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小学生の後ろ姿

歩道を歩く小学生3人。
2人は背が高く、服装も大人びている。
残りの一人は、すこしちがう雰囲気をまとっている。

歩道は2人で歩くにはゆったりしているけれど、3人にはきゅうくつにできている。

1人がおくれがちである。ストライドのせいか、時折あらわれる障害物で身を引いてしまうせいなのか、妹らしき子が後ろから話しかけてくるせいなのか、いろんな要因で後れを取る。
妹なんて相手にしてる場合じゃない、タタタッと2人を追いかけて、話題に必死に食らいつこうとしていた。

ううっ…がんばってるな…
ポジション取りは子どもの世界もシビアだ。

うちの子どもの同級生で、個人的に苦手な子がいた。わたしが同級生で同じクラスだったら、対極にいて関わらないと思うような子だ。
なんといったらいいのか、うまく立ち回るために演じている感じ、ストレートではないまわりくどさなどがどうしても…ムリ。

小学校に上がってすぐ、近所の親子4組で顔合わせをして「一緒に帰ってくるんだよ~」と申し合わせをした。一年生の親あるある。その中にその子もいた。
便宜上、作られた一緒に帰るグループなので、仲良くしてくれたらなぁとは思うけれど、仲良し関係が永遠に続くなんて思っちゃいない。そんなことはわかってた。

今だったら…「そんな面倒なことしか起こらなさそうな取り決めやめようよ」ってどん引きで逃げる。でも、そのときはまだわたしも若くて青くて、子は一年生で、一年生なんてものは心配のかたまりでしかないから。体よりランドセルの大きさが勝っているうちは、近所の子と群れてくれたら、親も子も安心だし助かる。なんせ学校は遠かったし交通量も多かったし、子は寂しがりやで泣き虫だったし。

そんな打算でスタートしたグループは、わりと早い段階で脱退者が出た。
抜けた親子とは一番関わりが薄くて、車でよく送り迎えをしていたから、それはそれで事情があるのかな、などとのんきに思っていた。

あるとき、3人が並んで帰っている2メートルくらい後ろを、抜けた子が歩いているところを目撃した。
なにこれ?この距離感なんかおかしくない?合流しないのはなぜ?わけがわからなかった。

うちの子にも聞いたけれど、よくわからないけどいつの間にか一緒に帰らなくなって、近くを歩いていても入って来なくなってしまったと言う。

学校行事のときに、抜けた子のお母さんとばったり会ったので「なにかあったの?どうして?」と聞いた。今にして思えば、その聞き方、なんもわかってねえな、って感じで申し訳ないんだけど。
すると「あの二人ってどういう子なの?」一応うちの子は除かれていたけれど、お母さんは怒っていた。
うちの子が習い事かなにかで学校から直行する曜日があって、その日は3人で帰っていたのだけど、なんとなく雰囲気で仲間外れにしてくることが続いて、一緒に帰るのをやめたのだと。
ちょっと距離をあけたり、歩くペースを変えたり、二人だけで話すなど、ぼや〜んと外されてる?みたいな。
その子をいない感じに扱うのだそう。

まだ一年生なのに?親子で小さいころから知っているのに?だれも悪い子に思えないのに?それでもしっかり人を排除するなんてことをやってのけるんだーということが衝撃的で。

そのお母さんには、先方の親への口止めをされた。
うちの子にも聞いてみたけれど、やっぱりわかってなくて、こういうことがあったみたいだよ、とだけ伝えてみた。

それから、そののち。

うちの子たちの下校の様子が「なんかおかしかったよ」という情報がわたしの小耳に引っかかった。別ルートからも「大丈夫?」とタレコミがあった。

次はうちの子か。来るべき時が来たな、と察知した。

子どもに探りを入れてみると、
その雰囲気がなんとも表しがたく、自分のされていることをどういう言葉に置きかえたらいいのかわからず困っている様子だった。「前に抜けた子がされていたことを、今度はあなたがされているんだよ、あの子がされていたのは、これなんだよ」と伝えた。

でも、その子のようにスパッと抜けられるかっていうと、毎日一人で帰るのも寂しいし、いつも意地悪というわけでもなく、ふつうに楽しい時もあるし、って。
まるでᎠV男。そして君はそんなダメ男と別れられない女じゃないか。

このときは本人が態度を決めかねていたのでそのままにになった。

時は流れて。

あるとき子どもが「あんなこと何回もするのは友だちじゃない」と怒りながら泣きながら言った。
そうかそうか、やっと決心ついたか~待ってました~そんなDV野郎とは別れちまえって感じで。

翌日、うちの子は2人に「もう一緒に帰らない」と宣言した。
すると「え~どうして~一緒に帰ろうよ~」
どの面下げてそんなこと言えるのか理解に苦しむが、そういう反応だったらしい。

その日、わたしの友達がたまたま下校するうちの子の姿を見かけて、電話をかけてきた。
「2人の少し前を一人で歩いてるよ、泣かずにしっかりした顔で歩いてるよ、がんばってるよ~」って実況中継してくれた。
慌てて迎えに出た。
口を真一文字に結んで胸を張って歩く我が子がいた。
勇姿だった。拍手したかった。泣きそうだった。

後ろの2人は、わたしに気付いて「一緒に帰ろうって言ってるのに先に行っちゃうんだよね~」みたいなフシギガオをしていた。
わたしにはそう見えた。

大人げないけど2人のことを完全に無視して、
「よくやった~がんばった〜」と子どもの頭をガシガシして肩を抱いて家に入った。


それから何ヶ月か。
親の介入とか、わたしが体調崩したりしてたいへんだったけど。

仲間外れはそれが初めてでも、最後でもなくて、数年はその手の心配が続くんだけど。

いろいろあるよね〜ってなことをつらつらと思い出した、どこかの知らない小学生の後ろ姿だった。



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