ルームクリーナー 解説1

……………3月21日。あれから2週間経ちました。
公演観に来て下さった方々、ありがとうございました。役者・スタッフの皆さん、お疲れ様でした。
はしポてちの記念すべき第1作目、無事終演できて大変良かったです。
例のウイルスの件もあって延期を考えましたが、現時点収束の見込みはなく、もし延期したならばもっと遠い時期になっていたかもしれません…。
さて、前振りはここまでにして3月21日に上演したルームクリーナーの解説に入ります。観た方はもちろん、そうでない方もルームクリーナーがどんな作品か
、この記事を通してより知って頂けると幸いです。

目次
1.おさらい。ルームクリーナーとは
2.主人公・清掃員について
3.田上と麻帆の仲直りについて
4.シーン間の清掃員と社長の会話について
5.清掃員の後輩・菱野について
6.飯塚麻帆の正体
7.この作品のテーマ・メッセージ
8.余談

1.おさらい。ルームクリーナーとは
公演から2週間経ちましたので、まずこの作品のおさらいから。観た方は思い出し、そうでない方はここで知って頂けたらなと思います。
今更ですが、フルタイトルは「ルームクリーナー~空き室清掃員~」です。
何のひねりもない直接的なタイトルですが、僕としてはこのタイトルがしっくり来ています。何故なら、このタイトルがある意味作品の全体を表しているからです。
物語の内容は、事故物件の清掃作業にて霊感を持つ主人公の清掃員が、そこに留まる霊のやり残したことをともに解決をし、無事に成仏させるというストーリーです。シンプルに纏めればこのような内容です。
そして物語のメインとなる幽霊は、突然死した大学生の霊。名前は田上亮祐(たがみりょうすけ)です。彼は学校の課題やバイトやサークルなどで寝られない日々が続き、疲れが溜まりに溜まってある日自宅で倒れるように寝たらそのまま死んでしまいました。それから20日以上経つまで誰からも見つかることないまま、放置されてしまうという可哀想な青年なのです。
その可哀想な青年・田上くんは、ある一つの心残りがあって霊として留まっています。それは、「喧嘩別れした友人と仲直りがしたい」ということです。
そこで、清掃員はその喧嘩別れした友達を直接会わせ、お互いに仲直りをするため協力します。そして最終的に、2人は再会し感動のハッピーエンドをむかえるというお話です。
「若者の突然死」「上司のパワハラ」と現代社会の問題に触れつつ、幽霊とのやり取りはほのぼのとしているが、人間同士ではドロドロと皮肉なテイストで描かれているのもこの作品の特徴です。

2.主人公・清掃員について
本作品の主人公となる人物・清掃員。清掃員という役名であり、本編で一切名前が触れられてません。何故名前がないのか。
念のため登場人物をざっくり紹介しますと、主人公である霊感持ちの清掃員、幽霊の田上亮祐、主人公の後輩の菱野充明、幽霊の友人(生前)の飯塚麻帆、清掃会社の社長の栗原社長の5人です。このように登場人物をまとめると、主人公以外名前はあります。この理由は何故なのか。
この清掃員という人物、そもそもキャラクター性も特殊で、無機質で淡々としている、行動がメインキャラらしくない、喋り方が直接的とどこか変わったところがあります。ですが、気持ちにスイッチが入ると急に感情が高まり、豹変する一面を見せることもあります。癖のあるキャラクターです。しかも既婚者
さて、そこから話を戻して名前のない理由…それは、
清掃員の物語全体における行動にあるのです。
清掃員は本編ではほぼ全部のシーンで登場しますが、清掃員がメインで動くシーンはほぼ皆無といっていい程ありません。冒頭のシーンでは菱野と社長が目立っているし、社長絡みのシーンでは社長の本質に触れ、幽霊との出会いのシーンは田上がメインに動いてます。そして後半の麻帆との待ち合わせでは、麻帆と菱野がメインで動き、そしてクライマックスシーンでは一番の見せ場で舞台からいなくなります。辛うじて最後のエピローグでようやくメインになれたか否か…。このような立ち回りです。上記の内容だと、本当にサブキャラに見えます。
そう、ここなのです。お気づきでしょうか?
清掃員は「主役というポジションを確立しつつも、やってる行動の全てが他のキャラの立て役者」なのです。言い換えるとするならば、黒子のような立ち位置です。清掃員の周りで他のキャラが何かを起こし、清掃員がそれに対応する。自分からは決して動きません。
本編を観た方は清掃員は行動力あると思いますが、それは何かきっかけがあったから動くだけであって、自分きっかけで行動していません。
しかし、その行動には必ずしも「愛」があります。目には見えない愛情こそが肝となります。私としては、清掃員は聖人君子に近い存在だと思っております。何せ見返りを一切求めませんから。自分自身のことを疎かにし、他人の幸せを優先する本当に利他主義な人です。

