ネクストとダーク、2つのファンタジーについて思うこと

 どうもこんにちは。

 実は去年ぐらいから訳あってWeb小説について定期的にチェックする機会があり、その中で色々読んだりなんだりしていました。
せっかく色々見てきたので、感じたことをつらつらまとめようかなと。もしこれを読んでいるあなたが書き手やプロの作家でしたら、読み専のたわごとという事で片づけて貰えれば幸いです。(つまり怖い反応はよしてね、という事です)

 Web小説でとりわけ人気の高い「異世界を舞台としたファンタジー」についてのお話です。

相反する2つのファンタジー

 タイトルにもなっていますが、最近のWeb小説でよく見かけるキーワードに「ネクストファンタジー」と「ダークファンタジー」というものがあります。簡単にですがそれぞれ紹介しましょう。

■ネクストファンタジー

 ネクストファンタジーとは平たく言えば「なろう系」と呼ばれるファンタジー作品です。おそらく初出は講談社のレーベルである「レジェンドノベルス」で、「なろう系」という括りを一般化するにあたって編み出された単語かと思われます。他にも「次世代ファンタジー」とか「新世代ファンタジー」とか色々言葉はありますが、いずれも指しているものは大体同じです。

 その特徴は一言で表すなら「ゲームライク」。ドラクエやFFといったコンピューターRPGのようなシステムが、そのまま異世界に組み込まれているという世界観が多いです。
例えば様々な「スキル」という特殊能力が使えたり、経験値を貯めてレベルアップができたり、あらゆるものがランク付けされていたり、どこからともなくコマンドメニューが開けたり…
この世界観については敢えて言及しませんが、ともかくゲームによくあるシステムがよく下敷きになっているのです。

 おそらくこういう下敷きはネクストで好まれやすい筋書きと相性が良いんだと思います。
このジャンルでよく描かれるのは「異世界に極めて強力な力を持って転生(転移)する」、「仲間たちから不当に追放された途端、力が覚醒する」などといったもの。こういう場面で手にした力がふわっと抽象的だと本当に主人公が強いのか分かりません。手にした力の分かりやすい指標として「スキル」や「ステータス」というものがあるのでしょう。

 上の話でなんとなく想像がついたかもしれませんが、ネクストファンタジーの物語は基本的にシンプルです。主人公が最強か、あるいは何でもできて、大体の問題はあっという間に片づけられる。そして悪者や追放した連中はどこまでも悪であり、勧善懲悪が徹底されています。昔話の絵本並みの分かりやすさです。
そう、よく重要視されているのは「スカッとできる」「気分が良くなる」という点なのです。
落とされるのは初めの1回だけ、あとはひたすら上がっていくのみ。敵は必ず倒され、あるいは勝手に自滅し、あとは仲間とワイワイしつつ世界を練り歩く…そんなストレスをどこまでも排除した作風がネクストの特徴でしょう。
文章も分かりやすく複雑な表現は使わず、すいすい読めてすいすい楽しめる事を良しとしています。

 いまWeb小説発で書籍として出版されている作品の多くはここに属しています。

■ダークファンタジー

 一方ダークファンタジーは昔から存在する用語です。ウィキペディアではこんな感じに定義されています。

ファンタジー作品で、重苦しい雰囲気や悲劇的展開、残酷な描写や過激な性描写など、主人公をはじめとする登場人物にとって不条理な世界観などに重きを置いているものを指す。(Wikipediaより)

 全体の割合で言うならネクストの方が圧倒的に多いのですが、それでも一部の小説投稿サイトでは数多く投稿され注目を集めており、ここ1年前後で日に日に存在感が強まっているジャンルでもあります。
その理由はずばり、このジャンルに「書き手が思い思いのこだわりを詰めた作品」が多いから。それ故に世界観もネクストと大きく異なり、ことWeb小説においては「本格ファンタジー」と謳う作品もスタンスはダークファンタジーと近い事が多いです。

 まずネクストでよく見かけるゲームライクな表現は極力用いられず、魔術やスキルは世界観に合わせた表現・設定に落とし込まれています。そもそも主人公が極めて強いとも限らず、一般人と変わらない弱さからスタートする作品もあるので、強さをアピールするためのゲームライクな表現は不要とも言えます。

 そしてダークというだけあって、前述の通り退廃的な世界や凄惨な過去(もしくは未来)が多用されています。特に「凄惨」というのは多くの作品に共通している要素で、かなり激しいグロテスク・ゴア表現を用いているものもあれば、一般的な倫理観からかけ離れた行いが随所に散りばめられたものもあります。人によって手法は様々ですが、元を辿るとこの点によく集約されています。
これは「勧善懲悪」や「爽快感」とは非常に対称的で、作中の人物と同じように読者も葛藤や動揺に引きずり込む展開が多いです。人間関係を複雑に描き、善悪を安易に区切れない構造にした作品もあります。

