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あるスポーツと、世界最強(かもしれない)日本人の話【ディスクゴルフ】

(画像出典:https://discgolf.ultiworld.com/2017/01/26/manabu-who/

大谷翔平や国枝慎吾など、世界で活躍する日本人スポーツ選手の活躍を目にすると、ナショナリズムとは無縁なつもりの筆者でも晴れやかな気分になる。

日本人にとって「世界に打って出る」とはほとんどの場合、言葉も通じない異国に飛び込むということであり、その苦労を乗り越えて成し遂げた結果の尊さは、パスポートを持たない筆者の胸をも強く打つというものだ。

さて、昨年末、日本ではまだまだ知名度の低いとあるスポーツで、日本人選手が世界トップの評価を獲得した。

本稿は、そのスポーツおよび選手の紹介、そして彼が世界トップ評価を受けながらも「最強」の二文字に(かもしれない)を付けざるを得ない事情に関する話だ。

ディスクゴルフ、およびプロディスクゴルファー・梶山学選手について

そのスポーツの名前はディスクゴルフ。最高評価を獲得した選手は梶山学という。

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=HG4UcntQVks

ディスクゴルフとは、その名の通りフライングディスク(いわゆるフリスビー)で行うゴルフのこと。ゴルファーがクラブを持ち替えるように、状況に応じて様々なディスクを選択しながら、より少ない打数で専用のバスケットに収めることを目指すスポーツだ。

(二分少々の動画なので、ぜひ再生しながら読み進めてほしい)

昨今のコロナ禍によるアクティビティ需要の高まりから、発祥の地アメリカを中心に近年市場規模が急拡大している。

MVP は、2021 年にそれまでの 11 年間を合わせたよりも多くのディスクを作成しました。同社は、最後の新しいマシンが 4 月にオンラインになる 2020 年初頭から、生産量を 10 倍に増やす予定です。

https://www.wsj.com/articles/americas-business-challenge-can-be-told-in-two-words-disc-golf-11648215832 translate by google

プロスポーツとしてのディスクゴルフの見どころや楽しみについては、手前味噌ながら筆者が過去に執筆したnoteを御覧いただきたい。2021年、アメリカでは界隈を飛び越えてESPN等多くのメディアに紹介された「とある名ショット」の解説である。

さて、そのディスクゴルフで昨年世界最高のレーティングを獲得したのが梶山学選手。

画像出典:https://udisclive.com/players/manabukajiyama

日本選手権(現舞子オープン)での優勝はこれまで15回。2019年にはアジアチャンピオンになるなど世界レベルの活躍を見せ、アメリカでもその美しいフォームでコアなファンから熱い視線を向けられている。

2014年からディスクメーカーProdigyのスポンサードを受けており、同社からは彼のサインやシルエットが印刷されたディスクがこれまで2度発売されている。

梶山学選手は「最強」のディスクゴルファーなのか?

さて、そんな梶山選手だが、世界最高の評価を受けたということはすなわち、世界最強の選手なのだろうか?

日本のディスクゴルフファンである筆者としては「もちろん!」と食い気味に返答したいところだが、実際のところ、それを思いとどまらせるいくつかの事情がある。

そもそも、ディスクゴルフプレイヤーのレーティングを決定するためには、公式大会のコースに基準となるスコアを設定し、実際に各プレイヤーがマークしたスコアをそれと比較してパフォーマンスを算出。この手続きを複数大会繰り返して平均を出す必要がある。

また前提として、ディスクゴルフのトップ選手はそのほとんどがアメリカ在住で、大きな大会もほとんどアメリカで開催されるのだが、梶山選手のキャリアは日本の大会に集中しており、とくに昨年は日本の大会にしか出場していない。

(文字が多くなってきたので、名ショット集など再生してみてください)

つまり、アメリカの選手はアメリカのコースを基準にレーティングが計算されるのに対し、梶山選手は日本の大会をもとに評価されている。"本国"の選手との比較は、あくまでも間接的なものでしかないのだ。

もちろんコースの評価には一定の指標があるわけだが、だからといって日本と米国でまったく同一の基準が用いられているかといえば、それは環境の違いや、担当者が人間である限り常に生じる差異など様々な理由から疑わしい。

少なくとも、同じ大会に何度も出た選手同士を比べるときよりも、海を隔てた大会の成績をもとに選手の比較をするときのほうがより「ブレ」が出やすいことは明らかだろう。

さらに、ディスクゴルフファンが「最強」について語るなら、昨年のランキング2位、レーティングは梶山選手とわずか1pt差の1050であるポール・マクベスを無視するわけにはいかない。

画像出典:https://twitter.com/Paul_McBeth

世界選手権で通算6度の優勝、さらに直近10年で優勝を逃した4大会でもすべて2位、という驚異的な成績を誇り、2018年には18ホールで18アンダーパーという大記録を達成している。

梶山選手の存在をいったん忘れれば、現役最強どころか歴代最強、と断じるに不足のない名手であり、また彼は業界2位のディスクメーカーDiscraftと1000万ドルの契約を結ぶなど、商業的にも現状最も成功している選手だといえる。

そんなマクベスよりも梶山選手は優れているのか? という質問には、ここではいったん「いま直接対決してくれないとわからない」と答えたいところ。

だが「公式大会に27度出場してレーティング1050をマークしたプレイヤーと、9度の大会で1051をマークしたプレイヤーのどちらが強いと判断すべきか?」と問われれば、今まさにそうしているように、自分がこれまでライター・編集人生で培ったさまざまなレトリックを駆使しながら、歯ぎしりの隙間から「前者と見なすのが合理的だろう」とこぼすほかない。

