嗅覚が、どえらい鈍い女
あらゆる動植物が芽吹き、「我こそは」とその生を謳歌している。その生を次に繋ぐべく、あらゆる手段で「コマしてやろう」と考える。そして、命をつなごうと輝く時。または危険にさらされる時。死にゆき腐る時。なんやかんやのあらゆる場面でやんごとない、臭いを発する。
どうも、絶賛左耳が臭いCHOCOです。変な汁が出てて、永遠に治りません。甘い言葉をささやくときは、右からどうぞ。向かって右です。お忘れなく&お間違えなく。
思春期の息子が臭い。うまれた乳児の頭が臭い。旦那が臭い。こんな話を幾度となく聞いてきたけれど、共感したことがない。いや、においがする時はある。確かにあるのだけど、ストレスを感じるほどではない。たぶん、体のあらゆるセンサーが鈍いんだと思う。
例えば、カメムシ。CHOCOにはその臭さが全く分からない。青っぽいにおいがするな、とは思う。でも気にならないから、そのまま掃除機で吸う。でもそれは他の人からしたら狂気の沙汰に思えるらしい。だって、紙パックを取り換えない限り排気口から永遠にカメムシの臭いが撒き散らかされるのだから。3LDK、エコキッチン、カメムシスメルの一戸建て。
まだ使えるのにな、と思いながら紙パックを交換する。CHOCOはなんと家族思いなんだろう。
学生の頃、みんなが恐れおののく先生がいた。体質的な臭いと、たばこ、コーヒー。ありとあらゆる臭いの原因を全身に纏って、教壇に立っていた。生徒たちはその授業の前になるとマスクを装着した。ある者はエイトフォー的な物を教室が真っ白になるまで噴射し、ある者はミンティア的なものを大量に口に含み、じっと耐えていた。それでも耐えきれず退室する者も少なからずいた。
そんな中、アロハシャツに短パンという防御力ゼロで臨むCHOCO。風下は俺に任せろ!レジェンド誕生の瞬間だ。
大人になったある日、CHOCOの腕が上がらなくなった。背中にあったできものが巨大化、炎症を起こし神経か何かに触った(?)のだろう。何をするにもビキビキと痛み、着替えすらままならなくなった。このできものは、ずっと「在った」。ウェディングドレスのバックショットにもその姿が映り込んでいるのが確認できる。ふにふにとやわらかく、でかくも痛くもならなかった。永遠の愛を誓った瞬間、誰よりも近くで見守っていてくれた。彼よりうんと長い付き合いなのだ。そんな仲だった。それなのに突然、暴徒と化した。
いてもいられず、皮膚科に駆け込んだ。
女医は一瞥し「これは粉瘤ですね」といった。皮膚にポケットのようなものができ、その中に老廃物や何かが溜まる。早くにきてくれれば袋ごと摘出できたのに、今回は何かの拍子に雑菌が入って腫れあがり、袋の形もあやふやになっている。中身を抜いて袋もできるだけ取り除くが、時間がたつと再発するかもしれない。とのことだった。
そして背中の粉瘤に何かを突き刺した。刹那
「うええええええ!」「ぴやああああああ!」女医と看護士が叫びのけぞった。かわいそうに、たぶん汁がかかったのだと思う。父もわりとこういうのができる体質で、「でんぼ(彼は粉瘤のことをこう呼ぶ)はつぶれたらマジで臭い」という前情報だけは持っていた。その臭いのが、二人めがけて飛んでった。でも悲しいかな、CHOCOにはわからない。(背中側だし…)
「ばび、ぼべばびばぼ」「びばばぶばばばばびべぶぼべ、びょうぼぶびべぶばばい」「ぶぶびばびばぶぼべ、ばびばびべぼうぼ」
完全に口呼吸。美しいその顔は一切の表情を失っている。何を言っているかわからないなんて、とてもじゃないけど言えない。「わ、わかりました。すみません、ありがとうございました、失礼します」
もう、腕が傷むことはない。けれど、すこしだけこころが痛かった。
あれからさらに数年がたったが、粉瘤は再発していない。少し触ると、へこんでいるのがわかる。臭いに悶えながら、職務を全うしてくれた女医と看護士には頭が下がる思いだ。
晩御飯の用意をする。今日は肉じゃがにしよう。
「くっっっっっさ!!!!!!!!!!」
びたーんとこんにゃくがシンクに落下する。
こんにゃくのにおいだけは、どうしてもダメだ。
パクチーはまだ、食べたことがない。
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