 そんな感じなので、ダークファンタジーでよく重要視されているのは「重厚さ」や「緻密な世界観」、あと人によっては「巧みな文章表現」という点と言えるでしょう。話の世界観や展開だけではなく、非常に豊富な語彙力で読み手を魅了する作品も、自分が見てきた中では多い傾向でした。


 ざっと紹介する中でお気づきになったかもしれませんが、ネクストとダークは様々な点で対照的な造形ですよね。
シンプルと緻密、軽快と重厚、ファンタジーとひとつに括る中でこうも違いが出てくるものかと個人的には驚く所ですが、日本のファンタジーは小説だけではなくアニメやゲームといったポップカルチャーの影響も多分に受けて発展しているので、ある意味必然的ではあるのかもしれません。

Web小説のファンタジーの源とは?

 先ほどポップカルチャーの影響を受けていると書きましたが、実はこれ、ネクストに限った話ではないと思うのです。

 自分は作品をいろいろ読む中で、特にダークファンタジーに対して「既存のライトノベルとは作り込みが違う」という評価をよく見かけました。
そこでふと思ったのです。となればダークファンタジーを書く人たちは、何を発想の原点としているのだろう?と。
既に色んな方が語ったり分析したりしていますが、昨今のライトノベルとして世に出される作品の多くはネクスト系です。そしてこれがビデオゲームやアニメ等を土台としていることは前述した通り。
つまり今出ている新作から影響を受けてダークな世界観を作るのは容易ではありません。さらにAmazonのランキングをさらってもそのような作品はほとんど見かけず、洋書でも「ハリー・ポッター」や「指輪物語」といった名作が今でも売れている姿を見るのみです。

 そうなると、個人的に思い当たる源泉はどこかと言うと、それがポップカルチャーなんです。
ネクストが土台とするゲームはいわゆる王道的なRPGやオンラインゲーム、もっと言うとソシャゲなどが多いです。こういった作品に出てくるシステムや雰囲気が小説としてそのまま落とし込まれているのです。
対してダークが土台としているのはおそらく、「ニーア」シリーズや「The Witcher」「UNDERTALE」といった、緻密な世界観や心揺さぶるストーリーを評価されている作品なのではと思ったのです。
ちょっと小説から逸れますが、実際ゲームの業界でも小規模なスタジオや個人製作の作品には、考えさせられる物語やディストピア的世界、コンプライアンスを恐れない極めて凄惨な設定を織り込んだ作品が多いです。表現の美しさにこだわったアートのような作品もあります。
ゲームにおける多様化は、Web小説においても無縁ではないのかなというのが個人的に思うところです。

 もうちょっと話を飛躍させると、音楽も無縁ではない人もいるかもしれません。
これを読んでいる方にもファンがいらっしゃるかもしれませんが、幻想的・退廃的な世界観を歌い上げるアーティストの存在も大きいと思うのです。「ALI PROJECT」や「Sound Horizon」などがそうですね。
自分も昔初めて聴いた時は衝撃的だったのを今でも覚えていますが、過去に聴いて影響を受けた人は少なくないのではないかなと。
直接聴いたことは無くても、上記のようなプロのアーティストから影響を受けたアマチュアの方々がVOCALOIDを用いて数多くの楽曲を作り、一部の楽曲は小説にもなったので、そこから吸収した方も多いかもしれません。

 あと欠かせない所としてはTRPGもあるでしょう。
「ダンジョンズ&ドラゴンズ」や「ソード・ワールド」といた昔からの名作はもちろんですが、ダークという面でいえば「クトゥルフ神話TRPG(クトゥルフの呼び声)」も外せないのではないのでしょうか。実際Web小説の投稿サイトでは「TRPGが好き」と公言している書き手の方もよく見かけます。
自分もルールブックを読んだことがありますが、あれ一冊読むだけでもとても想像力がかき立てられるので、自作の世界観のベースとしている人は多いのかなと思います。

 他にも挙げればたくさん出てくるのでこの辺にしておきますが、要するにここまで書いた中で何が言いたいかというと、「ダークファンタジーも想像の源泉を辿ると様々なメディアやポップカルチャーに行きつく事が多いのかもしれない」と思ったという事です。
もちろんですがダークファンタジーとはもとより線引きが難しいジャンルでもあるので、古典的な名作の影響を色濃く受けた作品もあると思います。
ただ、そういった名作や中世の歴史・文化を学ぶだけではこれだけ多様に発展させるのは難しく、そうなるとここ10~20年の様々なカルチャーがあるからこそ、ダークファンタジーも広がりを見せているのではと思うのです。

