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令和版桃太郎のスペックが低すぎた件 第2話

〇騎士のアパートの敷地内(夜)
薫子にナイフで胸を刺された騎士。
騎士「な…」
薫子、ナイフを抜き取る。
騎士、血がにじみ出てきた場所を手で押さえながら苦しそうに倒れこむ。
騎士「お前が…犯人…」
薫子「まさか。すぐ治る」
騎士「…?」
薫子「急所は外してるし、万が一再生しない場合は一億でも二億でも保証はする」
騎士「二億?」
それは悪くないな、という考えが一瞬よぎるも騎士、顔をぶんぶん横に振って、
騎士「ふざけんな。早く救急車を…じゃないと死ぬ…苦し…」
と言いながら苦しくなくなっていることに気が付く騎士。
騎士「…?」
恐る恐る立ち上がりながら自分の服をめくり傷口を確認する騎士。
出血した跡はあるものの、刺し傷は今まさに騎士の目の前で再生し、ふさがり始めている。
騎士「⁉」
薫子、やはり、といった表情をする。
騎士「ど…どゆこと⁉え、今オレ刺されたよね?え何コレ?」
混乱している騎士。
薫子「話はあと。今から会議があるから、(道路に止めてある高級車を指しながら)乗って」
と、騎士に乗るよう促す。
騎士、促されるまま乗ろうとするも、はっと我に返り、
騎士「乗るわけねーだろ。殺人鬼め」
と言ってアパートに戻ろうとする。
薫子「乗ったら、もう一年分の家賃も払うわ」
立ち止まる騎士「…」
薫子「十年分でもいいわ」
騎士、振り返り「ぜってー、十年分もらうからな」と強く念を押しながら車に乗り込む。

〇道路(夜)
夜道を走る薫子の車

〇薫子の車内(夜)
後部座席に座っている薫子と騎士。
薫子はパソコンを開き、イヤホンをし、画面に映る白衣を着た研究者らしき白人の男性と英語で話し始める。
騎士「‼」
英語を話す薫子に一瞬驚く騎士だが、すぐ気を取り直し窓を覗いたり、車内を見渡す。
騎士(運転手つきなんてどんだけのおエライさんだよ…)と思いながら薫子をじろじろ見る。
騎士(オレとそんな年変わんなそうだし。何の仕事してんだ?)
ふと、自分の血のついた服を見る。
服をめくり、刺された場所を見る。刺された場所が分からない程きれいにふさがっている。
騎士(刺されてなかった?いや痛かったし血出たし。じゃ何だ?この女は知ってるぽいけど…、てかなんで知ってんだよ?てか誰だよこの女)
頭パニックの騎士、薫子を見ると目が合う。
どうやら薫子は会議をしながらも騎士の様子を伺っていた様子。
騎士、怪訝そうに薫子を見ながら、会議の画面に目をやる。そこには試験管を持った白衣の黒人女性の姿。
騎士、はっ、とする(実験台⁉)
騎士(そうだ、オレのこの体のこと知って、実験に使う気だ。今その打ち合わせしてんだ⁉くそっ、ふざけんな)
騎士、車のドアを見る。数種類のボタン。
騎士(どれがロックだよ)
騎士、その中のボタンを一つ押す、と同時にバッターンと背もたれが後ろに倒れ、騎士も一緒に倒れ、「うごっ」と思わず声がでる。
振り向く薫子に、騎士、なんでもないですよ~、実は横になりたかったんですよ~、という風な愛想笑いを浮かべながら、倒れた背もたれに寝そべる。
しかし目線はドアのボタンへ。
騎士(くそ、ドアが開けにくくなってしまった)
騎士「…」
騎士、ゆっくりと起き上がりながら、「なんか暑いなぁ~」とつぶやきながら別のボタンを押す。窓が開く。
騎士((窓に向かて)お前じゃねーっ)と心の中でキレながら叫ぶ。
騎士が別のボタンを押そうとしたら車が止まる。
薫子「(パソコンを閉じながら、騎士に)着いたから降りて」
騎士「⁉」窓をのぞく騎士。
目の前には大きな豪邸がそびえ立っている。
騎士(ガーン逃げ遅れた)

〇薫子の邸宅の駐車場(夜)
薫子と騎士が乗った車が停車している。
その奥には大きな豪邸が立っている。
薫子、降りてこない騎士に少し苛立ちながら「降りて」と騎士の側の車のドアを開ける。
騎士(今だっ)と薫子を押しのけ、家と反対の方向へ猛ダッシュ。
薫子「(騎士に)ちょっと」
騎士「(薫子に向かって)人体実験するつもりだろ、ざけんじゃねー」と叫びながら出口に向かうも、大きな門が閉まっており、出ていけない。
薫子、騎士に追いつき、「そんな事する訳ないでしょう」
騎士「じゃあ、あの試験管の会議は何なんだよ」
薫子「あれは今研究開発してる件で…」
騎士「やっぱ実験するんじゃねーか」
薫子「だから違うって。これ」といって騎士に名刺を渡す。
名刺には「犬田薬品 研究開発部長 犬田薫子」の文字。
騎士「犬田薬品ってあの、あすなちゃん(騎士の頭の中に、人気アイドルグループセンター・山梨あすなが宣伝しているCMが浮かぶ)がやってる風邪薬のCMの…?」
薫子「そうよ。…確かに私も自己紹介してなかったわ…。ごめんなさい。私、犬田薫子」
気の強そうな薫子が簡単に謝罪したことに驚きを感じる騎士。

