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沿海州の亡霊 第一章

これまでの転膝

目が覚めたら膝枕に転生していた俺、
王女ヒサコが隣国に嫁ぐ為の人格改造に利用された俺は、不要になったことで捨てられる運命にあった
ゴミ捨て場で雨に濡れていた俺を救ったのは魔導師のシュブールだった
シュブールはヒサコの結婚にかこつけて俺をこの世界に召喚した張本人だった
俺は命を助けられた代わりに猫の姿になったシュブールお抱えの膝枕としてのまったり異世界生活が始まった・・・

原案:今井雅子『膝枕』
原作:かわいいねこ『転生したら膝枕だった件』
脚色:さんがつ亭しょこら
ドラマ『転生したら膝枕だった件』

第二部〜沿海州の亡霊〜

1.休日は終わりぬ


 シュブールにしてやられてからもう1年が過ぎようとしていた・・・
 俺はこの変態魔導師専用の膝枕となり、シュブールは昼夜を問わず俺の膝を求めてくる。
 昼間はいい、あの銀色の柔らかい感触のヌコだからまだ許せる。

 だが夜のアイツは!
夜・・・討伐やら会議やら帰ってくるなり
「あ〜疲れた」とか「もうダメだ、死ぬ」とか喚きながら部屋に入って来てベッドで俺を好き勝手に撫で回すわ膝に頭をすりすりしてくるわやりたい放題だ。

だが・・・小さな寝息を立てながら眠っているシュブールを膝枕しているのも・・・悪くない

いや!ちょっと待て!コイツは男だろ?
・・・多分、男のはずだ。

シュブールは俺の前で正装以外見せたことがない。

それに・・・

それに・・・

超絶いい匂いがする!

あ〜やめたやめた!

コイツが男だろうが女だろうが今の俺には何の関係もない。



・・・そんな変わり映えのしない毎日が少しづつ変わろうとしていた・・・

王都は国王ニィ・ヒザト三世が長く統治していたが、半年前、後継者である王子(いたのかよ!)ヒザーラが長きに渡る沿海州での海賊討伐から帰還したことをきっかけに王子の即位が近々行われるのではないか、と噂になっていた。

妹君であるヒサコは隣国ヒザヤスネヤに嫁ぎ、
王子との仲も良好、無骨だったと言われる隣国がこの一年でお花畑の様な国になったとかならないとか

まぁ俺に言わせるとそりゃそーだよなとしか言いようがない。

そのヒサコ妃殿下が一年ぶりの里帰りをなさるという事で王都は祭りの準備で騒がしくなっている。

シュブール「あなたをヒサコ妃の前に出すわけにはいきませんから、部屋で大人しくしてもらうしかありませんね」

そう仕向けた奴に言われたくない

だが俺の存在はシュブールしか知らない
国王ですら俺が城内にいることを知らない

「と思ったんですが、人間の姿になれば・・・誰にもバレませんよねw」

そうそう、コイツは長期の遠征で城を離れるときには俺のことを魔法だかなんかで人間の姿に変えて従者として外に連れ出してくれることがある。

だが夜には猫の姿になって・・・

シュブール「退屈なお城から外に出られたのは僕のおかげニャン!
だから君は僕にお礼をしなければならないのニャ。
どうすればいいかわかってるよね?」

そう言って俺を膝枕の姿に戻して思い切り甘えてくる。

悪くない・・・いやふざけるな!
結局お前がそうしたいだけじゃないか?!

こんなことが何度も繰り返されて来たせいで最近はもう慣れたというかなんというか・・・

下僕だ・・・

シュブールの掌でクルクル弄ばれてる訳だ俺は

今度もまた人間にしてあげたご褒美とか言って口には出せないあんなことやこんなことを・・・

2.前夜祭


 ヒサコ妃殿下が王都への里帰りを明日に控えた城内は歓迎ムードに包まれていた。
 民家も商店も軒先に姫を歓迎する華やかな飾り付けに彩られ、食堂や酒場からは肉や魚、海や山の幸をふんだんに使ったご馳走の匂いで溢れかえっていた。

海の向こうの国々との交易にこの国唯一の玄関となっている沿海州はこの王都にとって要となる地域である。
三方を険しい山に囲まれているため外敵が攻めてくるとすれば沿海州から、ということになる。
そのため王都は沿海州の領主と同盟を結び

