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210703 まちの「つながり」プロジェクト 第6回講演及びトークセッション レポート

【講演】
遊びと学びとまちづくり
【ゲスト】
丑田俊輔さん(ハバタク株式会社代表取締役/シェアビレッジ株式会社代表取締役/プラットフォームサービス株式会社代表取締役)
【調布市 まちづくりプロデューサー】
髙橋大輔、菅原大輔
【ファシリテーター】
松元俊介
【記事および写真】
パカノラ編集処 代表 小西 威史

皆さん、こんにちは。
フェーズ2の2回目となる(フェーズ1からの通算では第6回)の講演&トークセッションを7月3日、FUJIMI LOUNGEを会場にオンライン配信で行いました。

ゲストは丑田俊輔さん、テーマは「遊びと学びとまちづくり」です。
丑田さんは秋田県・五城目(ごじょうめ)町を拠点に、年会費ではなく「年貢」を納めてもらう方式のシェアビレッジを運営したり、住民参加型の小学校「越える学校」やまちの遊休施設を遊び場にする「ただのあそび場」の取り組み支援、仕掛けづくりを手掛けている方です。まさに遊びと学びを融合した、楽しいまちづくりを実践しています。

この日は五城目町からのリモート参加で講演を行っていただきました。
空き家やまちの空きスペースの活用に「遊び」を取り入れていくことで、楽しげな余白が生まれ、世代を越えた交流が広がり、経済もついてくるといった、調布市でも応用できる実践例のお話が次々と出てきました。その内容をレポートします。

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1.「さあ、あなたも年貢の納め時」。茅葺きの古民家を「年貢」方式のシェアビレッジへ。

丑田さんは現在、3つの会社を経営しています。暮らしのあり方を考えていこうという「シェアビレッジ」、学びをテーマにした「ハバタク」、コワーキングスペースの運営などで時代に合わせた働き方を考える「プラットフォームサービス」という会社です。

もともと東京・江東区で育ち、千代田区にあるコワーキングオフィス「ちよだプラットフォームスクウェア」の運営などに携わった後、五城目町に移住したのは2014年のことでした。ただ、今も「ちよだプラットフォームスクウェア」や近隣の元酒店の建物をリノベーションした「錦町ブンカイサン」の運営などを行っているため、東京にも拠点をもっています。

そんな丑田さんですが、五城目町に移住後は、小学校の廃校舎をシェアオフィスに変えた「BABAME BASE」内に事業所を構えました。
そしてある日、その校舎の近くで茅葺き屋根の古民家と出会います。

「仕事の合間の気分転換に、のどかな田んぼ沿いの道を散歩していたのですが、そのとき立派な茅葺きの古民家を見つけました。明治15年建造の建物で、日本の原風景を感じる、美しく、かっこいい建物でした。持ち主はご高齢の方だったのですが、話を伺うと解体が決まっているということで、その後、何度か通ううちにご縁ができ、譲っていただくことになりました」と丑田さん。

ただ、一家族だけで住むには大きすぎること、茅葺きの葺き替えなどに費用がかかることでどうしようかと、地域でできた仲間たちと話し合っているうちに出てきたのが、「年貢」方式のシェアビレッジにするというアイデアでした。

「古民家を『村』に見立てて、年会費代わりの『年貢』を納めた方は『村民』になれるというアイデアです。呼びかけのスローガンは『さあ、あなたも年貢の納め時』。村民はこの家に『里帰り』でき、地域のお祭りや屋根の葺き替えなどに参加できるという仕組みです。クラウドファンディングで村民を募集すると800人以上集まりました」
そして、古民家は「シェアビレッジ町村」として、全国各地にいる村民というコミュニティが、共同で維持管理する場所になりました(※)。

※現在は本コミュニティを発展的解消し、コミュニティの立ち上げとコモンズの管理を支援するプラットフォーム「Share Village」(https://sharevillage.co/)を運営中。

03_シェアビレッジ町村

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2.住民参加で、これまでの概念を越える学校づくり。

続いて、丑田さんが紹介したのは住民参加型で未来の学校をつくろう、という五城目町のプロジェクトです。
「五城目町では小学校の統廃合が進み、1校になっています。その小学校の建物に、老朽化による建て替えの計画があり、どんな建物にしていくか、住民参加型で話し合われることになりました。私もワークショップ開催などで手伝わせていただきました」

そして、3か年でまとまったコンセプトが「越える学校」です。それは校舎の境界を越えて、子どもたちが地域に飛び出し、町民も年齢の境界を越えて学校に参画する、というものでした。「地域と共につくる」学校にしようという方針がまとまったそうです。

コンセプトの肝として、「学校の中心に『生涯小学校エリア』をつくり、そこには何歳になっても、100歳になっても学びに来られるような場所にしようということになりました。具体的には図書室です。図書室であれば、用事がなくても住民がふらっと入ることができます。もともとあった相撲場の周りは小さな公園にして、だれでもゆっくり休めるようなところにしようという話も出ました」と説明しました。
その地域に開かれた小学校内の地域図書室「わーくる」はこの春からオープンしたそうです。

05_地域図書室わーくる

3.「520年目のレボリューション」。そして「遊休不動産」をもっと遊ばせる。

最後に丑田さんが紹介したのが「ごじょうめ朝市plus+(プラス)」と「ただのあそび場」についてでした。

五城目町には「朝市通り」という通りが中心市街地にあり、そこでは520年の伝統をもつ朝市が開かれています。
「歴史ある朝市ですが、最近は出店者さんの高齢化も進み、お店やお客さんが減ってきていました。そんななか、地域の30代〜40代の女性を中心に、もう一度朝市を盛り上げていこう、『520年目のレボリューションを起こそう』という動きが出始めたんです。そして、朝市に合わせ、若い世代も気軽に出店できるような『ごじょうめ朝市プラス』が始まりました」

