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介護の想定外

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[登場人物]

・私 (都会で夫と二人暮らし)
・夫
・お義母さん(夫の母・2023年秋から同居開始、要介護3)

・お義父さん(夫の父・地方でお義母さん、弟と3人暮らしだったが2023年夏前に他界)
・弟(夫の弟・お義父さんの死後、長年の無職を経て介護施設に勤務を始める・実家暮らし)

・叔父さん(3人兄弟のお義父さんの弟・妻と同地方で2人暮らし・子供なし)
・叔父さんの妻(叔母さんが2人出てくるので叔父さんの妻とする)

・叔母さん(3人兄弟のお義父さんの妹・嫁いで同地方で夫と2人暮らし)

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夫と夫の母であるお義母さんとの3人の生活が始まった。
できることはやって、夫に補ってもらえるところは補ってもらおう。
性格的にも穏やかで激しい性格ではないから、
こちらの指示には普通に従ってもらえるだろう。
通所の介護サービスが始まるまでの間はとりあえずがんばろう。
そんな気持ちだった。

お義母さんが来た初日。
夫婦であたふたしたり、お互いのやり方に少しイライラしたりしながらも
お義母さんを寝かせるまではできた。
お義母さんの部屋の扉を閉めて、
その後自分達もお義母さんの部屋のすぐ横の部屋で寝たが、深い眠りに入った頃、

「○○(私)さぁん…」
「〇〇(夫)ちゃぁん…」
とか細い声が聞こえた。

私は神経質な方で、少しの物音でも目が覚めてしまう。
お義母さんの部屋と私達の部屋は壁ではなく和紙が貼られた扉で仕切られていて、小さな声でも聞こえる。
もちろんこの声も、?…何か聞こえた、くらいの感じで目が覚めて
お義母さんの部屋の扉を開けると

「おしっこが出たみたい」

履いてもらっていたおむつにおしっこを漏らしたらしい。
夜中に慌てて履き替えさせる。
灯りの漏れる和紙の扉からの光と物音で夫も起きて二人して手伝う。
そしてまた寝かせた後、二人で倒れるように自分達のベッドに寝た。

ここでまず想定外があった。
紙おむつを履いているからといって、
紙おむつでおしっこをしてしまってもそのまま寝てくれるわけではないんだ。
おしっこに気づいても気づいていなくても、そのまま朝まで寝て、
起きた時に履き替えたいと訴えてくれると思い込んでしまっていたことに
自分の無知さを感じた。

お義母さんは尿意を感じると目が覚める。
その後も夜はトイレに行きたくなると小さい声で私達を呼び、
トイレに行けてもおむつが少しでも汚れていると履き替えたがり、
夜中に新しいおむつを持ってトイレで手渡し、汚れたおむつを処理する。

お義母さんは自分で着替える、歩く、食べるなどの動作はできるものの、
自分達の倍の時間がかかる。
お義母さんは腰が曲がっていて立ち上がると腰から90度に曲がった状態のまま歩く。足は立ち上がると揺れ、壁つたいでゆっくりとしか動けない。

夜中に起きて、トイレまで誘導し、おむつを履き替えるまでリビングで待ち、布団をかけてあげてまた寝てもらう。
これで40分くらいはかかっていた。
時には実家から持たされていて使っていたおむつのサイズが大きすぎて、
夜中にベッドにおむつから尿が漏れてシーツを濡らしたことが二日続いた事もあった。
その度に夫と二人で対応し、私達は寝不足が続いていった。

想定外だったのは夜中のトイレだけじゃなかった。
部屋の場所を覚えられない。
トイレ、洗面台の場所を覚えられない。
リビングに座ったまま全く動こうとしない。
夜中はトイレに行きたがるのに、昼間は自分でトイレにも行こうとしない。

お義母さんが感情のない生き物のように思えて、
全く自分の意思を言わない、行動に出さないお義母さんに
どうしてあげたらいいのか困惑する日々が続いた。

そして何より一番精神的に来たのは、
動作をする度に私に確認するように聞くこと。

歯磨きでは
「次は何したらいいかな?」
私「うがいしようか」

着替えでは
「これは脱いだらいいかな?」
私「それは肌着だから脱がずにそこのパジャマを着て」

トイレに誘導し用を足した後は
「次はどこに行ったらいいかな?」
私「リビングで座っててくれていいよ」

これが毎日。毎回。
お義母さんも引っ越してきて、今までの暮らしとは違うから慣れるまで仕方がないのかなと、始めは思っていたが、
一向に無くならない行動前の確認。
このために日常生活では介助こそ必要ないものの、見守りは都度必要で
それまでにできていた家事ができないストレスが積み重なった。

2時間ごとにトレイに誘導し、
朝昼夜同じ時間に食事を作って目の前に出す。
身支度や寝る準備は横にいて見守り、間違えた場合は教える。
お義母さんが寝た後に夫が帰宅し、作った食事をまた出して、食べて片付ける。
そしてお風呂に入って寝る。夜中にトイレで起こされる。

自宅で仕事をしている私は家事だけではなく仕事もやりにくい状況になり、
まったく集中できない、やっと集中し始めたと思ったら見守りで手を止めないといけないという日々に、さらにストレスは加算されていった。

夫「そんなに気にしなくても、放っておいていいよ。
        トイレは行きたくなったら扉を開けておけば行くだろうし、
  ちょっと出かけるくらいなら大丈夫だから。
  少し気を張りすぎなんじゃない?」

そういう夫に、ほとんど家にいない夫にイラッとしながらも、
それならと、二人っきりの時間が続いている事に限界を早くも感じていた私はある日、
お義母さんに「買い出しと役所にも行かないと行けなくて、ちょっと時間かかるんですけど2時間くらいで戻ります」と行って出かけた。
カフェで少しコーヒーを飲んで一人の時間を満喫し、
買い出しを済ませて帰ると、
お義母さんはズボンを履かずに紙おむつ姿のままリビングに座っていた。

私「…え?お義母さんどうしたん?」
「ズボンどれ履こうかと思って」
私「え?履いてたズボンは?」

あたりを見回すと脱いだズボンがお義母さんの寝室の床に落ちていた。
恐らく、なぜかトイレに行くのに部屋に行ってズボンを脱ぎ、
その後トイレに行ったがズボンをどこに脱いだか忘れてしまったのだろう。

長時間家を開けた自分を責め、
自分で何もできなくなっているお義母さんに苛立ち、
出かけて大丈夫、といった夫に腹を立てた。

こんなにうまくいかないのか。
在宅介護を完全に舐めていた自分が恥ずかしかった。
自分の仕事の都合でお義母さんを受け入れて10日後に出張があり、
ショートステイを出張前日から取り急ぎケアマネージャーさんに手配してもらっていた。
とりあえずショートステイに行ってもらうまでの辛抱だ。
受け入れてわずか数日後にそんなふうに思ってしまっていた。

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