猿サプライズ
上高地は徳沢キャンプ場近くの梓川に架かっている新村橋という吊り橋がある。キャンプ場からそれほど遠くない。橋を渡った近辺でコムラサキが給水をしていたので、ここでトラップを仕掛けてみた。
蝶用のトラップは、特に定番のものは無く各人の創意工夫で様々なものがある。例えば、蝶道(蝶の通り道)になっている河原に折り紙で折った蝶々を沢山設置してどの色の折り紙に反応するかを調査したり、車にひかれた蝶の死骸を集めて蝶の給水しそうな場所に置いておいたり、さらには真夏の山道に水を散布したこともある。事前準備が必要だが、酒、海老、鯛の頭など数種類の食材をミキサーにかけてペットボトルに入れ、一日放置して醗酵させたものを河原に撒いたりする。とにかく匂いが強烈な方が蝶が集まりやすい。マレーシアではこの様なトラップを数カ所に仕掛けたところ、場所によっては数十匹ほどの蝶が2時間くらいで集まって来た。
この度の上高地ではトラップの準備をしなかったが、携帯していたドライフルーツを混ぜて水をかけたものを石の上に置いてみた。1日目は1匹ほどしか飛来しなかったが、2日目にはコムラサキやヒカゲチョウの類いが何匹か集まって来た。
今回はそこに1匹の野生の猿が入り込み、トラップは破壊されるわ、蝶は逃げてしまったりと蝶の撮影が中断されてしまった。
でも、それは始まりであった。
近くの林の梢が揺れて1匹の猿が顔を出した。するともう1匹が近くの木の根付近から姿を現した。その1匹が橋のワイヤーを伝って橋本体に乗り移りゆっくりと渡って行く。
トラップで狼藉をした猿も含めて合計3匹が橋を渡っていく。
過去にも上高地では野生の猿を何度か見ていたのでこちらも慣れてはいた。猿の方も人に慣れているため一定の距離さえ保っていれば人の存在を無視して行動をしている。
3匹の猿を見送った後、再び私の後ろの林から4匹ほど出てきた。それも各々橋を渡っていく。過去、十数匹の集団を何度か見たことがあるので今回もその程度だろうと思っていた。ところが後から後から林の中から出てくる。つまり、私の周囲は猿だらけであったのだ。
渡っていく猿を数えていた。40匹までは数えたが面倒くさくなってやめてしまった。おおよそ50匹から60匹位の集団であった。私の立っている前50cm位を子を抱いた母猿が小走りで通り抜ける。ボス猿と思しき大きな体格の猿は堂々と通り過ぎる。さすがボスの貫禄というかオーラが凄かった。
ところで、ここで疑問が湧いた。最初の1匹の猿が橋を渡ってから最後の猿が橋を渡りきるまで約1時間ほどかかっている。橋の真ん中で横に寝そべる猿もいれば、子供達は河原で遊びながらワイヤーを伝って橋を渡ったり、と各々好きなことをしつつ間隔もまばらである。どのような意思疎通をもって「橋を渡ってある方角に進む」のか、とっても疑問なのである。最初に橋を渡ったのは恐らくボス猿ではない。若い猿であった。鳴き声で方向性を示すのだろうか。大きな集団をある方角に移動させる意思疎通方法に興味を持った。
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