BL声劇台本『Smoking Cinderella』

3人用、BL声劇台本です。

BLではありますが、内容は軽め。

BGMに小さくジャズ等流して頂けると、少し雰囲気が出るかも知れません。

使用の際は、注意事項https://note.com/chocolita801/n/nb5b2715fd254

を一読願います。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【登場人物】

☆…主人公(大学生)
★…ヒロちゃん(三十代前後)
♡…マキさん(ゲイバーのマスター。年齢不詳)

☆M『 』部分は、主人公のモノローグ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

☆M『店内の、妖しいピンクの照明が、目の前のグラスに反射してゆらゆらと揺れる。
…いや、揺れているのは、俺の視界だ。
その理由は、慣れない酒を飲んだ所為か、それとも、初めて訪れた二丁目の空気の所為か。
その両方なのかすら、もうよくわからない』


☆「(グラスに残った酒をグイッと飲み干して)…別に、何だっていいし。マキさん、おかわり」

♡「ちょっとアナタ……初めての割に、飛ばしすぎなんじゃない?」

☆「今日は、おもいっっっきり!、飲みたい気分なんだよ」

♡「なあに、失恋でもしたの?」

☆「………」

♡「あら…図星だった?」

☆「……最初っから、わかってたんだ。上手くいくわけない、って……」


☆M『好きになった相手は、同じサークルの先輩。
俺より一つ年上の──男。
先輩がノンケだってことは知っていたし、
自分が特別な相手になれるとも思っていなかった。
仲の良い先輩後輩として傍に居られたら、それだけで良かった。
……なのに、神様はそんな願いすら、叶えてはくれなかった。
「アイツは男が好きらしい」
誰が流したのかもわからない噂は、あっという間にサークル内に広まった。
なまじ当たっているだけに、俺は、否定することも出来ないまま、虚しく孤立するしかなかった』


☆「……男が好きって、そんな悪いことかよ」

♡「アタシに向かって、そんな野暮なこと聞かないでちょうだい」

☆「それまで『友達だ』っつってたクセに、みんな一気に離れてった。……LINEのリストから、先輩の名前も消えてた。そんな拒み方されるくらいなら、面と向かって拒絶される方がまだマシだったのに…」

♡「なるほど。居場所が欲しくて、ここへ来たのね。一人が寂しい気持ちはわかるし、アタシにも覚えがあるけど……だからって、自棄(やけ)になるのはオススメしないわよ」

☆「居場所……か…」


☆M『俺は、居場所を求めていたんだろうか。
……いや、違う。
俺はただ「普通に」、先輩を好きで居たかっただけだ。
誰かに恋をする、ありふれた幸せを、胸の内であたためていたかったんだ』


♡「まあ、愚痴くらいは聞いてあげるけど、飲むのは程々にしておきなさい。その歳じゃ、どうせ飲み慣れてないんでしょ?」

☆「イイから、あと一杯だけ。飲まなきゃやってられるか」

♡「酔っ払いのオヤジみたいなこと言って…。目が据わってるじゃないの。アナタはまだ若いんだから、別れの数だけ、出会いもあるわよ」

☆「……それ、普通逆じゃん? 『出会いの数だけ、別れもある』じゃないの」

♡「逆の方がポジティブでしょ。──ほら、早速お客様のご来店だわ。いらっしゃいませ……って、ヤダ! ヒロちゃんじゃない!」


☆M『ヒロちゃん…?』


★「こんばんは、マキさん」

♡「随分と久しぶりじゃないの」

★「このところ忙しくて。やっとひと山越えたから、マキさんの顔が見たくなったんだ」

♡「あらヤダ。相変わらず、おだて上手なんだから」

★「君、隣いいかな?」

☆「……は? え、俺?」


☆M『…なんだ、このイケメン。
小慣れ感も半端ないし、カラーシャツと白ジャケットを、こんなにも自然に着こなしてるヤツ、初めて見た。
服装だけならホストみたいだけど、なんて言うか…雰囲気が凄く落ち着いてる』