互いに争わず
繁栄と平和に杯を捧げる

こうして何百年の間この地域は他国の争いに巻き込まれることもなく平和な時を過ごしてきたのである。

海賊と称する海の蛮族が沿海州沿岸で漁船や商船を襲う事が多発した事で沿海州との交易が滞った事から、国王はヒザーラ王子を総大将に討伐軍を派遣、聞いた話では長期の争いとなり劣勢が伝わったものの王子の奇策で反転攻勢が成功したらしい。

首領は取り逃したものの海賊はほぼ討伐したらしく
沿海州に平穏な時が戻りこうやってたくさんの交易品が町に溢れかえっているわけだ


 人々は姫の帰りを歓迎する歌を歌い踊り昼夜を問わず楽しんでいる。
 それはまるで新年と収穫祭が一度に訪れたかの様な賑やかさだ。

ヒサコはみんなに愛されていたんだとわかる。

俺には辛い思い出しかないけどな、

 その夜、シュブールは俺を人間の姿に変えて
シュブール「たまには人間としてこのお祭り騒ぎを楽しみませんか?」
と言って来た。
シュブール「私も、いつもの姿で行くわけにはいきませんから・・・」
 そう言って着替えを終えたアイツの姿は・・・

見事に町娘その1だった!

俺「いや・・・お前、女だった・・・のか?」
シュブール「何言ってるんですか?、魔法で変装しているだけです、ほら声もちがうでしょ?」
俺「あ、確かに女の子の声だよな」
シュブール「変・・・ですか?」
をい、そこで顔を赤くするな!
俺「変・・・と言うかなんと言うか・・・
頭が混乱してる」
シュブール「フフフ、じゃぁどっちがお好みですか?」
俺「違っ!」
シュブール「さぁ、細かいことは気にしないで、今夜は特別ですよ!楽しまないと損ですから!」
俺「あ、あぁ」

シュブールと俺は手を取り合って城下町へ走っていく。
いつもとは違う柔らかい手を握って・・・

 町はお祭りの最高潮を迎えていた。
大人も子供も老いも若きも食に歌に踊りに明け暮れていた。

シュブール「さぁ、私たちも輪の中へ!」
そう言って俺たちは踊りの輪に加わった。

 この一年、この町を見てきた。
他国を攻めることも攻められることもなく
豊かな実りに恵まれ、人々は平和を謳歌している。
だが姫が国を離れた哀しみを祝福の名の下包み隠してきたことがこの夜だけでも伝わってくる。

他国に嫁いでも愛されているヒサコ姫は幸せ者だ

シュブール「どうしたんですか?
やはり、姫のことが気になるのですか?」
俺「いや、そういうわけでは・・・」
シュブール「だめですよ・・・今は私のことだけ考えていてください」
俺「お前・・・?」
シュブール「お願いです・・・今夜だけでいいですから」

 シュブールが泣いているような気がした

 賑やかな音楽からゆっくりとした優しい音楽に変わっていた。
夫婦や恋人たちが手を繋ぎ、腰に手を回して踊っている・・・

これは・・・チークタイムだ!噂にしか聞いたことのないディスコとかいうところで恋人たちが人前で抱き合っても許される伝説の時間だ・・・

 シュブールが俺にもたれかかって肩に手を回してきた・・・

シュブール「お願いです・・・今だけ・・・お願い・・・」
俺「・・・わかった」

 変な取り合わせだと思われないだろうか
今は一般男子の俺と今は町娘その1の魔導師が
みんなの真ん中で抱き合って踊っている・・・

?!

なんか当たってるんだが・・・?!

シュブールの胸のあたりにそれっぽい膨らみというか・・・今まで気づかなかった俺も大概だが

俺「お前、やっぱり女じゃねーのか?」
シュブール「フフ、どっちだと思います?」

 思わせぶりに聞いてくる。確かに今の姿はただの変装ではなく魔法で変身しているようなものだから元はガチムチの男かもしれないしやっぱり絶世の美女かもしれない。でも・・・やっぱり当たってくるものがものだけに・・・

俺「どっちでもいい」
シュブール「フフフ、変な人ですね、でも・・・嬉しいです」

コイツのことが可愛いと思った俺はこの祭りの雰囲気にのまれているのか、それともコイツのいい匂いに惑わされているのか・・・

シュブール「いい・・・思い出ができました。これで思い残すことなく・・・」
俺「え?何を思い残すって?音楽でよく聞こえない」
シュブール「・・・なんでもありません。
さぁ、お城へ帰りましょう。そろそろ魔法が解ける時間です」