そもそも朝市は、人が行き交う場で発生した交易の拠点のような場。いろいろな商いが生まれては消えた、実践的なテストマーケティングの場でもありました。
「朝市は、野菜や山菜の販売だけではなくて、大道芸人や占い師がいたり、子どもたちが走り回って『商い』に触れたりするような、いろいろな機能をもつ場所でした。だから『朝市プラス』も、いろいろなチャレンジができる場所にしようと再定義されました」
その結果、ウーパールーパーを売る店が出たり、「シェアビレッジ」の村民のお医者さんが朝市のおばあさんたちに「無料健康診断」を行ったり、子どもたちが足湯と肩たたきの店を出したり、思いもかけないことが起きていったそうです。

また、この朝市通りにある空き店舗を使い、まちの子どもから大人まで、誰もが「ただで」遊びに来られる場所をつくりました。

「それは『遊休不動産をもっと遊ばせよう』というアイデアです(笑)。実は五城目町の子どもたちは、学校の統廃合が進んだ結果、スクールバスで広いエリアから通学していて、放課後に友だちと遊び歩けるような機会が減っています。そこで商店街の中に気軽に遊びに来られるような場所をつくってみようと考えました。豪華な遊具も設備も置かず、遊び方が決まっているわけでもない『ただの』遊び場です」

ここも子どもたちが集まる場になり、地域に活気が生まれたそうです。「ただのあそび場」が入る建物にカフェができたり、周辺にも小さなお店や職人の工房などもできていったそうです。

丑田さんは「五城目町で取り組んできたこと、体験したことのすべてのベースに遊び心や余白のようなものがあったように思います。今は、『Playful Economy』=遊びから始まる経済、ということを考えています。一人の遊び心を起点に、仲間が集い、新しい価値が生まれる。そして、そこで生まれたコミュニティがまた他のコミュニティとつながって大きな生態系になる。これからは公(パブリック)でも私(プライベート)でもない、共(コモンズ、共有資源)をコミュニティでもつことが大切だと思います。調布市でもぜひ、子どもから大人までみんなが遊び、学び続けることができるようなコモンズ、未来をつくっていっていただきたいです」と話し、講演を締め括りました。

06_ただのあそび場

4.トークセッション
丑田さんの講演後、丑田さんと髙橋、菅原によるオンライン・トークセッションが行われました。その一部を紹介します。

菅原:丑田さん、ありがとうございました。調布でも私的な空間や空き家を活用して、地域にも開かれ、稼ぐこともできる場所をつくっていこうとしています。空き家を使い、地域社会を支えるような空間をつくりたいということでは、それはコモンズといえるかもしれません。
本日の最初の話に出てきた「シェアビレッジ町村」は、村民も集まり、うまく回っているコモンズなのだと思いますが、一般的にはコモンズ的なことをやろうとしてもマネジメントで苦労することも多いと思います。そのあたりのご意見を聞かせていただけるでしょうか。

丑田:コモンズには、ボランタリーな経済をどのような塩梅であえていくか、または捉えるのか、大きな視点が必要かもしれません。たとえば、「ただのあそび場」は完全に貨幣経済を手放した世界です。その背景には、田舎の地価がめちゃくちゃ安いということがありますが、いずれにせよ「ただのあそび場」は最初からマネタイズは考えていませんでした。遊具を作るにしても、地域のいろいろな人たちが持ち寄ったり、得意な人が作るという贈与経済で成り立っています。
ただ、一方で、子どもたちが集まってくると、その子どもを親御さんが迎えに来て、子どもを待っている間にコーヒーを飲むとか、商店街で買い物をするとか、そんなことが増えていきます。そうすると、「どうもあそこは人でにぎわっているようだから店を出してみるか」と考える挑戦者が出てきたりするかもしれません。
ボランタリーな経済が入り口になって、そこから派生したつながりの資本が豊かになって、新たな商売が生まれるなど、リアルな経済がまわっていくこともあると思います。

髙橋:ご紹介いただいた取り組みのすべての根底に「遊び」があり、とても興味深いお話でした。そもそも人類の近代化とともに暮らしの中から遊びがなくなり、余白がなくなって、ぴりぴりした社会になって、まちの中から子どもの姿も消えてしまったというような状況があります。そんな中、今日は「レボリューション」の話もありましたが、「遊び」をキーワードにまちを新しく組み替えていこうという取り組みは、これから富士見町で進めていくプロジェクトの参考になります。

菅原:調布は、東京の中では都会と田舎が混じり合った「郊外」という位置づけをされるのですが、調布が持つ可能性について、丑田さんはどのようにお感じになりますか。

丑田:東京には奥多摩もあって、へたをすると秋田よりも田舎なところもあるかもしれません。調布は都心部のコミュニティにも近く、絶妙な立ち位置にあるように感じます。
たとえば、調布で暮らしながら奥多摩の山をみんなでシェアして、その木材を富士見町のリノベーションに使うとか、千代田区の人も巻き込んで、シェア農園をつくってみんなで野菜を育てるとか、そんなことができそうな、バランスのとれた場所ではないでしょうか。

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丑田さん、ありがとうございました!

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