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サイアノ和紙作家雑記 vol.33『糠ほっけと和紙』

礼文島の木彫り職人の
おっちゃんに
たまたま頂いた糠ほっけ。
一夜干ししたほっけを
糠に漬けて日持ちさせる
かつての保存食だ。

海が時化れば物資は滞るが、
島で調達できるのは海産物オンリー。 
だけど時化れば漁にも出られない。
そこでたくさん獲れたほっけを
保存する術が求められたと推測。
環境はちょっと違うけれど、
東北などの漬物文化も同じかな。
冷凍技術が発達した現代も
糠ほっけは礼文島の
食文化として残っている。

食べ方は尻尾に切れ目を入れて
皮を剥き身をむしって食べる。
コマイやカンカイのように
カッチカチではなく
鮭トバ、それも一夜干しの
ソフトで柔らかなものに近い
(酒の肴にもう最高)。
鮭トバ以上に脂が手につくが、
確かイヌイットも
トドなどの脂身を食べていたハズ。
極寒の地を生き抜くには
脂は必要なのかもしれない。
北緯45度の礼文島の食文化圏は、
やはり北方なんだと実感した。
勝手にロマンを感じて
胸が熱くなった。

食に限らず、
いろいろなモノやコトが
淘汰されてゆくのは宿命。
ただ、仕方のないと
わかってはいても
理屈や合理性だけじゃなく
遺すべきモノやコトが
あるとも信じている。
糠ほっけも礼文島で
生き抜く知恵であり、
そこに根ざした文化、
地域性が内包している。
旅先でそんなことに触れられると
豊かさを感じられて嬉しくなる。
そして、それらをどうやって守り
受け継がれるのかを想像する。

僕が和紙をつくりたいと思ったのは
じぶんの作品だから、
紙からつくりたいというエゴ。
でも今は少し変わりはじめて、
和紙を遺すために何ができるのか。
そのために僕は何がつくれるのか。
和紙に何を宿すべきなのか。
そんな意識に変化しはじめている。

糠ほっけは保存食としての
役割は終えたけれど、
礼文島の食文化として遺った。
この島に生きた人たちの歴史、
土地の記憶として
今後も受け継がれて欲しい。
そういった積み重ねが、
大切なんだと思う。

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