 そういってシュブールは来た時と同じように俺の手を引いて城へと向かっていく。
 来た時と違って、名残惜しそうに・・・

その夜、シュブールは人間の姿のままの俺を膝枕してくれた。
見た目はいつもと違う町娘の姿形なのに髪の毛はいつもの銀色の長髪、瞳はいつもより哀しそうな深い紫色を帯びていた。
膝枕に沈み込む俺の顔にシュブールの髪があたる・・・くすぐったい・・・

シュブール「今夜はこのままおやすみなさい、たまには私の膝枕もわるくないでしょ?」
俺「・・・」
シュブール「寝てしまったのですか?
もう!・・・残念な人ですね、夜はまだ、これからなのに・・・」

 シュブールの髪の毛が俺の唇に当たったのか
それより柔らかい、温かな何かが当たったような気がしたけれども

 俺は深い眠りについた
こんな心地よい眠りは初めてだ
でもきっと朝には膝枕の姿に戻っている。
そうでなければ俺はここにはいられないからだ

 今夜だけは、シュブールに感謝しつつ、明日からまたいつものまったりとした膝枕ライフに戻ることにするか・・・

だが運命の神様というやつはどうも天邪鬼と友達のようで
大体において良いことは続かないし悪い事が起きる予感だけはやたらと当たる

そして悪い予感は・・・
俺にではなく、
この王都を揺るがす災厄を招く事になる・・・
まだ、誰も知らないところで・・・

3.ヒサコが王都にやって来た!


 翌日・・・俺の体は膝枕ではなく昨日の姿のままだった。
ただ・・・何かが違う!
シュブールだ!

なんで俺がシュブールを「腕枕」してるんだ!こいつ思い切り俺に寄りかかって寝息立ててるし!!
しかも昨日の町娘その1のまんまじゃねーか!

まさか・・・これはあんなことやこんなことをしたあとなのか?いやいや服が乱れてないから多分それはない・・・と思うんだが?

じーっと寝ているシュブールの顔を覗き込む。
と、目を覚ましたシュブールは顔を真っ赤にして
「お、おはようございます!」
と恥ずかしそうに言いながらベッドから飛び起きた

シュブール「・・・昨日は・・・ステキでした」

おいーーーーーー!
これは「ゆうべはおたのしみでしたね」確定じゃねーかよ!

俺「マ?」

シュブール「覚えてないんですか?、だったら思い出させてあげましょうか?」
俺「おい・・・マジかよ?」

銀色の髪が俺の耳元に近づいてきた。そして

シュブール「・・・冗談ですよ。ほんとにあなたはわかりやすい人だなw」

姿も声もいつものシュブールだ。
いつもの自信たっぷりのやな奴に戻っていた。

ちょっと残念だ、いやいやそこじゃない!
念のために聞いてみるか

俺「じ、じゃぁ・・・なんでお前は俺の腕枕で気持ちよさそうに寝てたんだ?」

シュブールがビクッとしたように見えた

シュブール「あ・・・あれはですね・・・あなたが無理やりというか、私があなたの姿勢を変えてちゃんと頭を枕に乗せて布団をかけて差し上げようとしたらですね、き・・・急に私を押し倒して・・・
あっという間に抱き寄せて気持ちよさそうにまた寝てしまったんですよ!
で、目が覚めたらこんな事に!」
俺「え?・・・あ・・・」
思い出した。なんかそんなことしたような気がする・・・

シュブール「ようやく思い出しましたか?おかげであなたを膝枕に戻す魔法もかけることもできなくて朝までこの様ですよ!謁見の間に行く準備もしないといけないのに遅れたらどうするんですか?」」
俺「・・・」
シュブール「反省してます?」
俺「・・・はい」
シュブール「では、早くあなたも準備してください、今回のことは貸しにしておきます。」
俺「・・・はい」

シュブールはクロゼットに入って自分と俺の正装をとりに行った。

シュブール「あぶなかったんですから・・・」
俺「え?なんか言ったか?」
シュブール「え?・・・なんでもありませんから早く着替えてください!」

シュブールはあっという間に正式な魔導法衣を身につけていた。

シュブールは改めて
シュブール「今日は特別に私の従者として姫と国王そして王子の謁見の場に立ち会っていただきます。」
俺「え?いいのか?俺が姫の前にいても」
シュブール「大丈夫です。姫はあなたの目の前を通っても眉ひとつ動かされませんから」
俺「そか・・・それはそれで辛いんだが」
シュブール「あ、すみません、デリカシーのないことを・・・それだけ姫は隣国で幸せに過ごされていると言うことです。」

