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ズック靴

スポーツ大会があった。霞屋匠先輩は、大会新記録を出した。彼の名前とタイムは、また、ボードに新しく記載された。彼の記録は、六年間ずっと記載されたままだった。彼の記録を破る生徒がいなかったからだ。彼の名前とタイムは上下に並んで六個綴られた。

小学校の体育館には、スポーツ大会新記録ボードがある。それは、よしこの三人分くらいの大きさだ。そして、それはよしこが二人分くらいの高さの壁に吊られている。ボードに書かれている名前やタイムを見るために、よしこは、自分の四人分、ボードから後退りする。そして上を見上げる。たまに、ボードの向かい側にある朝礼台まで下がって、そこに座ってボーッと眺めたりする。

3kmのマラソン大会があった。よしこの名前がボードに載った。次の年もそうだった。よしこの父は、「お前は俺の血を引いてるな。特訓しよう。もっと早くなるぞ!」と言った。父が早起きしてよしこのランニングについてくるようになった。よしこが作った六年分の大会記録は、よしこが卒業した後も長く破られることはなかった。

「シューズ、新しいの買ってやれ!」と、父がご機嫌だった。「ズック靴じゃないやつな。」母と一緒にスポーツ店に行った。Adidasの黒いスニーカーを履いてみた。なんて心地よいのだろう!でも、買ったのはノーネイムのスニーカーだった。

大会新記録を出した後、母が言った。「靴で記録は作れない」「どう思う?よしこ。いい靴を履いたからって、いい記録は作れないことを、あなたは証明したのよ。」

よしこの後にゴールした一学年下の女の子は、黒いスニーカーを履いていた。太ももからスニーカーまでの足の線が、とても綺麗だった。スニーカーをよく見ると、Adidasだった。

私も履きたかったな。記録なんてどうでもいい。