 ここで面白い対比があって、ネクストがベースとするのは国民的なタイトルやソシャゲといった「その文化に詳しくない人でも知っているもの」です。よくネクスト系で出てくる職業に「テイマー」や「鍛冶師」がいますが、これらが「ポケットモンスター」や「マインクラフト」の影響を濃く受けているのはちょっと読めばすぐ分かります。
対してダークがベースにしているのはその文化に詳しい人が好む、いわば「知っている人は知っているもの」がベースになりやすいのかなと見ています。俗っぽくいうと「沼にハマったもの」を原点としているという事です。そういう作品から得た設定や展開はただ有名どころをさらうだけでは得られないので、自分の武器として、そして教典とする人も多いのではかなと思います。

新たな人気作が生まれるために

 自分は「本来あるべきファンタジーとWeb小説のファンタジーがかけ離れている」と批判したいわけではありません。そもそもあるべき姿というのは時代によって変化しますし、故に「どの時代のどんな世界が好きだったか」という趣向の違いにしか帰結させる事ができないからです。

 現状に目を向けるとたしかにライトノベルの分野ではネクストが非常に強く、コンテストで受賞する作品もまた然り。おそらく出版社やレーベルも小説サイト上での支持率を優先している所は多分にあるのでしょう。しかもそこからメディア展開できる作品が今も生まれているので、方向性を安易に変えるのは売る側からすれば冒険です。
たしかにWeb小説の世界だけこうなっているのが不思議な所もあるっちゃあるのです。マンガやアニメでは重厚で複雑に描かれた作品が世間一般にも評価されてヒットしているのに、なぜライトノベルの分野でだけこの作風が浸透しないのか?
これはあくまで自分の憶測ですが、ダークファンタジーは他メディアの他作品の評価が高い故に、非常にハードルが上がっているジャンルなのかもしれません。マンガにはイラストという強力な付加価値がありますが、小説ではそういった付加価値を抜いたうえで、並ぶぐらいの面白さが求められるのです。これは素人目で見ても容易い事ではありません。

 でも書籍として世に出すという事は、他のメディアで目が肥えた人々の目にも留まるという事であり、「これはその壁を越えられる!」と胸を張ってスコップできる編集者は非常に少ないのではないかと思います。
幸か不幸かわかりませんが、今のネクストファンタジーはある意味唯一無二のジャンルです。あまりにも桁外れに強い主人公や徹底した勧善懲悪は最近のマンガやアニメでは少なくなりました。「競合が少ない」というのは市場において有利であり、需要が集中しやすいとも言えます。そんな固有の地位を担っている側面がある以上、それを放棄しろなんて言われても簡単な事じゃないわけです。

 ではダークファンタジーが小説として市場を得ることはできないのかと言われたら、それは必ずしもそうとは限りません。
なにせネクストがネット上の読み手から支持されて成立したものですから、ダークも同様に読み手からの支持をどんどん増やすことが出来れば、好機は必ず訪れるでしょう。
簡単に言ってくれるなとお思いの方がほとんどだと思いますが最後まで聞いてください。先ほども書きましたが、方向性は違えどネクストもダークも現代のメディアや文化を吸収して発展している点では同じだと見ています。つまり対立すべきものではありません。対照的とは言いましたが、優劣を決めるのは全くの野暮です。
なので対立構造というのは双方にとってデメリットしかないと思うのです。せっかく「自分ならではの世界観」を持っているのですから、その点を踏まえた上で自分自身の魅力を界隈の内外問わず発信していけば、必ず高いハードルを飛び越え、市場を広げる事はできると見ています。


 自分はここまで散々ネクストとダークという軸で書いてきましたが、実を言うとこういう二元論は個人的に好ましくありません。なぜならこのどちらにも属していないファンタジー作品も数多く存在し、かつクオリティの高いものも確かに存在しているからです。
正直な話、昨今のWeb小説で一番表舞台に上がりにくいのはこの「無所属派」だと思っているんです。ファンタジー小説について意見があると大体ネクストかダークの話になるのですが、そうなるとそんな括りにこだわらず細々と面白い作品を追求している人が目立たなくなるという弊害が生まれるのです。
対立構造にはデメリットしかないと言ったのはこういう意味もあります。どちらが主導権を握るかではなく、「多様な軸が存在している」という状況にならないと、二元論ばかりが目立ってしまう。
そんな状況が少しでも解消され、多様な作品が日の目を浴びてほしいなぁというのが、ここまで長々と書いてきた中での、実は自分の本心です。

 いやぁここまで書くと反応が怖い。特定の何かを貶めているつもりは一切無いのですが、そう捉えられると怖い。コメント欄を閉じるために有料記事にしようかなとも考えましたが、他の記事は無料でこれだけ有料なのも違和感なので止めました。なので今日から毎日恐ろしいコメントが飛んでこないか祈ってから寝ることにしますはい。
今の自分はネクストだろうとダークだろうと何だろうと面白いと思えば読む人なので、そういう人がもっと増えたら嬉しいですね。

 それではまた。

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