そう言い終えると俺の姿を魔導師の従者に変えて、耳元でこう言った

シュブール「あなたの目で見てもらいたいのです。あの方の・・・眼の奥の本心を・・・」
俺「はぁ?ヒサコに何かあったって言うのか?」
シュブール「いえ、ご心配なく、姫のことではありません。見ていただきたいのは別のお方のことです」
俺「どういうことだ?」
シュブール「シッ!人がきます」

侍女がシュブールに謁見の間へ向かうように伝えて来た。

シュブール「では、ヒサム、行きましょうか」
俺「はい!(だれだよヒサムって)」

城下町に姫を乗せた馬車が到着した。
町の人たちは昨日の騒ぎの疲れも見せずに姫を歓待した。
花や紙吹雪が舞う中を馬車は城の中へと入っていく。

そして謁見の間・・・

懐かしいと言うか見たくないと言うか
ここにまた来ることになるとは思わなかったが

それよりもさっきシュブールが言ったことが耳から離れない

誰の眼の奥の本心を見ろって言うんだ?

そもそもそんな能力俺に備わってる訳ないだろ膝枕だぞ!
腰から下しかない枕スキルしかない膝枕だぞ

ボヤいているうちに衛兵がヒザーラ王子の到着を告げた

初めて見る王子の顔。
海賊討伐を経て逞しくなられたと言うが、確かに精悍な顔つきをしている。

王子は国王の玉座の隣の席に腰を下ろした。

今の所何もおかしなところは見当たらない。

そして次に国王の到着が告げられた。

国王はゆっくりと・・・そう、ゆっくりと入って来た。
年老いたとはいえ力は衰えていないようで
臣下の前に立つ姿も王都繁栄の象徴に相応しい。

だが、国王が玉座についた途端、
急に肩を後ろから掴まれるような強い衝撃を感じた!
俺の目に見えたものは・・・
王の背後に黒い大きな影、そして・・・
さらに禍々しい影が隣の王子の背中に・・・!

あぶら汗を抑えることができない、口の中に胃酸が逆流してきて今にも吐きそうだ・・・

シュブール「見えましたか?」
俺「どういう・・・ことだ?」
シュブール「もうすぐわかります」
俺「!?」

もう一度国王に目を向けたが、背後の黒い影は見当たらなかった。

詳しいことは何も言わずシュブールは謁見の間の扉・・・そう、一年前ヒサコが飛び出して来たあの扉の方を見つめていた。

 扉が大きく開き、彼女が・・・ヒサコが謁見の間に入って来た。

 ヒサコは一年前の辿々しさなどどこにも見当たらない、隣国の妃として凛とした姿で入ってくる。

 俺のことに気づかないだろうか、いやもしかしたら気配を感じてくれるかもしれない!
 諦めの悪い奴だ、俺は・・・

だがそんな微かな希望もヒサコが俺の姿を気にも止めずに目の前を通り過ぎたことで見事に打ち砕かれた。

姫が国王の前でひざまづく。

ヒサコ「父上、お久しゅうございます。」
国王「ヒサコ、隣国でのお前の働きぶり、耳にするたび嬉しく思っておった。短い滞在ではあるが思う存分にくつろぐが良い」
ヒサコ「はい・・・

お父様〜!」

 ヒサコは一年前の無邪気な少女に戻ったかのように父親に駆け寄って抱きついていた。

ヒサコ「お父様!ヒサコはたくさんたくさんおはなししたいことがありますの!もう何から話して良いか考えていたらあっという間に今日という日が来てしまいましたわ!殿下はそれはもう素敵なお方で私の理想を三次元化したファビュラスでマーベラスなお方ですのよ!結婚してこの一年、殿下のそばであの方のお力添えができるように努めて参りましたわ!たとえ苦しくったって悲しくったってあの方のそばでは平気ですの・・・もう私幸せすぎて殿下のために尊死するんじゃないかってくらいにたまりませんのよ!それからそれから・・・」