〇薫子の邸宅・リビング(夜)
高価な調度品が飾られた広い廊下を、驚きと物珍しげに見ながら薫子とリビングに入っていく騎士。後ろには執事の犬田佳樹がついてくる。
薫子「ご両親から何も聞いてない?」
騎士「何を?」
薫子「桃の誓いの事よ」
騎士「桃の誓い?」
薫子「…本当に何も知らないみたいね。何してんのよ親は」呆れた様子でつぶやく。
薫子「昔話の桃太郎は知ってる?」
騎士「ああ、知ってる」
薫子「あれはお伽話じゃない」
騎士「は?」
薫子「あの話は実話で、あなたは桃太郎の子孫なのよ」
騎士「バカにしてんの?オレはがくはねーけどそんな話…」と苛立ちながら言う騎士をさえぎって、
薫子「そして私は犬の子孫。私達は残りの雉と猿の子孫を見つけて鬼を封印しないといけないの」
騎士「…マジで言ってんの?」と怪訝そうに言う。
薫子「私は冗談は言わない。私だってこんな事したくないのよ。鬼を封印しないと、一族が死ぬから仕方なくやってるだけ」少し苛立った様子で話す。
真剣な顔の薫子に騎士、嘘か本当か分からず戸惑う。
騎士「…オレの体がすぐ治ったのとカンケーあんの?」
薫子「体が再生するのは桃太郎だという証。そしてその体を鬼は狙ってる。ここ数か月「桃」のつく名字と「太郎」がつく名前の人が殺されてる事件は知ってる?」
騎士「ああ。目の前で見たし…」
薫子「あれは桃太郎を探していたのよ。致命傷を与えて、再生し、生き残った人間が桃太郎だから」
騎士「探してどうすんだ?」
薫子「鬼の復活には桃太郎の不死身の体が必要なのよ」
騎士「ちょっと待って。なんでオレが桃太郎なんだよ。太郎じゃねーし。」
薫子「それは私が聞きたいわ。本来桃太郎の子孫は太郎を名乗らないといけない。私達が探しやすいようにね。どれだけ苦労したと思ってるの。…まあ、そのおかげで鬼たちもあなたを探しだせなかったようだけど」
騎士「鬼に捕まったらどうなんの?」
薫子「私もそこまでは知らない」
騎士「はあ?なんで知んねーんだよ?」
薫子「今まで鬼が復活したことがないから。過去に四回鬼の復活が試みられたけど全て私達の先祖が阻止してる。だから今度は私たちが阻止しないといけなのよ」
突拍子もない話で騎士、顔をしかめる。
薫子「とにかくあなたが鬼に捕まるとゲームオーバー。だから今日からこの家に住んでもらう」
騎士「は?なんだそれ。なんでオレがあんたの命令聞かなきゃなんねーんだよ」
薫子「命令じゃない。最善の策を提案してる。この家が一番安全よ。いくらでもお金使っていい。なんだって買っていいから」
騎士「金でオレを動かせると思うなよ。だいたい桃太郎の誓いってなんだよ。アホらし。帰る」
出ていこうとする騎士だが、家賃の約束を思い出し、振り返って、「家賃十年分」
薫子「勿論払うわ。でも今現金はない。明日の朝渡すから今夜は泊まったら?」
騎士「は?帰るし。明日取りに来る」
と言って出ていこうとするが振り返って
騎士「あと交通費。勝手に連れて来られたんだから。それと(血の付いた服を見せながら)服ね」

〇チェーンの柿安居酒屋(深夜)
多くの客でにぎわう居酒屋店内。
新しい服を着た騎士、ビールを飲み干し、ジョッキを置く。
騎士「かー、やっぱ店の酒はうめー」としみじみ味わう。
ふと壁一面に貼ってあるメニューの中に混じる大きなポスターに目が行く。
ポスターの内容は桃太郎をモチーフにした飲酒運転撲滅のポスター。
騎士「…(服をめくり、再生した部分を見ながら)オレが桃太郎…?」考え込む騎士。
騎士「あーでもあの女はムリっ。マジエラそー。(薫子の顔を思い出し)…顔はまあタイプだけど…、ムリムリっ」頭を振って、「(カウンターの方に)ビールジョッキで」

〇道路(深夜)
夜も更け人通りの無い住宅街の通り。
1人騎士がべろべろに酔った状態でふらふら歩いている。
騎士「明日は二百万明日は二百万~」と自作の鼻歌を歌いながら、気分よさげ。
交差点に差しかかる騎士、左右確認せず渡ろうとすると、猛スピードの車が飛び込んでくる。
車に吹っ飛ばされる騎士、少し離れたところに転がる。
車、急停車し、運転していた阿久津戸鞠が降りて、騎士に駆け寄る。
戸鞠「だ…大丈夫ですか?」
戸鞠、スマホを出し、救急車を呼ぼうとする。
騎士、戸鞠の腕を掴む。
戸鞠「ひいっ」驚く。
騎士「大丈夫だから~、オレ~不死身なんだよ~ヒヒ…」ろれつが回らない状態で話す。
戸鞠「え?救急車呼ばないと…」
騎士「だ~か~らぁ~」と言いながらすくっと立ち上がり、「不死身なんだって~ヒッヒッヒ…」
戸鞠、面倒くさそうな顔。
騎士「オレぇ~なんか桃太郎なんだってぇ~ヒヒヒ~意味わかんねーよなぁ~、ね~」
戸鞠、騎士の「桃太郎」の単語に反応する。
戸鞠「…」
騎士「(服をめくって)オレさあ~ここ今日刺されたんだけど、すぐ再生してさぁ~」
戸鞠、気分良く話している騎士をじろじろ観察している。
戸鞠「…名前は?」
騎士「オレぇ~?オレはぁ~桃園…」
と言いかけたところで、戸鞠スタンガンで騎士を気絶させる。
倒れこむ騎士。
戸鞠、騎士の前に立って、「見つけた…僕が鬼の主人だ」
不敵にほほ笑む。

続く

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