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他分野に学ぶ仕掛けタイミングの前倒しについて

はじめに

本記事はうりはりさん主催の『ドミニオンアドベントカレンダー2022』の2日目の記事となります。名だたる実力者が惜しみなくドミニオンについての記事を書き下ろしているので、ぜひとも他の日程や好評だった昨年開催時の記事もご覧いただければ幸いです。

ドミニオン Advent Calendar 2022 - Adventar


どうも初めまして、ちょり(@chori0001)と申します。
昨年ドミニオンを始めた令和ドミニオンネイティブで専らオンライン2人戦プレイヤー(レート60くらい)です。
ゴリゴリの座学派なので、勉強してきた記事を書いているような錚々たる顔ぶれに混ざれることでワクワクしています。

自身の話で恐縮ですが、私はかなり多趣味な人間です。その強みを活かして1本記事を書いてみようということで、本記事では『トップレベルのプレイヤーの試合の戦術が煮詰まるにつれて環境はどうなっていくか?』について書きます。

前提

①     2人戦かつDominion Onlineでのカードプールを想定している。
②     ドミニオンは不完全情報ゲームで選択と抽選を繰り返すゲームである。
③     上記の選択時にはその時点で最も勝率が高くなる選択である最善手が存在する。
この下で話を進めます。

さて、突然ですがドミニオン最強AI(以下『AI』と略記)を想定するとしましょう。AIの強さは引きたい手札を引ける桃鉄のさくまのようではなく、公開情報を適切に処理し、その時点での選択で常に最善手を選ぶことができるものとします。要はナチュラル星図発動などしていない我々人間が辿り着ける理想形と思って下さい。

つよい

実際、非トップランカーの人間同士の試合ではどうでしょうか?
ドミニオン1試合での1人の選択回数はざっくり数百オーダーであり、公開情報を適切に処理しつつ、不確定情報まで確率計算し、様々な選択同士を比較して最善手を選び続けることは理論上可能なだけで実際は厳しいはずです。最善手との乖離により勝率は最善手を選択した場合より下がり、その積み重ねによりAIがプレイした場合より勝率がどんどん下がっていきます。特に最終盤でのミス(最善手からの大きな乖離のある選択)は勝敗に直結してしまいます。つまり、平たく言えば人間同士では大きいミスがより少ない方が勝てる可能性が高いということになります。

将棋の終盤でミスをした時の評価値

それでは、お互いがAIに近いトップレベルのプレイヤー、つまり、ミスが非常に少ないプレイヤー同士が戦う場合の戦略について考えていきましょう。
お互いに最善手に近い選択を続け、ウッカリ3山や勝利点まわりの計算ミスなどはないものとします。ドミニオンには構築上限である3山枯れがあるので、延々とデッキを強化し続けることはできません。
そのため、お互いデッキを十分なパワーにしてがっぷり四つに組み合う場合は、勝利点で相手を上回ったまま、ゲーム終了条件である属州枯れや3山枯れを狙えるよう仕掛けの間合いを計る必要があります。理想的には相手が先に仕掛けてきたら返しの自分のターンで勝ったまま終わらせられるor相手のターンを返してもゲームが終わらず、次の自分のターンで終わらせられるなど一番勝つ確率が高いと考えた選択をすることになります。

ここで、十分デッキパワーがあり、勝利点行動のようにデッキの回転に寄与しないカードを取っても次ターンも自分が引ききることができるような確定行動が取れる場合、自分が仕掛けを入れた状態で既に勝ちが確定している状態が出来てしまいます。
その場合、相手プレイヤーが何をしないといけないかと考えると、仕掛けを入れられるまでのどこかで自分から仕掛けていた方が0%よりは勝率が高いため、仕掛けを入れないといけなかったことになります。

