家なんじゃ。

なんとか気を持ち直して一杯をこさえてもらいました。

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うーん、素敵なビジュアル。
ブタがブタブタしていますねえ。これが噂のブタなのか。

さあ、いよいよ現世初二郎。
やっと会えたね。

スープを一口。
もっと豚骨っぽいのかと思っていたけど、さにあらず。
十分にこってりしてはいるものの、想像が勝っていたので、案外すっきりしてるねと思う。
濃いめの醤油味が食欲を刺激しておいしい。
こりゃいつも腹が減っているような若人は大喜びだろうなあ。たっぷり食べられるし、食べるうちに加速がつくような味だもんね。
麺もまた、太くてもっちりして噛み応えがあってよろしい。
ワイルドにがつがつ喰らう感じ、いいなあ。

問題は麺が減っていかないこと笑。
いやもちろん減ってますよ、物理的には。頭では分かっている。
でも精神的には、食べれば食べるほど、叩きまくったポケットの中のビスケットのように増えている感じ。
減らん。

泣かな~いで~減らん。
雨を呼~ば~ないで。
なんて小さな声で歌ってる場合じゃないよ。

そもそも麺600gの配分は
「あまり食べられないから」と妻は100gほど
「ちょっとは食べられそう」と娘は150gほど
純粋数学の結果により受け持ち350gとなっています。

しばらくすると、妻はなんとか完食、娘はもうムリと麺を半分くらいとブタ1枚を残すんだね、これが。いやそりゃ二郎の神様がお怒りになるじゃろうと、ワシがな、こう咀嚼に咀嚼を重ねて腹に収めたんじゃよ。

満腹中枢に、お恐れながら満腹になりましてございますと伝令が辿りつく前に咀嚼を続けたことが幸いしたのか、なんとか完食。
きっとロットは乱しただろうけど、まあ家だからいいんです。イエィ。

なるほど、二郎とはこういうものですか。
もちろん店で食べればきっといろいろなものが付加されて、もっと味わいが深くなるんだろうけど、基本はこの味なんでしょう。

おいしいんだけど、麺の太さや量、スープの塩分と脂分、ブタの厚み、すべてが微妙に過剰。
もちろんそれは私の年代にとっての過剰で、世に言うジロリアンのみなさんには最適なんだろうな。若いころだったら大喜びして毎日食べてた気もする。常に大盛り人生だったからね。
こうして記憶というものがあると、味の好みや食べられる/食べたい量の変遷がわかって面白いもんですね。
それもこれも自分。
すべての瞬間の総和が自分になっているというか。自分を積分するというか。

そんなことを考えているうちに、猛烈な眠気が襲ってきた。
耐えられずに昼寝。
小一時間も寝たでしょうか。
あれはきっと体中の血液が「消化だ消化だ~」と胃および消化器官に集合したからではないのかなあ。科学的に正しいかどうかはわからないけれど、そんな気がする二郎後の午後。
雨はまだ降り続いています。


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