しかし、である。

梶山選手がポール・マクベスをはじめ米国のトップ選手にまったく太刀打ちできないかと言われれば、それもまた否だ。

梶山選手はすでに欧米の大会を何度か経験しており、とくに2017年の全豪オープンでは、マクベスをはじめリッキー・ワイソッキー(2022年レーティング3位)やイーグル・マクマホン(同7位)ら、現在もトップレベルで活躍するプロと共に最終日時点でリードカード(ベスト4)に残り、互角の戦いを繰り広げている。

さらに2016年には、ドリュー・ギブソン(同15位)やニコ・ロカストロ(同27位)も参加した大会で堂々の優勝を収めており、このときすでに世界で通用する実力を備えていたのだ。

そんな梶山選手が、晴れて「マクベス超え」を果たした今、世界に打って出たらどこまでやれるのか。5年前と比べて競技全体のレベルが格段に上がっていることを鑑みると、良くも悪くもどうなるかわからない。本当に「最強」を倒す可能性もゼロではないのだ。

「世界のマナブ」を見るための困難について

とはいえ、日本のディスクゴルフファンである筆者としては、あまり能天気に「梶山さんアメリカ行きましょうよ」とは言いにくい部分がある。

現状、本国アメリカを含む世界中を見渡しても、「ディスクゴルフで食っている」人間はほとんどいない。スポーツ自体の知名度が低い日本ならばなおのこと、大会で提供される賞金は限られているし、梶山選手のスポンサーであるProdigyも恐らく、遠い日本の、本国で活躍を見せてくれない選手に対して、生活が成り立つレベルのフィーを支払ってはいないだろう。

日本のプロ選手が、練習時間を確保しながら顎・足・枕を捻出して海をわたるのは相当な苦労なのだ。

そのような現状を受け、梶山選手の故郷である福岡県のディスクゴルフ協会が、ある施策を実施している。

簡潔に言えば「協会を通じて購入したディスクゴルフ用具の売上の一部を、梶山選手の渡航費用として提供する」というものだ。

なぜ直接のカンパを募っていないのかといえば、これは恐らく、梶山選手本人が自身の挑戦よりも「国内でのディスクゴルフの普及」に高いプライオリティを置いていることの現れだろう。

twitter上でも同様の発言を確認できる。

(カンパは受け付けていないのか、という意見に対する返答。それはともかく、ここまでさんざん述べたような数々の業績がありながら、プロフィールに「プロです」の一言さえないのはどういうつもりなんですか梶山さん。世界のためにももっとギラついてください)

筆者としてはその意思を汲んで、なるべく多くの人にこの施策を通じてディスクゴルフを始めてもらうべく、今こうしてキーボードを叩いているというわけだ。

梶山学選手サポートプロジェクトについて

福岡件ディスクゴルフ協会が今回販売するのは、「ディスクゴルフ用のバッグ」「ディスク1枚」「梶山選手のレクチャー」の3点、計2万円強のセットである。

ここでいったん、レクチャーを除いたモノ自体の価値について、いちディスクゴルフファンからの率直な意見を述べておこう。

「初心者にはややオーバースペックかもしれないが、その分長い間使えるし単純にコスパは非常に良好」

といったところだ。

バッグは20枚以上のディスクが余裕を持って入るサイズで、もしあなたが将来世界選手権に出ることになっても必要なディスクをすべて収められる。本国での定価は140ドルで、日本の小売店にとっては在庫を抱えにくい価格帯のため、普通に買おうとすれば国際送料の追加を覚悟で輸入に頼ることになる。

これからディスクゴルフを始めよう、という人にとっては少々もてあます懸念のあるサイズだが、手持ちのディスクが少ないうちは下のスペースにジャケットなりブルーシートなり入れておけばいいだろうし、先述の事情で日本ではこの価格帯のバッグの供給が需要に追いついていないため、いよいよの場合はメルカリに出せば買い手が現れるかもしれない。

ディスクについては詳細が公開されていないが、恐らく定価は2500円前後で「パター」と呼ばれる種別のもの。

普通のゴルフにおけるパターと同じようにバスケットを直接狙う際に毎ホール投げるほか、短い距離のドライブにも重宝する。

東京のコースなら、パター1枚をしっかり使いこなせばアンダーパーで回ることも可能だ。

ここに「世界トップレーティング選手のレクチャー」が加わることを鑑みれば、初心者に最適、とまでは言わないものの「カタチから入ってもいいかな」という程度のモチベーションがあるなら無条件におすすめできる水準のセットだといえる。

購入の際にはShozoMori氏のTwitterに直接連絡しよう。

https://twitter.com/shozomori/status/1625626371967025157

ディスクゴルフをプレイするには

最後に、日本でディスクゴルフをプレイするための情報についてもまとめておく。

といっても、この手の情報に関しては自分があれこれ言うよりも以下のサイトを見てもらうのが早いだろう。

各地のコースやディスク販売店の情報、初めてのプレイ時にこなれ感を出すためのちょっとしたマナーなどが一通りまとまっているので、まずは近場のコースから調べてみてほしい。大半の場所ではレンタルディスクのサービスも提供されている。


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