BLに情緒を求めるのは古いのか?
年々拡大しているBL市場。
私がいわゆる腐女子デビューした頃は、そもそも『ボーイズラブ』というジャンル呼称すら、定着していなかった。
BLを扱う商業誌など数えるほどで、コミックスや小説の新刊を買おうにも、そもそも本屋に入荷されるかどうかすらわからない、そんな時代。
それが今や、どこの本屋を覗いても、大抵BL本は独立したコーナーが設けられ、棚一面にズラリと並んでいる。
入荷があやしいどころか、最早選びたい放題とも言えるくらいの規模にまで発展している。
ところが、BL市場の拡大に伴って、個人的に疑問を抱く箇所も目立ってきた。
・表紙の肌色率が高すぎる
この手の作品は、大抵内容もエロ度が高めな場合がほとんどだが、それにしても最近はどぎつい表紙が増えすぎではないか、と古の腐女子はハラハラしてしまう。
何故なら、通常の書店で扱われているBL本のほとんど、特に成人指定という括りにもなっていないからだ。
これが男女ものなら、間違いなく成人指定では?と思うような、全裸に近い二人が絡み合った表紙であっても、誰でも閲覧・購入が可能な棚に陳列されている。
良い大人の私ですら、これをレジに持っていくのは相当な勇気が要るな…と躊躇するくらいなのに、小中学生が当たり前のように、それらの本を手に取れる現状には、どうしても疑問や不安を感じてしまう。
・タイトルやジャンルが似通りすぎていて、分かりづらい
これは特にBL小説において顕著なのだが、BL界にも「こういう設定が流行りなんだろうな」という傾向は常にある。
ただ、以前はそこまで大きな偏りを、私は感じたことはなかった。
このレーベルは現代もの、こっちはファンタジー、こっちは少しアダルト向け…というように、レーベルごとに上手く棲み分けが出来ていた印象だった。
けれど、ここ最近書店に並んでいるBL小説のタイトルを、機会があれば一度ひと通り眺めてみてほしい。
転生、王、勇者、騎士、花嫁、後宮、寵愛、溺愛、オメガ
まず上記のワードのいずれかが含まれている作品が、如何に多いかは、恐らく一目瞭然だろうと思う。
あとは、とにかくやたらと長い。
上のワードを使用して、私の個人的感覚で今風のタイトルを作るとしたら、
『勇者に転生したはずが、何故か魔王に求愛されています』
『囚われのオメガと騎士王の寵愛』
それぞれ10秒ずつ程度で思い浮かんだものがこの2つだが、実際の書店でもまあこんな雰囲気のタイトルが多い。
個人的には、「ラノベっぽいなあ…」という印象のもの。
タイトルは大事だ。
特に漫画と違い、小説は一目で手に取ってもらえる機会がどうしても少ない。
タイトルと表紙イラスト。
この二つのインパクトが重要なのはとても納得出来る。
けれど、揃いも揃って右へ倣えなタイトルばかりが並んでしまうと、作者もレーベルも同じ場合、シリーズものなのか単発作品なのかが、大変分かりづらいのである。
あと飽き性の私は、単純にそろそろ異世界転生はお腹がいっぱいだったりする。
・エロがないBLは時代錯誤なのか?
私が最も強く訴えたいのは、この問題だ。
まだTwitterを利用していた頃、フォロワーさんの中でも、Web掲載していた小説が書籍化された方が複数いらっしゃった。
気になる作品は私も実際に買わせて頂いたのだが、どの作品においても共通していたのが「濡れ場の加筆」だった。
酷いものだと、作品の半分以上がそんなシーンばかり。
そのせいなのか、途中で出てきたキャラのその後が何も語られることもなく終わってしまい、何だか消化不良になってしまっているものもあった。
私も作品をWeb公開しているが、ハッキリ言って、濡れ場ありの作品と無しの作品とでは、閲覧数やリアクションがまるで違う。
これは、私がまだ創作活動デビューしたてで、二次創作の分野で書いていたときからそうだった。
なんだ、みんなスケベな話がすきなんじゃねぇか、そういうの嫌いじゃないぜ!
しかし私自身は、小説を書くときに敢えて濡れ場は控えめにしている。
私が書きたいのはそういうシーンではなく、そこに至るまでの過程や、キャラたちの心境・苦悩・葛藤。
同性同士だから…というところでキャラクターが悩むのは、時代遅れだと何かの記事で読んだことがあるのだが、私はそうは思わない。
何故なら異性同士の恋愛であっても、家柄や立場、年齢など、様々な理由で障害がつきまとう。
そこに、本来の身体機能や本能に抗ってでも、同性の相手を好きになるというのは、とても繊細かつ情緒的だと私は思うのだ。
死ぬまでに一度は読んで頂きたいBL本として、私が必ずオススメしている作品がある。
中村明日美子先生の、『同級生』シリーズだ。
この『同級生』から始まり、『卒業生-冬-』『卒業式-春-』の全3冊で完結する作品なのだが、最近のBL本にほぼ必ず出てくる、露骨で激しい濡れ場はほぼ無い。
少し二人が肌を合わせるシーンは出てくるが、性的な描写ではなく、キャラの表情、台詞、計算されたコマ割り、手足の描写などによって、直接描かれるよりもよほど色っぽく描かれている。
言葉のやり取り、互いの目線や表情、場面から溢れる二人の空気感。
これや…!これがBLの良さなんや…!!
本当に、無駄なコマなどまるでないと言っても良いほど秀逸な作品なので、未読の方は是非とも読んでみて欲しい。
そして、自身もBL小説を書く身として言いたい。
BLの醍醐味は、決してエロではない。
エロを否定するつもりは全くない。性的欲求は人間皆持っていて当然だ。
けれど、「エロがないBLはつまらない」という極論には、どうか辿り着かないで貰いたい。
日常の景色の中で、素敵なBLドラマを展開させる作家さんも多々いらっしゃる。
月村奎さんや一穂ミチさんなど、私はとても大好きだ。
その方々の作品の良さも、是非とも後世まで、伝え続けてほしいのだ。
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