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【日記】950を踏んだのに次スレを立てていない_221114

昨今なにが憤ろしいかといえば、インターネットカルチャーの回顧である。

2ch(以下、現在5chと呼ばれるものを指す)が盛り上がっていたのも今は昔。当時のノリについて昨今のインターネットでは「たまに、今あえてコスるとちょっとおもしろい」くらいの扱いを受けている希ガス。なにが希ガスだ。

それはともかく、今の人々が当時のややキツいノリについてただコスるだけならばともかく、一部のCMなどを通じて「懐かしくも微笑ましい思い出」として昇華する向きが見受けられるのは、どうしても看過しがたい。

当時を知るものにとっては議論を待たないことだが、ユニークユーザー1000万人とも言われた当時、2chで得られた経験というのは9割が不愉快なものだった。

当時の段階ですでに遺跡のように古臭かった造りの掲示板を見るために専用のブラウザを導入し、意図の見えないコピペ荒らしをNG登録し、意図の見えるものもまたNG登録し、IDが赤くなっている者もNG登録し、その最中こういった奴らに対して何らマトモな手を打たない削除人どもの高圧的な口調を思い出し、そうしてたどり着いたスレッドでは「携帯電話やスマホから書き込みを行っている」というだけで人としての扱いを受けられず、特定の国家や思想については今ならヘイトスピーチとみなされかねない意見が蔓延し、そうでなくとも住民どもはパスタを食うときにスプーンを使うか使わないかみたいなくだらない話題で一晩中レスバ(当時この言葉はなかった)に明け暮れ、しかもそいつらが950を踏んだのに次スレを立てていない……など、列挙するだけでもげんなりするような目にばかり遭ってきた。(当時はこれらを耐えてでも2chに行かなければ、あれだけの数の人間と交流できる場所などなかったのだ)

そして、これがもっとも大事なことなのだが、当時ある程度2chにコミットしていた人(つまりchocoxinaを含むおまえのフォロワーの大半や、あるいはおまえ自身)は、しばしばこういったしょうもない空気を生み出す側にさえ回っていた。

2chをコスって笑いをとっているあのツイッタラーもwebライターも、かつてはXBOXを買った誰かを一日中そしったり、頬のとがったAAに政治的なことを言わせたり、野良Wi-Fiを巡ってID(個人識別子)を変えながらレスバ(当時飽きるほど起きていた「これ」に名前がなかったのはなんとも不思議なことだ)をしたり、炎上している企業に電話をかけたり、あるいはそうやって電話をかけた人間の報告を待ちながら、渦中の相手を特定の蔑称で呼ばなかった名無しを叩いて何事か成した気分になったり、スレ立て直後にお決まりの冗談を言わなかった奴を非難したり、まとめブログを罵ったり、キッズが湧いたときにわざわざ「夏だなぁ」と言ったり、そういった数多のくだらない流れを作り、あるいは維持する側に回っていた可能性があるのだ。

こうした点に一切触れずに「電車男を応援しながらVIP☆STARを歌い、新参を半年ROMらせる配慮もしながらちょっとキモい言葉でふざけあったあの日々」として当時が語られることについて、欺瞞だとまでは思わないにしても、そろそろ、先に挙げたような暗部をこそ笑う段に入ってもいいのではないかと思うのだ。

さて、ここまで言ったからには、chocoxina自身の2chにおける良くない話について書かないわけにはいくまい。さすがにある程度マイルドなものしかお出しできないが、一つ紹介しよう。

当時自分は「ガイドライン板」というのをよく見ていた。そこは基本的にコピペ(掲示板上で流行るミーム)やその改変ネタを収集するための場所で、そこで扱われているコピペの中に「変態番付」というのがあった。

詳細はググッていただくとして、要はニュースになったさまざまな不審者を番付表のようにまとめたコピペだ。

基本的には事実の列挙なので、このコピペが「改変」されて出回ることはそうそうない。ではガ板(こう略すのだ)の変態番付スレではなにが行われていたかというと、その時々でニュースになった不審者の情報を集めながら「これは小結」「せいぜい前頭くらい」などと品評を行うのだ。

ある時、その変態番付スレに「『つばくれおじさん』が逮捕された」という情報が飛び込んできた。

つばくれおじさんとは、道行く少女に「つばの研究をしているのでつばをくれないか」と声をかけるおじさんで、その広範囲、長期間に渡る活動ぶりから、東京の多摩地区やその近郊ではかなり名の知れた存在だった。chocoxinaも、小学生の時分に学校でつばくれおじさんに関するプリントを受け取った記憶があるほどだ。

その一報があって以降、スレがつばくれおじさんの番付に関する話題でもちきりになったことは言うまでもないのだが、なにを隠そうこれが荒れに荒れたのだ。

この活動規模は文句なく横綱に値すると言う者、「盗んだ上履きをコピーする」などの既存力士のインパクトには及ばないとする者、VIPあたりから噂を聞きつけてやってきて、過去ログも見ずに新横綱だと騒ぐ者、このVIPPERどものような横綱推進派は横綱誕生に立ち会いたいだけだと非難する者、いや慎重派こそ古参ぶりたいだけだと謗る者。喧々諤々の議論(議論?)は一昼夜で収まるものではなかった。

つばくれおじさんが横綱になったからといって、あるいは大関止まりだったからといって何になるのか、そもそもニュー速のような人口もないこの板でなにか決定したところで、コピペの流通さえろくにコントロールできないのではないか。そういったツッコミはいくらでも思いつくが、当時あそこにいた者たちはみな真剣だった。2chの議論で真剣になるなどくだらない、というのは当時から散々言われていたことだが、それがせいぜい、荒らしに必死で言い返しながら「遊んでやってるだけ」と言うときと同じような、ある種の強がりに過ぎないこともまた誰もが理解していた。

そして、これが一番恐ろしいことなのだが、ここまで当時の流れを覚えているchocoxina自身、状況からしてその渦中で騒いでいたこと自体は間違いないというのに、自分がどちらの立場だったのか全く思い出せないのだ。人生に無駄な時間など無いとしばしば言われるが、その言葉を信じる人は、世の中にここまで実がなく記憶にも残らない時間を過ごしたねらーがいるなどとは想像もしていないだろう。

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