ここでやっと他分野の話が登場します。
以下で要約はしますが、興味があればご覧下さい。

将棋のプロ棋士である真田さんが一般の方に将棋の駒の配置などについて解説している動画です。11年前の動画ですが、当時の将棋界は現在とは異なり人間より遥かに強いAIはまだなく、トップ棋士が検討して最善手を追及していた時代になります。この構造は現状のトッププレイヤーの集合知が浸透していくというドミニオン界に似ているため参考になると思います。

さて、この動画で真田さんは何を仰っているかと言うと、お互いが陣形をしっかり組み合って、駒がぶつかったときには既に勝敗がある程度ついていることが知れ渡った。そうなると、不利になってしまった側は遡って戦いを起こす必要がある。そのようなことを繰り返していった結果、初期配置を多く残したままの配置で戦いが始まるようになった。どんどん遡って途中の優劣を理論化したのが羽生さん。そしてそれが、集合知として広まっている。
と、こんなところです。

将棋は完全情報ゲームであり、ドミニオンは確率が絡む不完全情報ゲームであることを差し引いても思考としては学べるところがあるかと思います。
今まで理想的と思われていた構築が実はオーバービルドではないか?と咎められてしまうという話は何とも恐ろしいですね。
日本のトップランカーに絞っても、拡大再生産的な行動をあまりせず、速攻で3山を枯らす話や最小限のエコ構築などという話を最近よく聞きますが、これらはドミニオンの戦術が煮詰まってきている顕著な例だと思います。

参考(この記事を書こうと思ったきっかけとなった記事):



私程度の実力で申し上げるのも恐縮ですが、ドミニオンは系としてあまりに複雑なので、トップレベルの人間でもまだAIと比べてまだ改善の余地はあると見ています。そのため、早い仕掛けが成立するということが知れ渡るとその知識を前提に更に理想的と思われる仕掛けのタイミングが計られることになります。

早押しクイズの微分学 ~4文字でボタンを押す「最速の押し」が「最速ではなくなる」理由~

この記事では早押しクイズにおいて、理想的な押しポイントが知れ渡ると更に早い地点でないと押せなくなり、理想的でなくなるという話です。
ドミニオンにおいては仕掛けが早くなるばかりではなく、相手がやや安定感が低そうな仕掛けをしたので事故に期待して、自分は多少遅くても安定的な構築を取るなど後ろ側にずらすことはあると思います。ただ、基本的には早い方側が開拓されていくことが予想されます。

というのも、ドミニオンではMTGやポケモンカードのようにスタン落ちがなく、遊戯王のように頻繁に禁止カードや制限カードなどが入れ替わるなども第2版リストラやエラッタを除けば基本的にはありません。
そのため、『今現在が一番遅い環境』という状況が続くことになります。カードプールの増加や現存するカードやそのシナジーの深い理解などによって、環境はますます加速することになるでしょう。そして、その傾向はトップランカーのkazumaruさんが主宰されているかずまる道場を拝聴した時に間違いなくそうなると確信しました。

また、人間はミスをするという話ですが、実戦的な意味でも仕掛けを入れられ先攻されてしまった側というのはプレッシャーがかかります。

今現在がW杯シーズンということで、折角なのでサッカーに関する面白いデータをご紹介します。サッカーのPK戦では先に蹴る先攻側の勝率は約60%となっています。

後攻側だとプロのサッカー選手ですらプレッシャーを感じて、約80%の成功率のPKで点を決められないことが増えるようです。メンタルトレーニングを受けているプロですら影響を受けるのに、況やメンタルコントロール素人の人間をや。
身体と頭脳で一概に影響の大きさは比較が難しいかもしれませんが、仕掛けられて間違えたら許しませんの構えを取られて思考が全く歪まない人は珍しいと思います。


まとめ

トップレベルのドミニオンは今まで以上に仕掛けタイミングが早くなっていくことが予想されます。早すぎ側が咎められるなど過渡期として色々な動きがあれど、人間がドミニオンの正解に近づいていくことは間違いないでしょう。今後どのように環境が変わっていくのか、目が離せないですね!


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