寸景

巨大な人工建造物を目にすると心が踊る。
城、ダム、炭鉱。

「軍艦島」
もうその名前の響きが好きだった。
7月、どうしてもその場所に行きたくて一人旅に出た。

長崎港からのクルーズ船に乗り、出港する。
上陸できる確率は1/3。
年120日しか上陸できない厳しい環境に、人が住んでいたのかと、感慨深い。

道中ガイドさんが説明をしてくれる。
元島民だった人も多いという。
テレビの無い時代に普及率が9割だったというのも今は昔。
島は波風にさらされ、ゆっくりと崩壊しつつ静かに佇んでいる。

日本初の鉄筋アパート、屋上庭園、最先端技術。
小学校、銀座と呼ばれる歓楽街、病院や神社。
エネルギーの転換により、盛衰した島。

私が目にしている廃墟となった無人島の非日常的な光景は、かつて誰かの日常だった場所なのである。

今目にする日常も、いつか過去になり、非日常になっていくのだろう。
青空の下、島を後にしながらふと思った。

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