沿海州の亡霊・第二章~転生したら膝枕だった件

6.早駆け

早駆けを繰り返しながら、シュブールは街道を南下していく。
木や建物など物理的に動かない対象物に式神を念動で貼り付けては、移し身を使って身体と式神を入れ替え続けることで風よりも疾く移動する。

入れ替わった式神を念動で回収しながら沿海州へ急ぐシュブール。

本来は魔術師が戦闘時などで物理攻撃を回避するために考えられた術式の組み合わせであるため、
走ることもなく二点間を瞬時に移動できることで体力を必要としないが・・・
念動、移し身、念動を繰り返す必要があり、魔力と精神力を相当消費するため、
上級魔術師でも連続で発動させることは難しいとされている。
馬で走っても3日はかかるという街道をシュブールは2時間ほどで駆け抜けようとしている。

なぜ、彼にはそのようなことができるのか?

シュブール「根性です!」

どこかの宇宙戦艦の下に付いてる3番目の艦橋かお前は?!

森を抜け、宿場町を抜け、ただひたすら南へ・・・

式神を飛ばしていく

シュブール「さすがにこれだけ続けると堪えますね・・・」
相当な疲労感が襲ってくる。
さすがにこれでは辿り着くのが精一杯と察したシュブールは、一本の大きななんとも不思議な木に目をつけた。
シュブール「ここで回復しますかね」
そして式神を木に向かって飛ばして・・・

ところが
わずかに魔力が足りなかったのか、
式神は木のある場所まで辿り着かず
何もない空中に飛ばされ
ひらひらと地面に向かって落ちていく
シュブール「しまった!魔力が・・・」

お分かりいただけるだろうか
シュブールが早駆けする目標は式神のある地点である
そして今、式神は重力に逆らえず地面に向かって
「ゆっくりと」落ちていく・・・
最悪のタイミングで式神と入れ替わったシュブールの姿で・・・
2mくらいの高さからゆっくりと・・・
シュブール「あと・・・少しだったのに・・・」

最後の早駆けは失敗であった。
今までの魔術の反動がシュブールの身体を痛めつける。

薄れていく意識の中、
シュブール「せめて・・・もう一度だけ・・・あの膝枕に頭を預けたかった・・・」

いや、そこじゃないだろ

地面に叩きつけられた衝撃でシュブールは意識を失った。

眠るように・・・

娘「目が覚めましたか?大丈夫ですか?!」

硬い床がガタガタと揺れている。

シュブール「・・・ここは?」
娘「馬車の上です。あなた、道端で倒れていらしたのですよ」
娘は傍に置いてあった水袋をシュブールに差し出した。
水袋を受け取り、勢いよく水を喉に送り込む。
咳き込みながらもようやく意識がはっきりしてくる。

シュブール「これは・・・すみません!どこに向かっているんですか?」
娘「沿海州です。あなたも沿海州に向かわれていらしたのですよね?」

シュブール「なぜ・・・沿海州に向かっていると?」
娘「申し訳ありませんが持ち物を改めさせていただきました。
沿海州はこのところ物騒なことが続いておりますので・・・」
シュブール「!」

シュブールは懐に隠していたものが見当たらないことに気づいた。」

シュブール「あなたは・・・?」
「私の名前はニィナ・・・ニィナ・ピロゥと申し上げればお分かりになりますでしょうか?
上級魔導師のシュブール様」

シュブール「沿海州・・・領主!ニィナ殿か?!」

<第一章 第三章>

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