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#221 【病原性集中講義】Part5: 免疫寛容とは何か。

毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

病原性集中講義の第5回は、免疫寛容についてお話します。免疫寛容とは、特定の抗原に対して免疫応答を示さない仕組みです。では、免疫寛容という仕組みは何故存在するのでしょうか。その理由は考えてみるとシンプルです。抗原の認識機能の観点から考えると、自分自身に対する免疫応答が起こり、自己の排除という本末転倒なことが起きてしまうためです。

ヒトの体内で最も多く存在する成分は、ヒト由来の成分です。自然免疫においては、ヒトを始めとする高等生物以外の生物に関するパターン認識受容体が働くため、自身を抗原として認識することはありません。しかし、獲得免疫における抗体の産生の仕組みを考えると、自身を抗原として認識するリスクがあります。そこで、特定の免疫に対しての免疫を回避する免疫寛容により、このリスクに備えています。

何を話しているのか、よく分からからなくても安心してください。
今回のエピソードで、ゆっくりと解説していきます。

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多様な抗体の生成

獲得免疫の基礎から振り返ります。

獲得免疫においては、抗原提示細胞によるナイーブT細胞へのシグナル伝達とヘルパーT細胞への分化、ヘルパーT細胞からT細胞やB細胞の活性化が起こりました。ここで重要になるのは、抗原提示細胞としてのB細胞です。

多様な抗原受容体をもつB細胞の生成

抗原にさらされていないB細胞は、特別にナイーブB細胞と呼びます。ナイーブB細胞の細胞膜表面には、膜結合型免疫グロブリンIgMと呼ばれる抗体が存在しています。膜結合型免疫グロブリンIgMの多様性がこの節でのキーワードです。膜結合型免疫グロブリンIgMが、様々な抗原と結合する抗原受容体としての役割を果たします。

抗体の主体である免疫グロブリンはY字の構造をしており、二股に別れた先端は遺伝的な可変性に富んでいます。つまり、遺伝的に様々な構造をとることが可能です。

造血幹細胞から分化した1つのナイーブB細胞について、発現している抗原受容体は1種類です。分化の過程で、様々な抗原受容体が個々のナイーブB細胞に発現し、B細胞集団全体としては100万とも1億とも言われる抗原受容体を備えることができます。

抗原受容体の多様性を支えるのは、抗原受容体をコードする遺伝子が無数にあることに起因しています。抗原受容体としての免疫グロブリンを構成するのは、H鎖およびL鎖と呼ばれる部分構造ですが、それぞれの部分構造を構成する遺伝子は100以上と言われています。分化の過程で、数個の遺伝子が確立論的に選ばれ、遺伝子群の組み換えが起ることで、抗原受容体は多様性を獲得します。

B細胞のみならず、T細胞の受容体 (T Cell Receptor: TCR)も同様のメカニズムで多様性を獲得します。

クローン選択説

多様性のあるナイーブB細胞集団が存在したとき、そこにはこれから出会うであろう抗原に親和性のある抗原受容体がほぼ確実に含まれています。

そこで、抗原が体内に侵入した場合を想定してみましょう。様々な種類の抗原受容体を持つ無数のナイーブB細胞のいずれかが、侵入を許した抗原と親和性があります。すると、そのナイーブB細胞が活性化、増殖を行うことで免疫応答をすると共に、再感染に備えます。

このようにナイーブB細胞の集団が抗原への曝露によって選択され、一部のB細胞が残ることは、オーストラリアの免疫学者、微生物学者のF.M. バーネットによってクローン選択説 (clonal selection theory)と名付けられました。

以上の仕組みを考えると、自身への抗体が確率論的に、偶然生み出されてしまってもおかしくありません。

免疫寛容

そこで登場するのが免疫寛容 (Immunological Tolerance)です。免疫寛容という仕組みにより、仮に自己を異物として認識する可能性のあるナイーブB細胞が生じても、反応後に死滅することで成熟B細胞になることができません1)。成熟したとしても、その後の免疫応答で重要となるヘルパーT細胞について同様のTCRの存在が必要となります1)。

クローン選択説を提唱したF.M. バーネットは、免疫系の未発達な胎児が抗原に曝露されるとその抗原受容体をもつ免疫細胞クローンは禁止クローンとして不活性化される仮説を提唱し、後の実験で仮説の正しさが証明されています2)。

自己抗原に不活性でありながら、他の抗原に対して免疫応答をするT細胞の選択と分化は、胸腺にて起こります。

このように、自己を免疫応答の対象外とする仕組みがあることで、私達自身を攻撃することなく免疫機能が働いています。免疫寛容の不調により生じる疾患が自己免疫疾患です。

ここまでに、今後腸内細菌との共存でも重要になる免疫寛容の基礎についてお話しました。次回は、感染症の近況と宿主の要因についてお話します!

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今日も、お疲れさまでした。また次回、お会いしましょう!

参考文献

1) 7章 抗体の生合成, 免疫学の基礎(第5版), 入村達郎 監修, 辻勉 編著, ISBN: 9784807920334

イラストも豊富でオススメです!

2) 16章 自己免疫, 免疫学の基礎(第5版), 入村達郎 監修, 辻勉 編著, ISBN: 9784807920334

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