ヒザーラ「妃殿下!」

ズン!という衝撃が俺の中で走った

ヒザーラ王子が一言発した途端、場の空気が重々しくなった。
圧がこちらに向かって飛んでくるくらいの・・・

周りは何も気が付いていない。

俺とシュブールと後二人を除いて・・・

だが、その禍々しさも一瞬で感じられなくなったのだ・・・

ヒサコ「お兄様、お久しぶりでございます。沿海州の海賊討伐からお帰りになったとは聞いておりましたがご出立なさる前と比べますとなんと逞しくなられたことでしょう!」
ヒザーラ「それは・・・お互いに大人になったということです。
私達はそれぞれに国を背負う身、もう子供ではありませんよ」
ヒサコ「そうですね、私、沿海州でのお話を是非ともお伺いしたいですわ!まだ見ぬ世界のお話、海賊たちと勇猛果敢に戦われたその武勇伝・・・ぜひお時間をつくってくださいな!」
ヒザーラ「せっかちなのは相変わらずですね・・・では園遊会のあと、ゆっくりと・・・」
ヒサコ「ええ、ゆっくりと」

ヒサコ「そういえば、シュブール!」
シュブール「はっ!シュブールこちらに」
ヒサコ「魔導師長になられたそうね」
シュブール「恐れ多いことながら・・・」
ヒサコ「そうそう、あなたに見てもらいたいものがあるの」

ヒサコはそう言って例の杖を天高く差し出した

シュブール「ひ、姫様・・・、ご冗談は」
ヒサコ「冗談ではなくってよ」

そう言ってヒサコは闇の呪文を・・・口にすることなく杖の先から白い光を発して

謁見の間に淡い桃色の花びらが無数に舞う・・・
ヒサコの杖の動きに合わせて花びらが踊っている。

杖の先の光が消えると花びらも杖に吸い込まれるように消えていった

かつて姫がこの場でやらかした闇の魔法に呆れ返っていた大臣たちも、これには圧倒されたようで言葉を失い、そしてしばらくの静寂ののち・・・

場内に割れんばかりの拍手と歓声が上がった!

ヒサコは隣国にただ嫁いで行ったdけではない
たくさんの努力を積み重ねて来たのだ

俺よりも遥かに・・・

ヒザーラのわざとらしい咳払いで歓声は静寂へと変わった

ヒザーラ「では謁見の儀はここまでといたそう。
ヒサコ妃殿下、この後園遊会でまたお会いいたしましょう。」
ヒサコ「ええ、楽しみにしております、では」

ヒサコは国王と王子にそれぞれ一礼して退室していった。

国王と王子も退室した。

天井から一枚の桃色の花びらがヒラヒラと落ちて来た

シュブールはそれを手のひらに取り、なにやらブツブツと話しかけるようなそぶりを見せた。

シュブール「話があります。まずは私の部屋に・・・」

俺たちはシュブールの執務室に入った・・・

だが、そこで俺たちを迎えたのは

ヒサコだった!

4.暗躍


ヒサコ「シュブール〜!」

ヒサコはシュブールの胸に飛び込んだ

こいつ、こういうところは相変わらずだな
旦那がいるというのに美少年とか美青年とかに目がないとか、痛さは変わらないってか?

シュブール「妃殿下、お転婆が過ぎますよ、それに・・・」

ひさこは次に俺の方を向いて、
目と口をまん丸にして、両手を広げて俺の方に走って来た!

あぁ、やっぱり俺のことを覚えていてくれたのか!
嬉しい!

と、ヒサコはしゃがみ込んで俺の膝に顔をスリスリし始めた・・・膝なのか!膝でいいのか!

ヒサコ「やっぱり・・・膝枕様〜!
そうじゃないか違うかもいいえきっとそうよそうに違いないわ!でもあからさまな態度を取ったら周りのものが『なんだこのお姫様相変わらず痛さ炸裂のコミュ障姫じゃねーか藁』とかヒソヒソ言い出すんじゃないかと気が気で仕方なかったのです!そりゃそうですわ、なんと言ってもあなたは私の黒歴史ですもの・・・やはりあの時見る影もなく焼き払っておくべきでしたのよねぇ・・・そうよ今からでも間に合いますわ焼きましょう焼き尽くしましょう私に焼かれるなら本望でしょ?愛しい膝枕様・・・」

俺「お、おい姫・・・助けてくれよ、何も言わないから!・・・おいシュブール!なんとか言ってくれよ・・・ってシュブール??」

シュブールは俺の背後で「プッ!」と吹き出し、こみ上げてくる笑いを抑えきれないのか身体中が引き攣っていた。

ヒサコ「・・・なーんてね!冗談ですわ!
少しあなたを揶揄っただけですわ
それに私、もう黒い魔法は封印しましたの。
さっきご覧になられたでしょ?
そう、あの方のお側にいたこの1年間・・・職務でお疲れになられたあの方の癒しになればとそれだけを考えて夜も寝ずにお昼寝をして私は生まれ変わりましたの!