実はこの清掃員、あるキャラをモデルにし作りました。それは小説「コンビニ人間」の主人公・古倉恵子です。この作品の主人公は、人としての感情が描かれることがなく、無機質で、人間味を全く感じない。不気味だという意見もあります。
そこで、この古倉恵子がもし人としての感情を持ったらと、そのアンチテーゼかのように作ったキャラなのです。別に私は古倉恵子という人物が嫌いだからこのようなキャラを作ったという訳ではありません。むしろ大好きです。一見サイコなんちゃらに近いですが、この人物が存在するおかげで「普通」の定義について考えさせられるきっかけを与えてくれるし、逆転の発想をも見せてくれる。
だからこそ、オマージュの意を込めてこのようなキャラを作りました。

そして気になる人はいたか否か、清掃員に名前は一切ないのか。実はあります。
役としての役割のために伏せていただけであって、本当は本名は予め考えていました。清掃員の本名は「喜嶋礼菜(きじまれいな)」です。更に言うと喜嶋姓は結婚後の苗字であって、旧姓は「成木(なるき)」です。
旧姓から名前の由来は「礼儀正しく菜のようにすくすく成長し、綺麗な女性でいてほしい」という意味が込めてあります。そしてそして!更に喜嶋姓と成木姓での名前には共通点があり、どっちも名前を略すと「きれい」になります。清掃を仕事とする人だけあって、ある意味ぴったりな名前だと思います。

3.田上と麻帆の仲直りについて
ルームクリーナーで一番のクライマックスシーンですね。そもそも何故二人は喧嘩別れしてしまったのか。
それは、麻帆に原因があるかもしれません。麻帆はわがままっ子でよく田上におねだりをしていました。田上は人が良いので、そのおねだりを断らず応じてあげました。
そんなある時、田上はバイトの給料前で生活費に困ってしまいます。そこで、麻帆とファミレス行ったとき、麻帆は相変わらず「ご飯奢って」と言ったことに田上は「いや、割り勘にしようよ」と言い返しました。すると麻帆はそれに腹を立て、田上と仲違いしてしまいました。
だからと言って、麻帆は田上をメッシーだのパシリだのATMだとは思っていません。田上の優しさに甘えて調子に乗っていただけなのです。麻帆は普段田上を友達として大事にするし、学校の空いてる時間はよく遊ぶ仲だし、本人曰く「大学で最も親しみやすかった」とも言っています。ただ、麻帆は田上のピュアさや人が良すぎるところに愛嬌を感じ、つい甘えてしまったのです。
ですが、今回田上の割り勘に腹を立てたのは、その時たまたま麻帆はあることで機嫌が悪かったのです。原因はお察し下さい。田上にとってはとんだとばっちりになってしまいますが…。
ところで田上は、どうしてここまで麻帆に寛容だったのか。そして、どうして麻帆と仲直り出来なかったということで霊として留まっているのか。
それは、麻帆のおかげで田上の大学生活が良くなったからです。田上は人見知りな性格で、大学に入学しても暫く誰とも話せず、ただ一人でぼんやりとしている日々が続きました。そんな田上に麻帆は興味本意で声をかけたことから、後にサークルに入り友達の幅が広がり、田上の大学生活は明るくなれました。この恩があるからこそ、田上は麻帆を想う気持ちは強いのです。
ところで、どうして田上は高校までの友達がいない大学に行ったのか。いじめられっ子だったの?と思った方もいるかもしれません(?)。実はというと、いじめが理由ではなく、高校までの親友と同じ大学へ行く予定でしたが、田上が受験に落ちてしまい、滑り止めで受けた大学がたまたま友人がいない大学に行ってしまっただけなのです。人見知りというのもあって、元々友達が少ない子でした。
最後に、田上は麻帆に恋愛的な感情はあったか。実は……ありました!ですが、本編のクライマックスシーンでは振られてしまいましたね。(麻帆のセリフで「(田上が幽霊で再会しちゃったということに対し)今あたしの目の前にいるのは、大事な親友の亮ちゃんだよ。」「これからもずっとずっと友達でいようね!」より)
好きな娘にこう言われたら尚更成仏できませんよ…。
ところが田上は、「ここで恋愛的なことを言うと、未練が残って逆に成仏出来なくなるという麻帆ちゃんなりの気遣い」とポジティブに捉え、この世に未練がなくなったと本心から言えました。でも実際は、麻帆は田上に恋愛感情はありません。友達として好きってやつですね。余談ですが、麻帆の好きな男性のタイプは「少女マンガにいそうな爽やかセレブ」です。田上には程遠いタイプです。

