ダンスダンスダンス

祖父の法要で久しぶりに母方の実家へ。
渓谷近くの山道沿いに立つその家は、
子供の頃から大好きな場所だ。
もう築40年は越えているであろう、
底冷えのする一軒家、その夜は
2階に夫と息子と布団を並べて川の字で眠った。

首元あたりから夜の冷気が入ってくる。
うつらうつらしていると、
なんとも形容し難い音がする。

バタバタバタバターっ、ドンっ
バタバタバタバターっ、ドンっ

足元に何やら気配、
それが這い上がってきたかと思うと
胸の上にとんでもない衝撃があり、
悲鳴をあげる寸前で、その気配が消えた。

えっーーーっ、今の何なん?!

数秒頭を巡らせて、
ある事実が浮かび上がる。

ギョエーーーーっ!!!!!!
わからんけども、たぶんたぶん、
ネ、ネ、ネズミやーーーーん
(すべて心の声)

あわてて横で眠る夫を起こそうとしてはっと。
とにかく怖がりな彼は、
ネズミと知れば大騒ぎするのはもとより、
さらにはもう二度と
この家では眠れなくなるに違いない。
母心、いや優しい妻心がすんでのところで、
叫び声を出すのを思いとどまらせた。

激しい動悸を抑えながら、
なんとか布団から這い出て、
腕を伸ばし、襖を少し開ける。
依然、バタバタと一匹運動会を繰り返していたネズミが、
(暗闇なので見えてはないけれど)
なんとかその隙間から出て行き静寂が戻る。

はぁーーーっ。
死ぬかと思った。

もーっ、ネズミが夜バタバタと
さるきまわってから、大ごつったい!

昼間聞いた、祖母の言葉が蘇る。
そうか。
件のネズミが屋根裏から降りてきたはいいが、
四方が塞がっていることに狼狽え、
逃げ場をなくし、襖にぶつかっていた音だったのだ。

そしてパニックになったネズミは、
こともあろうことか布団に潜り込み、
体の上を這いあがると、
混乱と恐怖の極み!!!(ネズミもわたしも)
人様の胸の上でグルグルと高速回転を繰り出し
ほうほうのていで、布団迷宮から脱出したのだ。

ネズミも必死だっただろうが、
わたしの衝撃と恐怖たるや!!!
なかなかおさまらない動悸がそれを物語っていた。
そうはいっても、しばらくするとやはり眠気が勝ち、
暗闇の中、また体をまるめ目を瞑ったのだったが。

ばあちゃん、昨日の夜、出たよ出たよーー
ネズミがぁーーーー

翌朝、大騒ぎしたことは言うまでもない。
胸の上で、ネズミにダンスされた女。
近年、なかなかいないのではないか。
もう、二度とそんな目にはあいたくないけど。


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