★「見ない顔だけど、もしかして初めて?」

☆「ちょ……聞いといて、勝手に座るのかよ」

★「君には、『NO』って言われない気がして」


☆M『隙のない顔で、男は笑った。
態度も言葉も傲慢なのに、そいつの言う通り、俺は不思議と、拒む気にはなれなかった』


♡「ヒロちゃん、今日はいつもの?」

★「そうだな……」

☆「…なんでこっち見てんの」

★「今日は、シルバーストリークにしよう」

♡「あら。あらあらあら! 珍しいこともあるモンね」

☆「……? 珍しい…?」

★「何でもないよ。それより、随分若いね。学生?」

☆「……はあ、一応」

★「差し出がましいのは性に合わないけど、君みたいな子がヤケ酒するのに、この場所はお勧めしない。飢えた狼たちのエサになるだけだ」

☆「えっ……」


☆M『どうして見抜かれてるんだ、と戸惑う俺をよそに、男は慣れた手つきで煙草に火をつけた。
見慣れない銘柄のパッケージ。
先輩が吸っていたのとは違う、苦くて大人っぽい匂いがする。
初めて嗅ぐ匂いなのに、何故か不意に、目頭が熱くなった。
本当は、こうして誰かにそっと寄り添って貰いたかった。

…溺れたかったのは酒じゃなくて、涙だったのかも知れない』


☆「……っ(自由に泣いてください)」

♡「まったく。ヒロちゃんたら、相変わらず罪なオトコねぇ」

★「人聞きが悪いな。泣かせるつもりじゃなかったんだけど」

☆「泣いてない……っ」

★「(少し笑って)そうだな、泣いてない。マキさん、彼にノンアルコールを」

☆「(まだ少し泣きの余韻残しつつ)…そこまで、して貰わなくてイイから」

★「ここは、素直に『ありがとう』って受け取るところだ」

♡「ヒロちゃんの言う通りよ。ハイ、お隣の彼から」

(☆の前に差し出されるグラス)

☆「……ありがとう、ございます」

★「上出来だ。ついでに、コレも受け取ってくれ」

☆「名刺…?」


☆M『下の名前と、携帯番号しか書かれてない。
「ヒロアキ」だから、「ヒロちゃん」なのか。
…本名なのかどうかもわからないけど』


(隣で席を立つ★)

♡「あらヒロちゃん、もう帰るの?」

★「慌ただしくて悪いね。次はちゃんと時間を作って来るよ。(☆の方へ身を寄せて)…君も、機会があったら、今度はもっとゆっくり飲もう」

☆「……っ!?」

★「それじゃ、また」

(★、店を出る)

☆「……何だよ、アイツ。俺、揶揄われたのかな…」

♡「フフッ、それはどうかしら」

☆「え?」

♡「ヒロちゃんはね。いつもはブルームーンを飲むの。ここでの意味は、『深入りお断り』。今日飲んでたシルバーストリークは、特別な相手の前で飲むことが多いわ」

☆「特別な、相手……?」

♡「ちなみに、ヒロちゃんがアナタに奢ったそのカクテルの名前は『シンデレラ』。…もしかしたらアナタ、狼よりとんでもない王子様に、目をつけられたかも知れないわよ?」

☆「何だそれ…。勝手に隣座って、名刺だけ残していって……シンデレラはそっちだろ」

♡「次の舞踏会までに、お酒の飲み方を覚えておかなくちゃね」

☆「舞踏会って……そもそも、また会うって決まったわけじゃ…」

♡「言ったでしょ。別れの数だけ、出会いがあるのよ」


☆M『残されたのは、小さな名刺と、甘くて苦い煙草の香り。
止まりかけていた時計の針が、ゆっくりと動き出す音がした』


       〜end〜

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