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Zu Hause

家に着くまで、「大丈夫!大丈夫!」と、言い聞かせていた。帰宅途中の電車の中、カバンに入っている小説は、手にしなかった。代わりに、iPhoneの画面を見つめているだけだった。

家に着いたら、直ぐに夕食作りに取りかかる。子供たちがお腹をすかしてる。 急いで作る!でも、息苦しくなる。無理な笑顔に体が反応するのだ。切ってる野菜も、ボワ〜ンとしてきて、輪郭が取れない。だから、大好きな友人グループチャットに、一言書き込んだ。「仕事辞めます!」すぐに返信音が何度も鳴り、それを読んで、私はやっと笑えた。夕飯が作れた!

明るい声で、家族にも伝えた。夫は無言で、食べ続けている。何も言わない。息子は、驚いた表情したけど、「ぼくは失業してないよ!」「何の足しにもならないかもしれないけど、、」と控えめに笑う。娘は「えっつ!」「ママ、じゃあ、いつも家にいるの?!」「よかっ、、。なーんだ、ママがいつも家にいるのかあ、、、」と、暗いトーンに声を変える。友人とのzoom中、私はギネス缶を手にしていた。「え〜〜!黒ビール?!男らしい!!」とキョトンとした友人たちからの不思議な賛称。ずっと笑顔で話した。その後、日本のドラマを見た。

「俺の家の話」最終回が出てるじゃないか!ありがとう!いいことがあるじゃないか!


えっつ!長瀬が亡くなった?!

目を疑った。私の退職どころじゃない。


寿三郎「寿一 お前は大したもんだよ」
寿 一「えっ?」
寿三郎「よくやったよ 寿一 みんなのことを 笑顔にしてくれてさ
    奮い立たせてくれてさ
    ひと様の分まで戦って 舞って ケガして 笑って
    そんなやつは いないよ
    まあ 国の宝には なれなかったけど
    家の宝には なれたな 家宝には なれたな
    お前は 観山家の人間家宝だよ いよっ 人間家宝 観山寿一」
寿 一「褒められちゃった」

寿三郎の言葉を聞いた時に、私の涙腺がゆるむ。「まあ、国の宝にはなれなかったけど、家の宝にはなれたな。」

寿三郎が、能の演技途中で泣いた時、私も泣いた。

「会いたいから」出てきちゃった寿一の姿は、どことなく不自然で、私の夢に出てきた20年前の父の姿と被った。「お前は、よー頑張った。」と私に告げた父の姿と。

ドラマ「俺の家の話」を、忘れそうにない。



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