4.シーン間の清掃員と社長の会話について
メインとなるシーンの間に、2回挟んでた清掃員と社長の伏線めいた謎の会話。観た方は覚えていますか?
あれは本編でいうと1ヶ月前のお話です。この話から、もう一つのメインとなる要素に繋がるのです。それは清掃員の苦悩です。清掃員は社長に弱みを握られるわけです。
そこで、会話の本題に入りましょう。本編で清掃員は社長に清掃会社を辞めたいと言ってました。社長にとってはまさかの出来事だし、清掃員は一番大事な社員だからショックは大きかったでしょう。この時の清掃員は辞めたい理由を「自分の中の気持ちと考えに折り合いがつかなくなり、それに疲れてしまいました。」と言っていました。どういうことか。
原因は霊感です。清掃員は自身の霊感を利用し、これまでの事故物件を解決してきました。ですがそのような霊は、やりきれない思いを抱えて留まっていることが多く、清掃員はその思いに対応しなければいけないので、それだけ心身の負担が大きいのです。
項目2で書かれませんでしたが、清掃員の淡々とした雰囲気にはある理由があり、それは自分自身の感情を制御するためです。清掃員は感情移入しやすい人であり、幽霊に感情移入しすぎてしまうと自分自身が壊れてしまうと危惧し、感情を抑えようとするため淡々とした雰囲気で自分自身を誤魔化しているのです。ですが、結局本編で田上に仲直りを説得するために感情をモロに出してしまいましたね…。菱野がビビるくらいの変貌ぶりで…(笑)
さて、話を戻します。上記の心身の負担が大きくて辛いという"気持ち"と、浮かばれない気持ちでいる幽霊を1人でも多く救ってあげたいという"考え"がぶつかり合い、仕事を続けていくのが難しいということで辞めたいと社長に言いました。
社長は、清掃員の発言に対し残念がってましたが、内心それを許しませんでした。そこで社長は、相談に乗るという名目で清掃員を飲みに誘い、酒で酔わせ、無理矢理ワンナイトを過ごさせてスマホにデータとして残すという暴挙に出ます。
社長の行動はハッキリ言って"クズ"そのもの(もっと言えば犯罪)ですが、それだけ清掃員を会社に残したいという思いがあります。本編で社長は清掃員に「お前には感謝している。」「お前がこの会社で一番必要なんだ。」と言う程、社長は清掃員に恩があります。
それもそのはず、清掃会社「クリーンアップ・クリーン・クリーナー」の売りとなる要素の作ってくれたのは紛れもなく、清掃員のおかげです。清掃員の霊感のおかげで、不動産業界で有名になったという功績があるし、クリーンアップ・クリーン・クリーナーにお願いすれば、事故物件を解決してくれるというセールスポイントを作ってくれた恩があるからです。
(しかし、清掃員からしてはそれは望んで行ったものではないし、ただ助けてあげたいという下心のない考えでの行為ですので、清掃員にとってはいい迷惑な話です。)
だから社長にとって清掃員の辞職は、ある意味会社の死活問題でもあります。清掃員がいなくなることで、この会社のセールスポイントを失う可能性があるかもしれません。そのため、あのような暴挙に出るほど必死だったのです。でも2度も言いますが、やってることは非常にクズです。そして、そんなクズ役を筆者の私が演じてたというのもなかなかのものですが…(笑)

最後に、観た方の中で賛否があったエピローグについても触れたいと思います。
本編では、麻帆が清掃員のおかげで田上と仲直り出来たというお礼で、父親の力を使って清掃員の弱み握られ事件を解決してくれました。その後の社長の反省のシーンとなります。
私としては、清掃員らしくきれいに終わったとは思っていますが、意外と批判意見もあり驚きました。それは最終的に何故自ら会社に残ると言ったのか。社長にパワハラを受け、弱みを握られ、挙げ句の果てにはその時の話を菱野にばらすことまでする…。確かにこう並べると許せないことばかりです。
そんなクズ社長の会社に残ったのは、清掃員の優しさにあります(項目2の「清掃員について」の記事を改めてご確認下さい)。清掃員は目には見えない愛情があり、利他主義であり、自分のために行動する人ではありません。一度辞めたいと言ったときは相当覚悟したものでしょう。
他にも、十数名従業員がいる、菱野が信じると言ってくれたこと、会社のイメージダウンをさせたくない、辞めると言った後の社長の必死さ、田上のように救われてない幽霊たち助ける責任をなどから、改めて清掃員自身で考えて出した結論が「残る」という答えになりました。
ただこれだけは言います。決して社長を許していません。社長のことより他の従業員達の生活がかかっているということを重視し、その人達の今後の生活に支障を来してほしくないという理由なのです。
清掃員の利他主義からくる優しさ故の結論です。この意図が解説を通してご理解頂ければ幸いです…!

すみません!まさかこんな長文になるとは思ってませんでしたので、一旦ここで切ります!
ですので、ルームクリーナー 解説2に続きます!↓
https://note.com/chopchips/n/n6f427820a550

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