でも・・・あぁこのすべすべ且つ頭を預けると適度に沈み込む柔らかい膝・・・今までにない背徳感ですわぁぁぁ!」

俺「シュ、シュブール・・・お前、ヒサコが俺のこと気づいてたの知ってたのか?!」

シュブール「フッ・・・(ヒクヒク)姫も謁見の間に入ってくるまでは(ヒクヒク)あなたのことに気が付いてはいなかったと思いますよ(ププッ)でもやはり一度ご覧になられたことのある姿形ですから・・・」

あの夜のことか・・・
お前ら、俺のことどこまで道化にするつもりだよ

シュブール「コホン、冗談はここまでにして本題に入りたいと・・・思うのですが・・・姫、何をなさってるんですか?」

ヒサコ「膝枕よ、当然でしょ?」

ソファでヒサコはちゃっかり俺の膝枕に頭を埋めていた・・・ナツい!

シュブール「いや、ですから今はまじめなお話をしているのですから・・・」
ヒサコ「あらぁヤキモチ?彼氏を元カノに取られそうな超絶焦りまくりの顔をしてるわよ〜」
俺「?」

ヒサコ「ま、いいわ、そろそろ本題に入りましょ」
シュブール「姫・・・お人が悪い・・・」

ヒサコはソファから離れて3脚揃えられた椅子の一つに座った。

シュブールに促されて俺も椅子に座った。

目の前にはお茶とお菓子が用意されている。

膝枕の時には空腹を感じることはなかったが、人の姿をしていると腹が減ってくるし、人間の持っている生理現象も戻ってくるようで・・・つまり・・・昨日シュブールが抱きついて来た時にはその・・・男の部分がしっかり反応していて・・・

ヒサコ「あら、どうしましたの?お二人ともお顔が真っ赤でらっしゃる・・・」

おい!シュブール!お前まで赤くなるな!
あやしいだろうが!

シュブール「で、では、本題に入ります」

お前、明らかに動揺してるだろ?ヒサコにバレバレだろ?落ち着け!

シュブール「ヒサムさん、先ほど謁見の間で感じられた違和感について話してもらえませんか?」

ヒサム確定か俺は?!
俺は国王、王子そして、ヒサコが入って来た時の違和感について覚えている限りのことを二人に話した。

シュブール「ふむ・・・つまり王子と姫の間に陰と陽の力が働いていると・・・」
ヒサコ「でも、私は何もしていませんわ。せいぜい杖で花びらを舞わせたくらいで」
シュブール「あぁ、あれには驚きました。いつの間に癒しの魔法を?桃色の花びらは癒しの神《ザーヒー》の祈り。回復系の呪文としては最高位のものです。」
ヒサコ「そうでしょ?私頑張りましたのよ!職務で疲れる殿下を癒して差し上げたくて・・・あぁこれも愛あれも愛多分愛きっと愛なのですわぁ」

シュブールと俺は苦笑いで返すしかなかった

水中花か!

ヒサコ「でも・・・そういえば・・・」
シュブール「何か、気になることが?」
ヒサコ「ええ、あの魔法を使った時に部屋中に花びらが舞っていたはずなのですけれど・・・

兄上の周りには一つも舞ってなかったのですわ」

シュブール「え?・・・それは、つまり」
俺「結界でヒサコの力を跳ね返していた、ってことだな?」
ヒサコ「まさか、兄上が闇の魔術に・・・」
シュブール「操られている、ということですか?」
俺「あの場で俺が感じたこととヒサコの話をまとめるとそうなるだろ?」

シュブール「実は・・・」

シュブールはそう言って一枚の焼けこげた羊皮紙をテーブルの上に置いた。
それは人の姿を模しているように思われた。

ヒサコ「なんですの?」
シュブール「式神です。東方の術式でこの紙に念を与えて私の僕として沿海州に放っていたのです。
式神のほとんどは反応を失い戻って来ませんでしたが、ただ一枚・・・このような姿で戻って来ました。」
俺「沿海州って、王子が海賊を討伐していた時か?・・・」
シュブール「ええ、。」
ヒサコ「でも、海賊たちと闇の魔術は関係ないわ、彼らは海の加護《シー・ザザーン》を受けているし、沿海州の民から奪うのではなく欲深い商人達からしか略奪行為は行なって来なかったじゃない!」

シュブール「だからですよ!」

シュブールは力強くテーブルを叩き、そして続けた

シュブール「荒くれ者達がなぜ沿海州の民を襲っていたのか、戦い方も異なる相手に劣勢だったはずの王子がどうやって勝てたのか?・・・
わからないんです!」

ヒサコ「シュブール、思っていることを正直に話して」

おい、お前ら、俺をほったらかしにするな!

シュブール「・・・最終的に海賊には勝った、ですがそれは王子と我が軍の力だけではないのでは、と・・・」
俺「は?兵隊もいっぱい連れてたしそれならそれなりの報告があるだろ?」
シュブール「王子以下、遠征軍が自らの力で海賊と戦って勝ったと思い込まされていたら?」
ヒサコ「!」
シュブール「ヒザーラ王子は私の知っている王子ではない可能性が」
俺「どういうことだよ?あそこにいたのは間違いなくヒザーラ王子だろうがよ?」
シュブール「ええ、あれは間違いなくヒザーラ王子です・・・肉体は」
ヒサコ「えぇっ!・・・」
俺「オイオイ・・・クソ軽い小説やおとぎ話じゃねーんだから、催眠術かなにかで操られてるってのかよ?」

シュブール「・・・」

シュブールは俺の方を睨みつけてこう言った

シュブール「これから話す事は根拠のない私の想像の範疇です。決して口外なきように」

ヒサコ「わかったわ」
俺「わかった」

シュブール「沿海州への進軍が罠だとしたら、
海賊達の略奪と見せかけて実は私たちを誘い出すことが目的だとしたら・・・?先に海賊達の命を奪って操り沿海州を攻める。
軍事力のない沿海州が頼るとすれば街道一つ隔てた我が王都・・・
劣勢であったにも関わらず神風とやらに助けられて勝てた・・・
でもそれはまやかし・・・」

俺「勝ったと思い込まされた?」

シュブール「そして、凱旋した王子が国を裏切る事になるのではな、と・・・」

ヒサコ「シュブール!やめなさい!これ以上私の兄を侮辱することは許しません!」

シュブール「ですが、これが一番容易く国を支配する方法です。」

ヒサコ「!」

俺「・・・操られた王子が国王になるということか!」

5.主領国


シュブール「おそらく」

俺「誰が仕掛けたのか分かってるのか?」

シュブール「いえ、今のところは・・・
ただ、あの謁見の間で起きたことと、この式神から推測できるとすれば・・・」

ヒサコ「・・・沿海州を調べる必要があるわね」
俺「沿海州が関わってるっていうのか?」
シュブール「沿海州の領主は奇しい術式を使うと聞いています。敵なのか味方なのか見定める必要はあるかと」
ヒサコ「私の杖も沿海州の領主から贈られたものなのよ」

シュブール「一年前、姫が闇の魔術を使おうとして杖から煙しか出ませんでしたがプッ・・・
あれは、沿海州からの貢物に目を奪われた姫のフフッ・・・やらかしだったんですけどね」
ヒサコ「シュ、シュブール!あれは私の若さゆえの過ちというものですわ!でも今はなんということでしょう!素晴らしい殿方と巡り合って今の私は満開のお花畑にいるようですわぁ!」

・・・頭もな

シュブール「とりあえず私は早駆けで沿海州に行ってきます」
俺「え?お前この後園遊会だろうが」
シュブール「あぁ、持病の癪がとか適当に言い訳しておいてください。幸い脳死には至ってないとか理由つけとけば問題ありませんから」
俺「雑だな」
ヒサコ「シュブールは今まで宴というものに出た事がないのですわ、これまでだって親戚を何人も死んだことにしてお葬式だとか縁起が悪いとか言い訳にしてきたのですわよw」
シュブール「・・・もともと苦手なんですよ」
俺「シュブールさんはコミュ症か?」
シュブール「違います!人が多いところがダメなんです!」
俺「友達いねーだろ?」
シュブール「そんなことないです!ひとりやふたりくらいいますから!・・・たぶん」

俺「俺が友達になってヤローか?」
シュブール「はぁ?!」
ヒサコ「あら、シュブール良かったじゃない!
見た目が良すぎて周囲から羨望の眼差しを独占していた割に本人が無自覚すぎてみーんな離れて行ちゃったんですものね」
シュブール「姫!」
俺「お前、いままで何人泣かせてきたんだ?」
シュブール「揶揄わないでください!」
ヒサコ「あらあら、でもただのお友達でいいのかしら?」
シュブール「だ!だからそういうことでは!」
ヒサコ「あらぁ・・・シュブール、
もしかして・・・あなた・・・あーそーゆーことね」
俺「どーゆーことだよ?」
ヒサコ「もう!鈍感なお方がここにもいらっしゃいますわー、どうしましょう大好きな展開すぎて体の奥が熱くなってきますわー!」

タヒね、と言うか・・・タヒね!

シュブール「と、とにかく、これから城を離れますので姫は園遊会のご準備を、それから・・・」

シュブールは俺の方をチラッと見て・・・

シュブール「ヒサム様にはヒザーラ王子の動向を探っていただきたいのです。

俺「どうやって?」

シュブール「こうやって」

俺「はぁ?!」

俺は案の定元の膝枕に変えられてしまった。

ヒサコ「まあ!枕!」

ヒサコが俺(膝枕だがな!)に飛びつこうとしようとするが一瞬シュブールの手が早く俺に辿り着いた

シュブール「すみませんがこのいい思い出のない箱に《大人しく》入っていてください。姫、この膝枕を兄君に差し上げてくださいませ、くれぐれも箱の中から出さないように、いいですね?!」

ヒサコ「何で私が兄上に私の膝枕様をわたさなければいけませんの?!そんなにあなたは私と膝枕様を生き別れにしたいのですか?」

馬鹿かお前は?!1年前のお前に俺が何をされたか聞いてこい!

シュブール「膝枕に頭を預ければ人は心穏やかになって心の隙間を見せるものです」
俺「真剣に言ってるのかそれ?新手の自己啓発セミナーか?」
シュブール「当たり前です。姫だってあなたの前では素直な女性だったでしょ?」
俺「あぁ、まぁ」
シュブール「それに、今回はお誂え向けです。
母君の思い出の膝、にしてみました」
俺「お前、絶対に遊んでるだろ?」
ヒサコ「まぁ兄上は相当なマザコンでしたから、
少し私がからかっただけで母上のところに泣きついて行ったものですわ」
シュブール「ですから、あなたには王子のそばにいて頂いてその最強の母君の膝で王子の心の隙間に入っていただきたいのです」

俺「どうやって?」
シュブール「こうやって、姫!」

ヒサコ「え?あぁ・・・

あーーー!ヒサコ、なんだかとっても疲れましたわぁぁぁ!」

わざとらしい芝居をしながらヒサコは俺の膝に頭を預けた。

ヒサコ「あーーー、ヒサコ、なんか心が落ち着く・・・今までにないフィット感・・・癒されるーーースヤァ」

シュブール「はい!終わり!」
ヒサコ「えー!もう終わりですの?
ここから始まる二人のラブゲームですのに」
シュブール「邪魔をなさるならとっととお国にお帰りください」
ヒサコ「ブーブーブー」

シュブール「こほん!ヒサム様の身の安全のために式神を本体に貼り付けておきます。
一度だけはあなたの身を守ってくれます。」

俺「ありがとな」

シュブール「それから姫」
ヒサコ「なにかしら?」
シュブール「園遊会の間これを持っていてください」
ヒサコ「これは?!」
シュブールはヒサコに短剣を差し出した
シュブール「今夜何か起きると言うわけではありませんが、王子・・・の中の人が罠を仕掛けてくるやもしれません。この短剣は護符を溶かして作られていますから、闇の魔法を跳ね返してくれるはずです。」
ヒサコ「魔法なら私も使えますわ」
シュブール「姫、姫の魔法は最後の望みになるやもです。今はお控えください。」
ヒサコ「わかったわよ!」

シュブールは早駆けで沿海州へ向かった。

ヒサコは、
昔懐かしい箱をまじまじと見つめていた

ヒサコ「あぁ、膝枕・・・いえヒサム様、少しの辛抱ですわ、あなたの身に危険が及びそうでしたら私が全身全霊ありとあらゆる力を使ってでもお助けいたしますわ、それまでがまんしてくださいね!」

心配だ、激しく終了フラグが立ったとしか思えん

そうしているうちに園遊会の準備ができたとシュブールの侍女たちが伝えてきた。

俺は、生き残ることができるか?

〜第二章に続く〜

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